急転直下
さすがにここで走り去る訳にも行かず、何でもない顔をして通り過ぎようとした・・
というか、動揺し過ぎてそれ以外の選択肢が無かった俺である。
「知ってる!バッタ見て倒れたんだろ?」
「違うよ。イナゴだよ。」
イナゴもバッタじゃねーか。違わねーよ。ってか、何だよ。足元に来ると危ないぞ。
進行方向の関係上、駆け出して来たガキ共が進路上に飛び出す格好だ。
俺が馬車なら轢いてたね。ってか、いつもの速度なら馬車より酷い事になると思うよ。
ガッツリ抱きついてきた子供の一人を膝で受け止める形になってしまったが、ダメージは与えずに済んだようだ。
「あっ、悪いわね。」
母親らしきオバちゃんが出て来る。
早く引き取ってくれ。
「リフレとか言ったっけ?久しぶりじゃないかい?
マリッサちゃんとはどう?仲良くやってる?・・・――」
おいぃ?俺の足元見えてる?
いや、スザクじゃなくて俺の顔を見て話してくれるのは、ちょっと嬉しい気もする。
そうじゃなくてだね、このイタズラ好きそうな男の子2人、なんとかしてくれないか?
「――・・マリッサちゃんはああ見えて24だからね。ピチピチで可愛いだろう。
口は悪いとこあるけど、悪い子じゃないよ。優しい子なんだ。私が保証する。」
いや、あの子ドワーフ年で12歳だし。
口の悪さが致命的な時があるし。保証しなくても知ってるし。
「あの子が冒険者になったのはね、――・・。」
「それであの子は・・・――。」
「――・・ってわけなのよ。それでね。」
「あ、そうだ、俺、ギルドに用があるんでした。」
このタイプのオバちゃんは、相槌さえあれば・・いや、無くとも相手さえいれば何時間でも喋って来る。
付き合っているだけ無駄である。
というか、これに付き合っていたら、ただでさえ致命傷を与えられた俺の精神力が持たない。
しばらく話を聞いていたら、つまらなくなったらしい子供達が去って行った。
このタイミングで逃げ出すしかない。
「ああ、そうそう、ギルドと言えば――・・。」
しかし逃げ道は塞がれた!
俺は、営業に行って世間話をして帰って来る事の方が多いとか言ってた、元クラスメイトの話を思い出していた。
今でこそ、注文はネットだ電話だFAXだ、といった感じだが、若い頃は足で稼ぐ時代だった。
中卒で訳もわからず社会に出された彼は、真夏の玄関先で、ドアの影に入ったままのオバちゃんに捕まって、ひたすら喋り捲られてぶっ倒れたという笑い話だ。
2時間近くひたすら喋り捲られて一銭にもならなかったとぼやいていた。
今では当たり前の熱中症なんて言葉も、もう少し後になってから出てきたんだよなぁ。
ちなみに彼はかなり出世して、綺麗な奥さんと幸せに暮らしていやがる。
確か、支社を任されてるんだっけ?雇われではあるが、代表取締役社長という肩書きだったはずだ。
・・・・・。
ぼんやりと現実逃避をしていると、運の良い事に、別のオバちゃんがやって来た。
わいわい喋りだしたので、挨拶してそっと抜け出した。
たかだか15分程度だったと思うんだが、嵐のようなオバちゃんだったな。
「は・だ・か! は・だ・か!」
・・・・。
お前ら、まだいたのか。帰れ。もしくは何処かに行け。
無視して通り過ぎ、ギルドに入る。
可哀想ではあるが、ああいう奴は反応をするとエスカレートさせるからな。
鎮火させるのは、無視が一番だ。
・・・・・。
あれ?入る建物を間違えたか?
「おっ、リフレじゃないか。戻って来ていたのか。」
そこにいたのは、自警団の団長であり、ギルドマスターでもある・・・。
[クレイン]・・・そう、クレインだった。
「今、誰だっけコイツ?みないな顔をしなかったか?」
「あんたみたいな飲んだくれを忘れるわけがないだろう。」
名前は忘れてたけどな!
何故、建物を間違えたと思ったかって、奴と職員が仕事をしていたからだ。
団長に疑いの眼差しを向けられ、思わず目を逸らす。
「やれやれ。で、今日はどうした。」
「いや、ノルタークでクエストを受けてきたから、ちょっと遺跡の攻略が遅れるって話をしに来たんだよ。」
ふむ・・・と腕を組む団長。
一応、これまでの経緯をざっくりと話した。
「なるほど、ノルタークはそこまで深刻だったか・・・。」
うん、深刻だったみたいだ。
で、あと蜂蜜の樽への詰め替え作業を依頼したいんだが・・。
「まだ持ってたのか」って、そりゃ持ってるよ!
蜂蜜の買取?そりゃ買ってくれるなら売るけど、分配はどうすんの?
え?各自の取り分はもう取ってあるの?これ、みんな俺のなの??こんな蜂蜜ばっかりいらねぇよ!?
そんな感じで買取が決まった。
ノルタークで買った空の水樽を置いておく。まだ乾いてないので、乾燥もお願いしたい。
重いだろうからと蜂蜜の樽も置いて行けと言われたので置いて行く。査定でもしてくれるんだろう。
サブ鯖のキャラにも持たせているので、CCしながら置いて行く。
こんな事もあろうかと、リーフレッド以外には持たせて無かったのだ。
「・・・・・。」
「・・・・・何故、急に服が水浸しになったんだ?」
何故、こんなんばっかなんだろう、俺・・・・・。




