クランの目的と規模
さて、個室に通された俺は、ニコフロノフの姿のまま、ギルマスのおっさんと向かい合っていた。
CCして来たいんだが・・・。
ギルドのソファは大きいのだが、俺の尻尾が邪魔で深く座れない。
「お茶をどうぞ。」
そして、ここでもわっさわっさと揺れる尻尾をどうにかしたい。
「えーと、お前さんはリフレの代理ということでいいのか?」
なるほど、代理ね。
今はその方が楽かもしれないが、後々面倒な事になりそうだ。
「いえ、ただのクランメンバーです。
たまたま近くにいたので、クラン金庫の枠の為に加入しました。」
・・・お茶を飲みたいが、どうやって飲むんだ、これ?
唇が薄いし、うまく口に含める気がしないんだが・・。
「うん?つまり、どういうことだ?リフレとの関係は?」
「あー、えー、まぁ、同郷の人というか、そんな感じです。」
まさか本人です、って言う訳にもいかないしな。
困ったな。どう説明したらいいものか・・。
深くツッコまれない内に去るべきだった。
「海の虫討伐戦には参戦してくれるのか?」
こうなるだろ。
リフレ・・じゃなかった、リーフレッドで参戦する以上、ニコフロノフは動かせない。
何てったって本人なんだから。
「しません。」
ぐぅ、とギルマスのおっさんの喉が鳴る。そんな風に頭を掻き毟ると、禿げるぞ?
お茶を汲んでくれた女性が、お茶菓子を持って来た。
わっさわっさと揺れる尻尾を、足の下に押し込む。
それでも鈍く動いているが、マントで覆えば見えまい。
「クラン設立の目的は何だ?何か聞いてるか?」
そのあたりは普通に話せばいいな。隠すことなんぞ何も無い。
ただ、クランを設立したのはニコフロノフではなく、リーフレッドなので、自分が立ち上げたような言い回しにならないように注意しないとな。
「金庫を使用したいんだとか。拠点が無いので、置き場所が欲しいんだそうです。」
「このタイミングでか?」
このタイミング?
何ぞや?と首を傾げていると、ギルマスのオッサンが重く溜息を吐いた。
「ああ、これは本人に直接聞く事にしよう。
ところで、君達は例の組織とは敵対関係にあるのか?」
例の組織?
あの、後を尾けたら大変な目に遭った組織か?
ある意味、敵対関係かもしれないが・・多分、そういう意味じゃないよな?
このキャラは頭が大きいのか、それとも体の構造か、首を傾げるとヒューマン時よりも傾くらしい。
その度に頭の上でスザクがワタワタしている。すまん。
「あの、設立者本人を呼んで来ましょうか?」
「それには及ばない、じきにここに来るだろう。」
俺が戻らない限り来ねーよ!
どうしよう?このままだと、本当に話をしながら待たされそうだ。
しかし、当然ながら俺がここでいくら待っても来る筈がない。
そうなると、同一人物疑惑を呼びかねない。
「あの、交換条件で俺の頼んだ作業をしてるので、俺が戻らない限りは帰って来ないと思いますけど・・。」
「ふむ?」
興味有りげだけど、話さないよ?だって、テキトーな事を言っただけだし。
深く聞いてくるなよ。そんな設定、考えてないからな!
お茶菓子のクッキーっぽい物体を口に放り込む。
バリボリという歯ごたえと、ガツンと来る香ばしさ。
初めて食う菓子だ。何味、と言われてもピンと来ないが、香りを楽しむお菓子だな。
「あの、これは何というお菓子ですか?」
「モチトンの骨せんべいですね。」
まさかの骨せんべいだった。言われて見ると、確かに骨だ。
厚みといい、歯ごたえといい、おそらくこれ、獣人用だ。
強力な顎の力があってこそ美味しく召し上がれるのであって、ヒューマンだったら噛み砕くことは容易ではないだろう。
動揺を隠して、お茶を喉に流し込む。そう、上を向いてザーッとだ。
フードと一緒にスザクが後ろにズレ落ちて行った。すまん。
獣人という事で嗅覚が鋭くなったのか、この間よりも香りを強烈に感じた。
しかし、味覚は鈍くなったような気がする。同じお茶だよな?
「まぁ、そんな訳で、本人を呼んで来ます。」
「まぁ待て。」
まだ何か?
ソファの背もたれに落ちたスザクさんが、フードを振り払って頭に乗ってくる。
ブルブルッとしてたので、驚かせてしまったのかもしれない。
「何故、姿を隠していたんだ?」
「いやー、この間、人前に出たんですけど、悲鳴を上げられてしまいまして・・。」
俺は頭を掻く。
うん、入れ替わりマジックというものを見た事が無いのか、俺を人狼だと思う奴がいたりしたよな。
魔法が普通に存在する世界に、マジックというものは無いのだろうか?
獣人はゲームにもいたし、町中でも見かけた。珍しくはないと思うんだが、このデカい外見の問題だろうか?
「・・・。まぁ、分からんでもない。
だが、おそらくフードを被っていた方が、その鼻先の牙が強調されて恐ろしいと思うぞ。」
なんてこった。鼻先に触れてみる。
うん、確かに牙が出てるな。薄い唇に仕舞おうとしたが、うまくいかない。
思わず無表情になる。お?愛想笑いを止めたら引っ込んだ。
どうも、表情筋はリラックスさせておいた方が良いみたいだ。
「それで、お前達は何人ぐらいいるんだ?」
お前達って?
PTメンバーや、討伐メンバーの事ではあるまい。
俺は討伐メンバーに参加しないと言ってるし。と、いう事は・・・。
「クランメンバーになる見込みのある人の事ですか?」
「うん?まぁ・・そうとも言うな。」
この間数えたら、存在や名前を忘れているようなキャラを加味しても20は行かなかった。
これは、サブ鯖のリーフレッドを含んだ数だ。なので、
「20人はいないです。まぁ10人弱じゃないでしょうか。」
と答えた。
「リーダーはリフレなのか?」
まぁそうなるな。
だが、創立したのがリーフレッドだという事は、このオッサンも知ってる筈だ。
「どういう意味ですか?」
「あー、そうだな・・。一番強いのはリフレなのか?」
一番強い=リーダーというのは、些か脳筋が過ぎるのではないだろうか。
それは置いておいて、強さを基準にされると難しい。
全部のキャラで戦って、リーフレッドが勝ち残るかというと・・厳しいだろうな。
PKKキャラもいるし、遠距離キャラもいる。
「・・・・・・・・。うーーーん。」
本気で悩むこと十数秒。
「だいたい同じくらいか、それ以上に強い奴はどれくらいいるんだ?」
ギルマスのオッサンが質問を変えてきた。
PKKキャラは限定的で扱い難いから、勝てる可能性はあるけど除外するとして、だ。
シンプルにレベルを基準にしてみようか。
えーと、リーフレッドは252レベルのメイン鯖キャラを基準でいいのかな?
125レベルが基準だと数えるの大変そうだし、メインを基準で行こう。
となると・・
クランベール。確か250レベルを超えてた・・253?うん、253だった筈だ。リーフレッドよりもレベルが高くなってしまったと記憶している。
ニコフロノフ。丁度250レベルだ。
ルークレイン。250には届いてないが、準メインで240を超えている。正確なレベルは・・254?255?256?257・・・ではない気がする。
220~230が2~3人いたような気がするが、こんなもんだろう。
「3人くらいですね。」
俺が答えると、ギルマスのオッサンは両手で顔を覆った。
何を悩んでいるのか知らないが、心配する事は何も無い筈だよ?
・・説明してやれる自信は無いが。




