社交辞令と安月給
高原フィールドを抜け、林を抜け、見晴らしのいい草原に出る。
2人に荷物を持たせなくて正解だった。
俺が歩いてる横を、2人が息を弾ませながら走っている。
よくもまぁ、高原フィールドまで付いて来れたもんだ。
しかし、おかげで何故2人が敵に囲まれていたか分かった。
俺が敵からのタゲ (ターゲット)を振り切りながら移動したのに対して、2人は振り切れずに引き連れてしまったようだ。
高原フィールドを抜けるのが、あと少し遅かったら、もう一戦あったかもしれない。
やがて、ノルタークが見えてきた。
ちょっと時間が遅くなってしまった。ギルマスのおっさんはまだいるだろうか?
町に着いたので適当に挨拶して別れようとしたら、預かってるアイテムがあるとかで、一緒にギルドに行く事になった。
「礼に酒でも奢るよ。この後、予定はあるか?」
情報が欲しいのは分かるが、もっといい質問をしろよな。
お前ら、ギルドから送られて来たんだろう?
「実は、ギルドマスターと面会の約束をしてまして。
さすがに約束をしておいて放っぽって宿に戻ったら、色々抉れますからね。」
俺がおどけて見せると、二人が乾いた笑いを浮かべた。
まぁ知ってる情報しか引き出せなかったんだから、当たり前だよな。・・・顔に出すなよ。
「まぁそんな訳ですから、礼には及びません。
話がすぐに終わるかも分からないし、一度、町を離れる予定なので、今日は早めに休もうと思ってます。
またいつか、一緒に飲みましょう。」
社交辞令というやつだ。おい、社交辞令だぞ?
「お勧めのいい店があるんだ」って、なんで嬉しそうにしてるんだ?
演技か?演技なのか?だとしたら上手すぎるだろ。
ギルドに着いて素材を売る。
一応、2人が釣ってくれたと言えなくもないので、山分けしようとしたら固辞された。
持って来てくれた分の何割かだけでもと思ったが、思ったほど良い値は付かなかった。
ハイランドグリズンを除いて、14万Dちょっとだ。
「・・・俺の月給よりいい金額だ・・・。」
給料しょぼくないか?手取りか?手取りなのか?色々保証は付いてるんだよな?
やっぱり少し受け取ってくれないかな?!
ほら、俺、解体できないから!おかげで高額の所を持って来れたし、こんな金額で買い取ってもらえないから!
ギルド員さんに、人を雇ってこれだけの解体を頼んだらいくらかかるかを聞いたところ、1,000~2,000Dじゃなかろうかとの事だったので、2人に1,000Dずつ渡す。
子供のお小遣いみたいな額に見えるが、俺の価値観がズレているのだろうか。もう1,000ずつ渡した方がいいのかな?
丁重にお断りされた。1,000Dで充分だと言われた。
むしろ、命を助けてもらった上に、金を受け取るのはおかしい気がすると。
それはそれ、これはこれだろう。
「それにあまり受け取ると、賄賂だと思われるからな。」
・・・・・。聞こえなかったことにしよう。
職務に忠実みたいだけど、有能かというとそうでもないのかも。
対象に本音を駄々漏らしてんじゃねぇよ。
ハイランドグリズンは、加工方法によっては高く売れるかもしれないとの事。
ギルドにお任せする形になった。剥製にするらしい。
さて、ギルマスはいるかな?
「待っていたぞ。」
いた。受付の奥にある、デカいデスクの所で目をギラギラさせてた。・・・怖いよ。
例によって個室に通された。
さて、危うく忘れそうだったが、本題である。
船は使えそうだったが、見せてくれない場所もあった事。
船に手すりを付けて欲しい事。緊急避難用の小船や浮き輪が設置されていない事。
案内の衛兵らしき人物は信用できなかったので、ギルドに申告するようにした事。
あとは・・・・・、以上か。全部伝えたな。
ギルマスのおっさんもちゃんとメモってたし、おそらく問題ないだろう。
ちゃんと対応してくれるといいが、一応、ギルドマスターだから偉いんだろう?
信頼されていない、ってのは分かる。俺は流れ者だし。この世界の常識を知らんし。
が、俺だってこの組織、そしてギルドマスター個人が信用できるかどうか、様子を見ながら距離を取っている。
最悪、信用できないという結論が出れば、CCで別人として別の場所で生きていく事になるだろう。
このおっさんが何を考えているのかは分からないが、俺にとっては重要な岐路であると言えよう。
「うむ。なるほど。確かに手すりは必要だな。
以前の討伐隊では、甲板に出て戦うものがほとんど居なかったからな。
小船や浮き輪とは盲点だった。乗員の身の安全を考えれば、設置した方がいいというのも頷ける。
衛兵についてだが、まず案内されたのは・・・」
時々、頭上のスザクを眺めて悩ましげな表情をするのが気になるが、とりあえず、話は順調に進んだ。
重要な動力系や、操縦室を案内されなかった事を、どの程度問題視してくれるのかは謎だが、管轄外と言われればそれまでだな。
案内の衛兵の態度が全く持って駄目だった事を薄っすいオブラートに包んで伝えておいた。
こちらも管轄外で期待薄だが、精神的に吐き出した方が楽だし、言っておくのと何も言わないのとでは、やはり違うだろうからな。
「ところで、頭にコッコ鳥を乗せるのは、何か宗教的な理由でもあるのか?」
「ぶっ?!」
口に含んだお茶を、なんとか噴き出さずに堪える。
宗教的な理由って何だ???




