突貫船
偉そうにふんぞり返った衛兵が案内役なのだろうけど、チェンジできませんかね?
態度悪いんですけど。そう思ってしまうのも無理はないだろう。
ああ言えばこう言う。何も言わなくても雑言が五月蝿い。
「この何も置いていない部屋が待機部屋だ。まるで物置だが、冒険者風情には丁度いいんじゃないか?」
とか。
「ここはホールだ。床もガタガタだし、存在意義の無いスペースだな。」
とか。
「見ろ、この適当な造りを。ドワーフがどれほどいい加減な種族か分かるというものだ。
それでも、貴様ら冒険者はありがたがって奴等の作るものを使うのだから、滑稽だな。」
とか。
言い方は他にいくらでもある中から、一番癪に障るものをセレクトしました、って台詞の数々。
そして「言ってやったぜ」みたいなドヤ顔やめろ。
まず、有り得ないほどの短い工期で、最低限水に浮かんで進むことができる船を作ってくれたんだから、そこに感謝すべきだと思うよ。
いい加減な奴なら、すぐ沈む船を作っただろう。
これが作られたのが1年程も前だと聞くが、今でもちゃんと使えるのだから大したものじゃないか?
・・・まぁコイツと喋っても一文の得にもならなそうだから、話しかけたりはしないが。
うん、十分使えそうだな。
床が綺麗に貼ってない?装備でガチャガチャさせてたら、すぐにボロボロになんだろ。
家具や調度品が無い?目的が討伐なんだから必要ないだろ。
とりあえずケチ付けとけみたいな男の態度にはうんざりする。
チラッ、と見た先に[ジルディーテ]の表示。
髪を掻き上げたついでに耳を振るな。
「・・・・・今、俺の方を見て笑わなかったか?」
鋭い。名前が似てるせいか?それとも耳の長い種族は勘がいいのか?
名前のおかげで、ちょっとした仕草がジョークに見えるからな。だが、意味は分かるまい。
「気のせいだ。船に乗るのは久しぶりだから、顔に出たのかもしれないな。」
「全く、冒険者って奴は、粛然と振舞う事もできんのか。」
お前がな! ・・思っても言わないけど。
問題点がいくつかあった。
甲板のほぼ全てに手すりが無いのでめちゃくちゃ危ない。
これは絶対に付けるべきだ。ってか、何を思って付けなかったんだ?
緊急避難用の小型船や浮き輪も置いておくべきだと思う。
少なくとも、椅子やテーブルよりは重要だと思うんだけどなぁ。
「まぁ、こんなところか。他の船も似たようなもんだ。」
案内は終えたとばかりに背を向けて降りていく男だが、どうかと思うよ。
部屋を全部見せろ、とまでは言わないが、締め切ってる部屋も多かったし、操舵室もあるはずだが案内されなかった。
上辺だけ見せられて愚痴を聞かされて、どうにも腑に落ちないが、これ以上こいつに付き合ってたら口を滑らせそうだ。
主にツッコミ方面で。
「なるほど。乗って出る分には問題なさそうだな。
直して欲しい箇所もいくつか見つかったし、参考になった。
一応、礼を言っておくよ。じゃぁな。」
用は済んだとばかりに、俺も背を向ける。
トラブル臭がするんだよ。ここに一人でいるのは危ない。
「あ、・・おい」
何か言ってたが、追いかけて来る様子も無いし放っておこう。
足を止めても、去っても、どちらを選んでも何かありそうだ。
この2択なら去る。聞こえなかったという事で。
その足でギルドに向かう。
あの衛兵に色々言っても無駄だろうし、要望はギルマスに上げておきたい。
話を通したい相手に近い方に話を持っていくのが定石だが、立場上、衛兵よりはギルマスの方が妥当だろう。
ギルドに入って早々、受付の人に話し掛けた。
「・・・外出中?」
「そうよ。領主様と会ってるみたい。面会予約はしてるの?」
してないが・・。うーん、出直すか・・・?
いつ頃戻ってくるんだ?
「夕方までは戻らないと思うわ。あと、面会予約はしておいた方がいいわよ。」
面会の予定は無かったんだがなぁ。
まぁいい、予約しておくか。どうすればいいんだ?
「・・・ギルドマスターと面識がないとできないわよ。」
面識はあるわい!
なんだ?遠回しに一昨日来やがれって言ってるのか?
あ、そうだ、こんな時の為の確約書があった。
「?」
おい!この職員、確約書の事知らないみたいだぞ。大丈夫か?このギルド。
奥からベテランさんが来て対応してくれた。
うーん、確約書って、実はあんまり効果ないんじゃね??公文書偽造だったりしないよな?
そんな罪状がこの世界にあるかどうかは知らないが。
また夕方以降に来ればいいんだな。できれば暗くなってから?OK。
・・・・・時間が余ってしまったな。
案内の人達は、不審者の絡みもあって頼めないし、時間的にもう居ないだろう。
海辺に行ってもテストを手伝わされるだけだし・・。
いや、テストの重要性は知ってるけどさ!せっかく時間が空いたなら、他の事したいだろ。
ほら、せっかくの休みに学校や職場に行きたいなんて思うか?
といって、する事もなぁ。
資金調達?金なら結構持ってるな。預かり所があったら預けたい程度に。
・・・、あ。
そういえば、個人の預かり所以外にも、クランの預かり所って無かったっけ?
ただ、個人の預かり所と同じくらいしか入らないので、クランメンバーが全員で使うには容量が無さ過ぎたはずだ。
だが、クランメンバーが1人なら、普通に預かり所として使えるんじゃなかろうか?
「すみません、クランって作ったら、アイテムや現金を預かってもらえるんですっけ?」
受付で聞いてみると、ギルドが俄かに騒がしくなり・・熱気を帯びた視線が突き刺さった。
何なんだ???




