賑わうギルド
服が水浸しになったのは、あれだ。
[人喰らい]と戦った時に、ワープポイントを持ってるキャラに変わって、水中に没したせいだ。
その後、ずっと252レベの方でしがみ付いてたから忘れてたけど・・・
そして、むわっと漂う濃厚な海の香り。ああ、磯の匂いってこれか・・・・・。
納得と理解と脱力をする。
「すみません、着替えのできる場所あったら貸してください。」
「ああ、もちろんいいが・・。」
奥の部屋に案内された。一応、客用の個室っぽかった。
テンション駄々下がりな俺を見て察したのか、特に問い詰められるような事は無かった。
が、
「あ!はだか!」
覗きは想定していなかった。
窓ガラスの向こうからだが、子供の声って妙に通りやすいんだよな。
「・・・・・。」
なんで来てるんだよ。ってか、その窓そんなに低い位置にないだろ。
どうやって登ったんだよ。深い溜息を吐きつつ、着替えを済ませる。
受付などがある広間に戻ると、子供らが入って来た。
・・・・・。増えてる。
「さて、遺跡についてだが、調査団の先遣隊が、今、キャンプをしている。」
調査団?遺跡の?
って事は、俺が無理に入らなくても勝手に調査してくれるって事?
「おお、良かったじゃないか。これで虫だらけにならなくて済むな!」
テンションが僅かに浮上する。
俺がやらなくていいとなれば、歓迎すべき事柄だ。
マリッサやギルディートが残念がるだろうが、正規の調査団が出るってんなら任せておけばいいのだ。
「虫?虫ってバッタ?」「イナゴじゃね?」「虫だらけになるの?」
「いっぱい捕まえてみんなで分けようぜ!」
そして僅かに上がった筈のテンションが、再び下降する。
それ、分けられる虫じゃないからな。お前らが思ってるより、遥かに危険で気持ちの悪い虫だから!
「良かったと言える結果になるかどうか。遺跡の調査といっても、隠された宝が目当ての集団だ。
トラップなど解除できないのなら破壊すれば良いという考えだ。冒険者よりも性質が悪い。
無駄にプライドも高いしな。へし折ってやりたいが・・。」
「俺は、破壊でも何でもして遺跡が安全になったらそれでいいと思ってるよ。
プライドなんて持たせておいたらいいさ。
そっちの方が何かあった時に性格で行動を読みやすいし、便利なもんだよ。
まぁ放っておいたらいいんじゃないか?」
うん。放っておくに限る。これが正直なところだ。
下手に触れれば厄介な事になるだろうし、勝手に解決してくれるのなら、それでいいじゃない。
団長は渋い顔をしているが、俺は方法が多少間違ってたとしても進めるならそれでOKだと思う。
攻略するのに犯罪とか起きないだろうし。
「それはともかく、蜂蜜のクエストだが、今日中にでもできるぞ。今日はコランダにいるのか?」
「ああ。何泊かできればと思っている。今日中ってどれくらいだ?」
マリッサは家族との団欒の時間が大事だし、もう2泊ぐらいはできるだろう。
空き時間はスザクのレベ上げができる。何故か付いて来たアーディが問題といえば問題だが・・。
ちなみに、俺がガキどもがわいわい煩いので、若干声を張り気味なのに対して、団長は普通に喋っててもよく聞こえる。
「昼過ぎだな。朝は皆、自分の仕事をしているからな。余分な事は午後にするんだ。
もちろん、午前中に自分の仕事が終わらなかった奴は参加できないが、それでもそこそこの人数になるはずだぞ。」
なるほど、このオッサンが午後から飲みに来ているのには、そんな理由があったのか。
つまり、一日の仕事を午前中に終わらせられる人、という事だ。
もしかして、実は相当できる人なのではなかろうか?
「じゃぁ、昼過ぎにここに来ればいいんだな?」
「いや、広場でやるから現地集合でいいぞ。広場なら宿からも見えるだろう。
人が集まってたら来てくれりゃいい。」
ふむ。
確かにそれなら俺は楽なんだが、下手すると待たせてしまうかもしれないな。
昼だの昼過ぎだの言われても、その辺に時計の無いこの世界では曖昧過ぎる。
時間がわかればいいんだが。
ちなみに、ゲーム時は現実の6時間に尽き、ゲーム内で一日の経過であった。
3時9時が夜0時。0時6時が昼12時といった感じだ。
だから、ゲーム内時間はリアル時間を見れば問題無かったわけで・・。時計が欲しい。
一応、全画面表示のプレイヤー向けに存在はしてたし、安かった筈だ。
だが、俺はウインドウ表示のプレイヤーだったし、PC以外の時計もあったし、買う必要性を感じなかった。
何も知らなかった頃に一度買って、すぐに売ったので持っていないのが悔やまれるが、俺だけ持っていても仕方が無い。
時計ってのはみんなが持ってて初めて意味のあるものになるからだ。
しかし、色々な店を覗いたが、時計を見掛けた事が無いんだよなぁ。
「せめて鐘でも鳴ればいいんだけどな。」
「お?祭りの銅鑼でも鳴らしてやろうか?宿まで聞こえると思うぞ。」
・・・勘弁してください。
ニヤリ、と団長が笑ったのがわかった。
コイツ、やる気だ。
俺はオッサンが早まった真似をしないように、現地には早めに行こうと心に決めるのであった。




