夢のような食後
ここは、ノルターク屈指の名店だったという飯屋、ノルタークの帆船。
俺達は、メインの肉料理を堪能していた。
骨付きのばら肉と思しき肉が、3本。焼き加減はお勧めのミディアムレア。
結構なボリュームがあるが、油の付き方が上品で、全く苦にならない。
そして肉汁と肉の旨味がやばい。そして、その肉を支えるソースの旨さよ。
これ、何の肉だ??
俺が未練がましく肉をナイフでこそげ落としている間に、サラダが運ばれてくる。
・・・・・。
誰もサラダに手を付けない。
だって、まだ骨に肉が付いてるんだから・・。
「これって、単品のテイクアウトなんかやってませんよね?」
お客が少ないから特別にやってくれる?マジで?容器?あるある!
単品だと割高?さすがにコース料理の値段は取らないだろう?
コース料理はお得にできている上に、期間限定で安いので、かなり割高に感じるかも?
値段は900D?問題ないのでください。
駄目元で聞くけど、他の料理もやってくれたりする?どれって・・・どれも美味かったんだけど・・。
ならセットでどうかって?お願いしまーす!
「金持ちって奴は・・・。」
アーディが骨を噛みながら恨みがましい視線を送ってくる。
なんだよ。アイテムボックスがあるんだから、絶対に無駄にならないだろう?
ちなみに、パンが真ん中に置いてあって、好きに取って食べる形式だ。
減ってくると、暖かいパンが補充されるんだけど、焼きたてっぽい。
アイテムボックスがあるからこそのサービスなのかもしれないが、タイミングも良いし、美味い。
うっかり料理に夢中になって食べ損ねるのは勿体無いので、もりもり食った。
サラダも美味かった。
全体的に胃にもたれそうな脂っこいものは出て来なかった。
それでも、サッパリとしたサラダで胃がスッキリしていく。
そして、最後にまさかの2度目のデザート?!何なんだこの順番?
今度は、生クリームの使われたデザートで、しっかり腹を満たしそうだ。この後に料理を続かせる気はないんだろう。
パイ?ケーキ?
優しいピンクの色合いの、味は酸味の利いたフルーツという、ホワイトチョコのような口解けの柔らかい謎の物体。
スポンジ、というには柔らかすぎるが、他に例え様のない黄色い部分はとろける食感。
生クリームは、物足りなくない程度にはしっかりと甘いが、しつこくない甘さで、おそらくバニラではない異世界の香りが含まれている。
それが、パイ生地の中で層を作っているのだ。
ミルフィーユ?多分、違う気がする。
熱々サクサクのトロトロで・・・美味い。
おお、お茶もあるのか。これはありがたい。
!!
これはまた、香りのいいお茶だなぁ。
と言っても、あくまでお茶の香りなので、嫌味が無い。
口の中をさっぱりさせつつ、胃の中を温め、落ち着かせていく。
あっという間にポットを空にした。
ハズレ無しの、店の名を冠するに相応しい料理だった。
毎日食いたい、とは言わないが、毎日食っても飽きないだろう。
だが、やはり特別な日に食いたい、そんな料理の数々。・・・素晴らしい一時だった。
会計を済ませ、テイクアウトを受け取る。
わりとズッシリ。えーと、何人前だっけ?17人前?
全て期間限定価格で、肉だけ固定、あとはいくつか別のものが入ってる?
これで30,000D?いや~悪いね。楽しみができたよ。
支払いを終えると、耳の根元が上がった店員さんが笑顔で挨拶してくれた。
あの垂れ耳は、元からっぽいな。
「それにしても、美味かったな。」
2人に声を掛ける。
「最高だったわ。また機会があれば来てみたいのよ。」
まだ余韻に浸ってる様子のマリッサだが・・そういえば、アイツだけお冷が酒なんだっけ?
ポワーっとしてるが、酔ってないよな?
「ああ、美味過ぎて、何か何だか分からないうちに終わってた。
夢みたいな時間だった。・・・最後の30,000Dで目が覚めた気分だ。」
お前は余韻に浸っておけよ。どうせ奢りだったんだから、金の事は考えるな。
夢の国でさえ、入場するのに金が要るんだから。
マップはあるが不安なので、アーディにギルマスのおっさんの言ってた港まで案内してもらった。
意外とややこしかったので、連れて来てもらって正解だったと思う。
それに、あのオッサン、説明下手みたいだし。
さて、アーディ。これからマリッサのテストに付き合わされるわけだが、まぁ頑張れよ。
礼を言って別れ、停泊している船に向かう。
「えーと、以前、シーサーペントを討伐する為に作られた船と言うのがここにあるらしいんですけど、どこにあるか知りませんか?」
突っ立っていた、槍を持った衛兵っぽい男に聞いてみる。
「あん?ああ、これだよ。どこぞのヒューマンが、討伐するって息巻いてるらしいな。
フン、どうせ、今回もまた失敗に終わるだろうに、馬鹿馬鹿しい。」
なんだ、こいつ。
こう、人を見下すような感じが気に入らないんだが。
だいたい息巻いてないし。
「コケ!」
スザクが何やら抗議してるが、そういえばお前、飯食ってる間もずっと頭上にいたのか?
ドレスコードとかじゃなくて良かった、ギリギリセ・・・よくアウトにならなかったな!?
「ああ・・。そういえば、その若造は頭の上にコッコ鳥を乗せてるとか言ってたっけな?
まさかと思うが、お前・・・。」
いや、「言ってたっけな?」って分かってて言ったろ?
乗せてるのを忘れていた俺が言うのも何だが、コイツ目立つし。
頭に鶏乗せた人、なんて特徴、忘れる筈が無いし。
俺は、話した事も無い相手を嫌う、という行為を嫌っている。
もちろん、「あいつに気を付けろ」と言われたら、気を付けたりはする。
が、一度も喋った事のない相手を「あいつは○○だから嫌だよな」と言われても、困る。
話を合わせる事はする。変に反対意見を言って場の空気を白けさせる事はない。
が、本当にそいつが嫌な奴だと自分で思い知るまでは、普通に付き合う事にしている。
だって、もし風評被害だった場合、自分がされたら嫌だろ?
そう、自分がされたら嫌なのだ。初対面の相手に、理由の分からない敵意を向けられるのは。
名前は・・・[ジルディーテ]? 覚えやすい名前しやがって。
「ああ、その討伐に参加する予定の者だ。中を見せてもらいに来た。」
俺はニッコリと笑って、そいつの顔の特徴などを目に焼き付けるのであった。




