鍛冶屋と宿屋の人間模様
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彼女は鍛冶屋の1人娘だ。
「女に鍛冶場は任せられない」「娘に鍛冶屋を継がせられない」と言う父、それに追従する弟子達。
祖父が唯一の味方であったが、老いた彼の立場は決して良いものではなかった。
(素材収集イベント、武器作成イベント、モンスター討伐イベント諸々。)
師事していた祖父の腕の衰えと共に、祖父に薦められてディアレイの地へと修行に出かける。
(モンスター襲来イベント、異常気象イベント諸々。)
父と母は別れ、祖父は病死。
父とは完全に仲違いし、冒険者として独り立ちする。
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もっと長ったらしいストーリーだったが、ざっくりといえば、槌キャラのストーリーはこんな感じだ。
実際のところどうなのかというと、
「ははは。馬鹿息子がすまんかったな。」
じいさんは元気だし、
「ふふ。この人は本当にもう。いつもこうなのよ。」
妻である女将さんとの仲も、そこまで悪くないように見える。
「べ、べべ別に、お前達の様子がき9気ゅになったわけじゃない!
ちょ、ちょっと畑の様子を見に来ただだけだ!」
あと、おっさんのツンデレは求めていない。噛みまくっても可愛くない。
問題の1人娘さんだが・・・・・。
何故、樽を隠す?
どうした?めっちゃ挙動不審なんだが。
親父の挙動不審が感染ったか?
「こっちの事はいいから!2人とも仕事は?」
気のせいでなければ、マリッサが2人を追い返そうとしているようだ。
マリッサの方で何か確執を抱えてるのか?
「今日は休みじゃろ。」
「! ‥そうだった。」
んー、わからないな。
ストーリーを進めて、槌キャラの事をわかったつもりでいたが、これが現実となると話が変わってくる。
所詮、短くまとめられたストーリーなんぞは上辺だけのもので、背景の深い所までは理解していないのだ。
「ふふ、この子ね。この間、おじいちゃんのお酒飲んじゃったでしょ。
それを気にしててね。森に蜂蜜を取りに行ってたのよ。」
女将さんの言葉に、「言ったな!」という顔をして振り向くマリッサ。
内緒にしてたのか。初耳だ。
隠したければ「隠してます」っていう情報の共有はしておかないと。
まぁ見た感じ、女将さんは隠してた事を知ってたっぽいけども。
なるほど、酒を買う為に蜂蜜を取りに行ったのか。
蜂蜜って金になるんだなぁ。
いや、大量に欲しいって言ってたし、さすがに同量の酒にはならないか。
やっぱり微々たる金額なんだろう。
いや、高級品と言ってたし、酒が超高級品なのか?
「なるほどな。確かにフォレビーの蜜なら最上級の酒が作れるじゃろうて。
しかし、相手はモンスターじゃ。危険な事をしたのはわかるな?」
蜜で酒?作るの?材料?そっちか!
蜂蜜酒ってやつか。確かに聞いた(読んだ)ことがある。
まぁ見た事も飲んだ事もないわけだが。
確かに危ないところだったな。
ものすごい数の蜂がいたし。
まだPT申請してなかったからHPがどれくらい残っていたかは分からないが、たとえ満タンだったとしても戦って勝ち抜く事は厳しかっただろう。
「・・・ごめんなさい。」
素直だ。うんうん、これは丸く収まる流れだな。
考えてみると、ストーリー的には俺がいなくても助かった可能性は高い。
回復アイテムがぶ飲みで逃げ切るか、もし持っていたら帰還の札を使うか、他に助けが入るか。
まぁ助かったのだから終わりよければ全てよし、だ。
「何かあったら相談しなさいといつもいってるじゃろう?」
「・・・。ごめんなさい。」
まぁ謝るしかないわな。報告・連絡・相談は社会人の基本だ。
「反省したら生かしなさい。命は1つしかないんじゃよ。」
「はい。」
重い説教だった。
ふと、俺って死んだらどうなるんだろうと思ったが、思考を追いやる。
考えても仕方ない。
「さて、手を止めていても作業は終わらないわ。どんどん絞るわよ!」
切り替えて、巣を絞る作業を再開する。
しかし、マリッサが置いてあった盥から巣を持ち上げた瞬間、おじいさんの笑顔が曇った。
「巣を見つけたのか?」
ああ。お爺さん、今来たところだもんな。
女将さんに話を聞いたところだし、これまでの流れを知る由も無いか。
「巣を見つけて掘り返したのは、そこにいるリフレよ。」
先に見つけたのはマリッサだけどな。
怒られるのが嫌で、責任をなすりつける気だな、こいつ。
「おい、正直に言わないと蜜の権利がおかしなことになるぞ。」
そう、あくまで“マリッサの見つけた巣を、俺が手伝って運んだ”という形なので、蜜は半分に分けようという話でまとまっている。
マリッサは運べず、俺は解体ができないので、Win-Winな取引と言えるだろう。
しかし、俺が見つけた事にすると、その前提条件が覆ってしまうわけだ。
「うう~。蜂蜜は欲しいけど・・・。それに、ほとんど事実だし・・・・・。」
マリッサが葛藤している間に、おじいさんと目が合った。
笑っているようで笑っていない。
表情は笑顔なのに、眼光が怖い。
「リフレ君と言ったかな。ちょっと事情を話してもらおうか。」
掴まれた肩に指がめり込んでいく。
そうだ、町に入ったら装備が消えたんだった。
ちょっと、痛い痛い。
親父さんも、こういう時ばっかり参加しやがって。
俺は2人のオッサン・・・マリッサのお爺さんと親父さんに捕まり、引きずられていった。
楽しそうに話してないで、助けて奥様!マリッサもーーーー・・・




