水浴びと休憩
あー、びっくりした。
あんな風に飛び散った溶岩で、周囲のフォンダンロックがアクティブになるとは思わなかった。
ゲームの時には無かった仕様だ。
どうやら、ダメージ判定もしくは一定ダメージでアクティブになるようだ。
それにしても、あそこは巣か何かだったんだろうか。
ものすごい数のフォンダンロックだった。
とはいえ、体積にしたら微々たる物だし、すぐに冷えて固まるだろう。
・・・固まるよね?誰かがあの飛び散った溶岩の上に座ったりとかしなければいいんだが・・。
ちなみに、アーディはドロップアイテムを収集しようとして火傷してた。アホである。
軽い火傷ならばいい薬なので放っておくが、割と酷い火傷をしていたので、万能薬で治療した。
「ささくれ切った俺の心を、水の流れが癒してくれる・・・!」
「いいからさっさと洗え。暗くなるぞ。」
日はだいぶ傾き、現在コランダのだいぶ川下で水浴びをしている。マリッサには上流を譲った。
川がほとんど真っ直ぐなので、パーテーションの意味があまりないが、うまく使ってくれ。
俺は危険人物を見張っている。
石鹸も貸し出したが、こいつ、川に落としやがるんだもんなぁ・・。
流されて転がっていく石鹸をなんとか回収したが、反省してる様子はないな。
こいつには高級品は貸さない方がいいだろう。
スザクはトイレと自主的にレベル上げをしているようだ。
フラウワをめちゃくちゃ食ってるあたり、ただの食事なのかもしれないが。
・・・うまいのかな?
さて、スザクを呼んで、出発する。
岩石地帯で走ってくれたおかげで、水浴びの時間を含めても完全に暗くなる前にコランダに着けるかもしれない。
夜を予定していたが、なかなかいいペースだ。
「・・・少し休まないか?」
今、休んだだろ?と思ったが、水浴びは休憩に入らないらしい。
そういうもんかな?
「結局、そのフォンダンロック?のせいで、休憩をしそびれたし、私も少し休みたいのよ。」
コランダはもうすぐそこみたいなもんなんだが、多数決で敗れてしまったので素直に従う。
そうでなくても、俺は疲れに疎いみたいなので、気を付けてやらないといけないしな。
「・・・何か、こう、摘めるものは無いのか?」
「調子に乗るなよ?」
ご褒美というやつは、ちゃんと言う事を聞く良い子に与えるものであって、いつ何をしでかすか分からない悪ガキ・・それも盛大に悪戯をやらかした直後にくれてやるもんではない。
少なくとも、俺はそう思っているので、水を飲みながら冷ややかに返答する。
コランダに付いたら、ゆっくり飯を食うわけだし、今ここで腹を満たす必要性を感じないしな。
うん?マリッサが何か言いたげに見上げてくる。どうしたんだ?
「悪かったのよ・・・・。リフレの忠告を・・・『危険』を舐めていたわ。
貴方が『死ぬ』なんて言うのだから、相当よね。ごめんなさい。」
ハッとしたようにアーディもこちらを見る。
「あ、俺も軽率な行動をして悪かった。」
「本当にな!!!」
マリッサはそこそこ重い口調なのに対して、アーディは軽過ぎた。
本当に悪かったと思ってるのか?こいつ。
謝罪は受け入れるが、今後、人の話は聞く事と、理由が知りたかったら説明を求める事、そして、行動に移す前に相談する事を約束させた。
まぁ、その約束も相手に反省の気持ちや、守るつもりが無ければ意味を成さない訳だが。
「・・・・・・。」
「・・・なんだ?そんな物欲しそうな顔をしたって何も出ないぞ。
コランダの宿の飯はなかなかのものだからな、ここで腹に何か入れるのは勿体無い。」
俺がそう言うと、アーディは不服そうであったが、マリッサが妙に嬉しそうにしていた。
女将さんはマリッサの母親だからな。親の料理の腕を褒められて悪い気はしないのだろう。
てか、アーディはオヤツが欲しかっただけだろ。今日は絶対にやらんぞ。
「・・・飯代が高く付いたりしないのか?」
不憫なレベルではないにしろ、アーディも案外、節約家である。
いや、もしかしたら、この世界の冒険者は皆こんな感じなのかもしれない。
事実、これまで装備に金を掛けている冒険者を見た事が無いのだ。
「安心しろ。手間がかかった分、値段が張るメニューも無いではないが、適正価格だ。」
「お前の適正価格が信じられるかよっ?!」
酷い言い草である。ちゃんと市場調査を行った上での結論だ。
飯については、色々な店で食っている分、価格の統計が取りやすい。
そして、今まで寄った店の価格を振り返ってみても、特に逸脱した価格だとは思えない。
どちらかというと良心的な価格なのではないだろうか?
これについては、俺よりもマリッサの方が詳しいだろう。
いつもなら「ウチは適正価格よ」とか言っていてもおかしくない。
が、妙に静かなのが気になって振り返ってみた。
「うーん、アーディに物申したい気持ちはあるのだけど、アーディの気持ちは痛いほどよくわかるのよ・・・。」
だから、それちょっと酷くないですかね?!




