自警団、依頼を受ける
貴重なタンパク源。(食虫の表現があります。)
俺たち自警団の仕事は多岐に渡る。
農業の傍ら、西の街道に抜ける平原の道の巡回と、周辺のモンスターの間引きと、順番に夜警をしたりしている。
基本的には、農業優先。
何かあった時に態勢を整えられるよう、団長でギルドの職員でもあるクレインさんを町に残し、俺たちは仕事をしていた。
早朝から害虫であり、自警団総出で貴重な蛋白源でもあるイナゴを獲った。
こいつらはあっちの畑からこっちの畑へと逃げ回るので、できるだけ採り逃さないように一斉に取り掛かるのが重要だ。
とはいえ、いくら獲っても完全にいなくなったりはしない。
せいぜい、食害を減らせる程度だ。
未来を荷う子供達に教えながら、どんどんカゴに詰めていく。
昼。
これだけの人手で獲ったので、今回の定例作業は終わりだ。
最低限の人数だけ残し、自警団員は散開する。
俺たちには、重要な作業がまだ残っている。
子供達に、この仕事の成果と報酬を、わかりやすく提示するのだ。
要するに、「お仕事は楽しい」と刷り込む作業だ。
食べ盛りの子供達の興味を引くには、やはりオヤツだろう。
獲ったイナゴを公共の釜で炒る。この釜は収穫祭などでも使う物だ。
この釜を火にかけるだけで、「わかってる」子供たちは目をキラキラさせて集まり、わかってない子供達も兄や友達がそこを離れないので、近場で遊んでいる。
まず、井戸から水を汲み、湯を沸かし、カゴごと湯に浸す。
これをしないと、釜に入れた瞬間、生きたイナゴが外に飛び出すのだ。
下処理を終えたイナゴは、すでにほんのりと色が変わっている。
水を切って火にかけた釜に投入する。何回かにわけて、だ。
横着して一度に全部炒ろうとすると、火加減にムラができてしまう。
見飽きた子供たちが駆け回ったり、逆に駆け回っていた子供たちが興味を引かれて集まってきたりしている。
もうちょっとかかるんだ、これが。
何しろ大量にあるし、近所に配れるほどだが、最初のイナゴは子供達に譲ろう。
俺ももちろん食うさ。功労者の特権、ってやつだ。
色が綺麗な小麦色になるまで、炒る。
これを怠るとサクサクとした食感が損なわれるし、やりすぎると焦げたり、味も何もないボソボソのブツが出来上がる。
しばらくすると香ばしい匂いが立ち込め、駆け回る子供達も減ってきた。
匂いに釣られたらしい。焦るな、もうすぐだぞ。
おや、見かけない人も寄って来た。こいつ、いいタイミングで来たな。
旅人らしいこの男にも振舞おう。元手が無料だしな!
ホナレの葉を折って炒りたてのイナゴを入れて、旅人を手招きして渡す。
旅人はきょとん、とした顔で受け取ったが、笑顔で礼を言った。
都会の出か、いいとこの生まれか。妙に礼儀の正しい奴だ。しかし悪い気はしない。
しかし、この後、ホナレの葉を開いて中身を見た旅人はそのまま固まり、・・・・・倒れた。
慌てて教会に行き、ヒーラーの女性を連れて来たが、ただの気絶らしい。
「世の中には、虫の苦手な方もいますから・・・」
と彼女は言っていたが、そういえば、彼女もイナゴは食べられなかったっけな。
しかし、まさかイナゴを見て気絶するとは・・・。
何事かと集まっていた自警団員達も、怪訝そうな顔を見合わせている。
とりあえず、旅人は団長の駐在している宿に運ぶ事にした。
宿には自警団の数名が屯していた。
人数が多い。何かあったのか?
「東の森に大きなフォレビーの巣があり、半分掘り出されているものの、まだ残っているらしい。」
一度自宅に帰った団員が持ってきた情報で、彼の奥さんが山のようなフォレビーを解体している宿の女将と話したと言うのだ。
はて?
「そんな山のようなフォレビーを持ち帰るぐらいなら、巣を持ち帰ればいいんじゃないか?
何故、フォレビーを持ち帰ったんだ?」
当然の疑問だが。
「『巣ならまた回収しに行ける、フォレビーを置いておいて、虫や獣に獲って行かれたらもったいない』だとよ。あと『セイタイケイの保全』?とか何とか。」
「はぁ?」
おいおい。誰だ、そんな阿呆な事を言う奴は・・と思い、聞いてみると鍛冶屋の娘だった。
これだから女って奴は。呆れるとともに、「ああ、それで宿屋の女将か」と合点がいく。
あそこは、旦那が「鍛冶場に女が入るなんて」とか言い出すもんだから、拗れて別居まで行ってるんだよな。
隣で宿屋をやっているだけ、まだ嫌われちゃいないようだが。
そんな話はさておき、これからその巣の様子を見に行って、場合によっては確保して来るというのが今回のミッションだ。
鍛冶屋の娘だって馬鹿じゃない。
町の問題児って有名だが、ちゃんと冒険者としての技術や知識を持っているし、巣を見つけて掘り出したってんなら、それだけの物を持ち帰っている筈だ。
変な噂話に乗せられて行ってみたら、何も残ってませんでしたって事もあり得る。
「ま、真偽はともかく、もしもそんな大きな巣が残ってるってんなら、幼虫も残っているはずだ。
たかがフォレビーでも、巣に近づけば群れで来る。下手に近付けば命に関わるかもしれないぞ。
一度はほとんどのフォレビーを倒したと言う話だが、噂はどう変化しているかわからん。
様子は見てきたほうがいい。行ってくれるか?」
団長の言う事はもっともだ。巣に近づいて死んだ新人冒険者の話なんて山ほどある。
そんな危険を減らすために、コランダ自警団は存在するのだ!
「「「おう!!」」」
俺たちは、隊を組んで森へと向かった。