クィーンフォレビー
とりあえず、森でマリッサに会ってからの一部始終を嘘偽り無く話す事数分。
マリッサが次の天秤棒を出すようにと呼びに来たので置いて来る。
そして再び連行され、マリッサとの関係を問われる事数十分。
身分についてはごまかし、フォレベア(頭のみ)を証拠として提出し、装備品を強請られた俺は非常に参っていた。
最後の天秤棒を出してきたが、お爺さん並びに親父さんは、何やらまだ納得がいかないらしい。
鍛冶屋の堅い椅子に座らされて尋問を受けていたところに、血相を変えた男が飛び込んできた。
「おやっさん!ボーラがクィーンフォレビーに刺された!」
クィーンフォレビー?
聞いたことのないモンスターに、思わず立ち上がる。
この世界の特徴だが、モンスターにはモンスター名がついているが、その他の生き物も存在する。
で、「その他の生き物」については、「元の世界」と同じ名前で呼ばれているのだ。
蜂とか蟻とか、そういうものだ。
その法則からすると、クィーンフォレビーはモンスターである。
ボーラというのは、多分、鍛冶屋の弟子の1人だ。
おっさん達について行き、外に出ると教会のお姉さんが東の門に向かうところに遭遇した。
確か、治癒の魔法ができたはずだ。
そこへ、タンカに乗せられた男が運ばれてくる。
顔が真っ白というか、ほとんど紫だ。どう見てもヤバイ。
「ヒール!」
そこに、HP回復の魔法が飛んできた。
「キュア!」
続いて、毒などの状態異常回復の魔法だ。
どちらにも反応が無い。
・・・・・・・・・・。
「ボーラ!」「ボーラっ‥!」「ボーラァア・・・」
駄目だそいつ、息してないわ。
家族らしき人が駆けつけ、手を握り、涙を浮かべている。
仲間らしき人が地面に拳を叩きつける。
そして俺は、蘇生アイテムを投げつける。
「かはっ・・・・っは・・・・・・・。」
お?生き返った?
「っ!ヒール!」
ボーラの体がうっすらと光る。
集中して見ると、回復数値が見えた。
[ボーラ]
状態異常とか残りHPをを見たいんだが・・・PTメンバーでもないから無理か。
回復数値が見えたって事は、ダメージを食らっていても見えそうなものだが、そんな様子は無い。
頬に赤みが差し、呼吸が整ってきているようなので、多分、なんとかなったのだろう。
さて、と。
「クイーンフォレビーはどうなりました?」
男をタンカに乗せてきた若い男に問う。
「みんなで押さえつけてんだ。でも堅くてトドメが刺せねぇ。
このままじゃ、また誰か刺されっかもしんねぇ。」
このイケメン、すげぇ訛ってんな。
「案内してくれませんか。何とかできるかもしれない。」
イケメンが当惑した様子を見せる。
こういう時は・・・責任者ァア!!!
「おい、兄ちゃん、“いなご”見て気ぃ失ってたろ?その・・・大丈夫なんか?」
あ、あああああ。見られてたのね。そりゃ頼りないと思うわ。
でも安心してくれ、これでも俺は252レベル。
カンスト廃人には敵わないかもしれないが、そこそこ強いよ!
・・・マリッサには普通に教えてしまったけど、ここは隠していく方針で行こう。
スキルも控えるが、それでも多分、それなりに戦えるはずだ。
俺のサムズアップを見て、案内してくれる事に決めたらしい若者の後に続く。
いざ!東の森へ!!!
門を出ると、装備に身を包まれたわけだが、若者の装備はしょぼかった。
逆に、俺の装備を見た若者は安心したような表情を浮かべた後、キリリとした顔をして案内しはじめる。
・・・・・。
・・・・・・・・。
遅っ!!!
この人、足遅いよ!
いや、息切らして動けなくなるくらいなら、走らずに全力で歩いて欲しい。マジで。
ほら、日が翳ってきてるけど!夕方になっちゃったけど!
女の子が相手なら抱えて走るが、野郎を相手にそれをやるのも嫌なので、我慢してついて行くことしばし。
ワイワイと人が騒ぐ賑やかそうな声が聞こえてきた。
いや、これは・・・
「あっちか?!」
俺が問うと、若者が頷いた。
喧騒のする方に駆ける。
聞こえてくる戦闘音。これは・・・。
「ガルムも刺された!盾をまわせ!」
「くっ、こんなチャチな盾、何の役に立つってんだよ!」
押さえつけられているという話だったクィーンフォレビーが、羽音を鳴らして自警団に襲い掛かっていた。
駆けつけた俺は、その状況に思わず立ちすくむ。
「うわぁ・・・。」
ミツバチとスズメバチを足して割ったような外見。
凶暴そうなアゴ。見るからに危険そうな飛び出す針。
呼吸をしているかのように蠢く腹。
そして何より
「デカすぎね?」
人の身長ほどもある、その姿に、思わず腰が引けたのだ。
とりあえず倒れている人の呼吸を確認すると、生きていたので万能薬を使う。
「・・・っ。感謝する。」
意識があったらしい。
死んでるかと思ったぐらいなのに。
「そっちに行ったぞ!」
その声に顔を上げると、クィーンフォレビーがこちらに突っ込んできた。
ああ、蜂って黒いものを攻撃するって言ってたっけ。
「ギギギキキキキキ!!」
俺の今装備してる上着もマントも黒っぽかったわ。ははは。
白っぽいのも、あるよ?セット装備じゃないからステータス下がるけど。
「近寄んなっ!」
ピシ・・・そんな音がして、蜂の頭からアゴにかけて縦線が入る。
が、
「ビィィイイイイイィイ!」
さすがに一撃とはいかないらしい。
ぐっ、この音は精神攻撃か・・・主に俺への。
「うるさい!」
首を跳ね飛ばす。
が、それでも生きて向かってくる!
しかも、鳴き声とは違うので音も鳴り止まない。
「うわぁぁああああ!!キモイ、キモイキモイキモイキモイキモイ!!」
尻の針を斬り飛ばし、胴と尻と分断させてもまだ生きていて、
頭の無い、羽と欠けた脚だけの胴体が、俺に覆いかぶさって来・・・・・
「いやぁぁぁああああああああ!!!!」
スキル:千斬乱衝!!!
俺は抱き着かんと迫り来る胴体を粉々にして、膝を付いた。
ダメージを食らったわけでは無いが、被害は甚大だ(主に精神的な)。
「見てよ、この鳥肌!」状態だけど、騒げるテンションじゃない。
異常な生命力を見せたクィーンフォレビーだが、さすがに翅だけになったら生きてはいられないらしい。
ってか、こんなの絶対にクィーンじゃねぇ・・・。改名を要求する!
ログを確認すると229の経験値が入っていた。
229・・・・。
これだけ酷い目にあって229・・・・・。
ちなみに。適性狩場での獲得経験値は、一体あたり5000を超える。
「割に、合わなすぎる・・・・・。」
俺は、木にもたれると、そのままへたり込むのだった。