出発→休息→再会
翌朝。
スザクの頭を撫でる俺。トサカの扱いに困っている。
これ、触っても大丈夫なものなのか?
スザクの朝鳴きで起きるのに慣れてしまった今、目覚ましのスイッチに見えない事も無い。
寝惚けて叩かないようにしないとな。・・そこまで寝惚けた経験は無いが。
身奇麗にして食堂に行くと、アーディが既に起きて飯を食っていた。
そういえば、昨日も気になったんだが・・。
「アーディ、なんか髪がベタベタしてないか?」
「あんまし洗ってないからな!」
「洗って来なさい。」
貧乏なはずのギルディートの方が、まだ身奇麗にしてたぞ。
・・・うん?そういえば、ノルタークに来てから徐々に髪の毛がペッタリしてたような・・。
「その辺の川で洗うぜ。この町は買わないと水浴びができないからな。」
なるほどな。
なんか、この町の人達って体臭がちょっときつい気がしてたけど、ケチってんのか。
マリッサも合流。何も言うまい。
飯が終わり次第、出立する。
そういえば、念の為にアーディには言っておかないとな。
「ギルディートが何て言ったかは知らないが、“おいしい仕事”とやらは今回、やる時間は無いぞ。
ただ行って、報告して、戻ってくるだけだ。それでも行くのか?」
「えー。あー・・うん、行くよ。」
あからさまにやる気を失うな。
良いんだぞ、留守番でも。
「宿代を奢ったりもしないぞ。」
念の為に釘を刺したら、絶望の表情を浮かべていた。
だから無理に付いて来なくていいってば。
それでも来るらしい。何なんだ?何がお前をそう駆り立てるんだ?
そして出発である。
ディアレイに付く前に川って・・・。どうだっけ?近くにあった?
この辺の川は海の水が混じってる?確かにそう言ってましたね、すみません。
まぁあの馬車に乗っていくよりは早く着くだろう。
とりあえず、マリッサよりは足が速そうだけど、一応どれくらいで着くか知りたいしな。
・・・・・。
2~3時間で中間地点に着いた。
あの盗賊のオッサンらに挟み撃ちを食らった場所だ。
なにしろ、みんな休憩地点として利用しているので、簡易的に竈が組まれていたりするので分かり易い。
「・・・休むか?」
「移動にスキルを使うって、馬鹿だろ?!」
何故か、このタイミングでアーディに突っ込まれた。
スキル?はて?
「ふ・・必死になればスキルの1つも覚えるものよ・・。」
マリッサさんの事だった。俺やギルディートの移動に付いて行く事で習得していたらしい。
なるほど、レベルの割りにマリッサの足が速いのはそういう事か。
「なら、スキルのレベルもガンガン上げていかないとな。」
「・・うん、そうね。」
「そーねじゃねぇよ?!何、達観してんだよ?!違うだろ?ここは抗議するところだろ??」
そうなのか?
まぁ、新たなツッコミ役ができて良かったな。旅が賑やかだ。
水も飲んだな。よし。
「じゃぁ行くか。」
「はぇえよ!休憩するんじゃないの?もう終わりなの?
これ休憩じゃないよね。足を止めただけだよね???」
うるさい奴だな。
もう少し休むか。水だけじゃ不満なのか?
ならばと軽食を摘む事にする。
「最初にギルディートに連れてってもらった店で作ってもらったサンドイッチ・・もとい、サンドニッチだ。」
1つあたりのボリュームがあるので、1つづつで十分だろう。
・・と思うが、2つまでは食えるように出しておこう。きっちり2つずつ持って行く2人。
相変わらずだな!まぁ食べ盛りだしいいか。
周囲の散策をしていたスザクが、頭の上に戻ってくる。このタイミングで?どうした?
遠くから馬に乗った男がやってくる。あれは・・・。
アーディが身構える。お前のサブ武器って弓だったんだな。
「盗賊か?」
「賊って単独で動くもんなのか?1人でやって来ているみたいだが、3人を相手にするのは無謀だと思うが。」
「賊は賊なのよ。この間見た人だわ。」
ああ、あの時の。ディアレイからノルタークに行く途中に出会った盗賊の人みたいだ。
・・・よく見えるな。視力いくつだ?
あと、近付いて来ているが、その顔に見覚えは無い。
「やっぱり兄貴じゃねーか!久しぶりだな!」
「何やってんだ、お前。」
まさか、また盗賊の真似事でもしてるんじゃないだろうな?という意味を込めて聞いて見る。
兄貴って何だ。馬から颯爽と飛び降りた男が、ハグでもしそうな勢いで近づいて来たのだから引くわ。
あと、マリッサの記憶違いではなかったっぽい。
「ああ、以前に冒険者から奪っ・・・借りた資産を少しずつでも返していこうと思ってな!
声を掛けて、謝って返却して回っているところだ。まぁ、怪しいってんで誰も相手にしちゃくれないが。」
怪しいにも程があるだろ。まぁ景気は悪くないみたいだな。
気のせいか、馬も元気そうだし。
「金は大丈夫なのか?」
「お蔭様でな。
いくらでもあるってわけじゃないが、大丈夫だ。農作物も育っているし、新しいコッコ鳥も買った。増やすためにオスもな!
安い小麦を大量に買ってパンもかなり作ったし、調子に乗って食い尽くさなければ、しばらく生きていくだけの食料はある。
ずっと薬代で減っていく一方だったのが止まったから、これからは伸し上っていくだけだってみんな張り切ってるよ!
まぁ、冒険者をやるには厳しいが、心に余裕ができたからな。その日暮らし程度だが、稼いでいる奴も出てきた。
立て直せたとは言えないが、何しろ女子供が元気になっちまったからな!毎日がお祭り騒ぎだ。」
元気そうで何よりだ。
ちょっと不安ではあったが、ちゃんと課金できてたみたいで良かったよ。
帰りに賊に襲われて無一文になってたらと思うと、目も当てられない。
「まぁ、あの日手にした大金のせいで、寿命が縮むくらいにはビビったがな!」
・・・すまない。
普通に使うなら結構な大金だったみたいだが、それ、30レベルくらいの剣か鎧しか買えないような金額なんだ・・・。
感覚があんまりね。まだ掴めてないというか。
でもほら、必要な金だったし。
俺は少し縮こまりながら、マリッサとアーディの視線を背中に受けるのだった。




