呪いと万能薬
ギルドの個室。
何故かアーディも付いて来ているが、まぁ、・・問題ないよな?
「ようこそ、ギルドへ。」という挨拶はどうしても必要なのか?
まずは、換金の件から片付ける。
先日、ギルドに預けたアイテムがいくつか売れたようだ。
暗黒洞窟のゴミアイテムは前にディアレイで売った時の金額そのままなので、ほぼ予想通りの収入だ。
そして、他にも預けていたアイテムがある。
「まず、[腐食したゴーレムのかけら]だが、値段が付かなかった。
謎の金属としか言いようが無い。また、どうやって腐食したのかも分からない。
解析され、研究が進んで、それで初めて価値が出るアイテムだ。
次に[キマイラの骨]だが、興味を持った学者はいたが、二束三文だな。
研究されたら、もしかしたら価値が出るかもしれないが・・難しいだろうな。
その学者に売るかどうかは、お前さんの判断に任せる。
そして[毒の砂]だが、これは毒砂の海に住む、サンドスコーピオンの体の一部ではないかという話だった。
もしそうであれば、買い求める学者もいるだろうが、本物かどうかを判断できる材料が無い。
今のところは正体不明で価値を付けるのは難しいそうだ。」
まぁ・・そんな気はしてた。
「最後に、[万能薬]だが。これは何だ?」
まるでオマケのように言ってきたが、これが本命だ、とでも言わんばかりの身の乗り出し方だった。
そう言ってギルマスのオッサンは書類を渡してきた。万能薬の鑑定結果だ。
『全ての状態異常を治す。』とか、『状態異常に効果がある薬。範囲:全て』とか、『死亡以外の状態異常に効果がある。』とか。
まぁ、書き方は違えど、内容はほぼ同じだ。
「万能薬ですけど・・・。」
思わず素で答えてしまったが、全く答えになってなかった。
気を抜くとすぐこれだ。自分の頭の悪さにイラッとする。
「質問を変えよう。これをどうやって手に入れた?」
普通に買ったんだが、それはゲームでの話だ。
この世界ではまだ売っているところを見た事が無い。
そして、どうやら貴重品らしい。それも、相当の・・。
下手に「買った」と言えば、どこからという話になるだろう。が。
「知人から購入しました。行方は知れないのですが。」
という事にしておけば問題あるまい。
友人ではなく、知人である事もポイントだ。
知ってはいるが、よく知らない人。行方を知らなくても何も不思議は無い。
「いくらで購入した?」
そう来ます?
ゲーム内でのアイテムの単価は、町によって違うし、微妙に変動する。
プレイヤーがアイテムを買い捲ると、価格が上昇したりする、妙に細かいシステムだ。
それでも、だいたいの相場は決まっている。
薬草・・10D
魔草・・20D
毒消し草、キツケ草など・・10D
蘇生草・・50D
小回復ポット・・100D
小MP回復ポット・・200D
火傷薬・・100D
石化回復薬・・200D
蘇生薬・・500D
こんな感じだ。
で、万能薬はというと、なんと蘇生薬より高かったりする。
万能薬・・1,500D
だが、こんなもんだ。
ギルディートが言うような、千金にも勝るというアイテムではない。
まぁ、1,000Dよりも高いよ、って意味なら確かにそうなんだが、そういう意味では無い事は明白だ。
これを正直に話して信じてくれるとは思えないし、売ってくれと言われても困る。
どうしたもんか。
「明かせる情報だとでも思っているのかしら?」
マリッサがツン、と上を向いて喋る。
いや、身長の加減でそう見えるが、ギルマスの顔を見ているだけだな。
「いくらリフレが甘いからと言って、あまり困るような質問をするのはどうかと思うわ。
聞いて黙ったら明かせない情報なのよ。それぐらい、察してみせたらどうなの。」
お前がそれを言うのか?と思ったが、よく考えてみると、マリッサには殆ど質問された記憶が無い。
いや、されたことはあるんだが、返答に困ると「じゃぁ・・」と話題を変えてしまうのだ。
まぁ、下手に喋るよりも、ここはマリッサに任せて黙っているのが正解なんだろう。
「それとも、その情報に勝る報酬の用意でもあるのかしら?」
・・・・・あの、マリッサさん?
あるって言われたらどうするつもりなんですかね?
「・・・・・何を望む?」
ほら!なんかヤバイ空気だよ?
え、俺が渡せるような情報を持ってると思ってる?
無いよ。その場限りならともかく、嘘とか苦手だよ?
「舐めるんじゃないのよ。何を用意してるのかって聞いているの。その時点で察しなさい。
貴方が無理を望むなら、敵に回るのはリフレだけじゃないのよ。」
ちょっ?何の話をしてるんだ?
敵に回るって・・アイテムのやり取りでギルドを敵に回すのは、俺はどうかと思うなぁ!
そろそろ口を挟むべきかと迷っていると、
「・・・すまなかった。」
ギルマスのオッサンが折れた。
「実は、この大陸全体で、魔力が失われていく呪病が流行している。
最初の状態異常は呪いだが、ステータス減少、魔力枯渇、衰弱など、どんどん状態異常が増えていき、長いこと苦しんだ結果、最終的には死に至る。
ただでさえ呪いのステータス異常を回復する手段は少ないのだが、この呪病に至っては罹ったら最後、回復の手段が見つかっていない。
この薬の存在は一部にしか知られていないが、もし入手できるのであれば、多くの人を救うことができるんだ。」
・・・・・・・・・・。
マジか。
なんかそこら中、病人だらけのような気はしてたんだ。
盗賊のオッサン達しかり、ホームレスのオッサン達しかり、だ。
そして病気になるのは、何も貧民層ばかりではない。
病人の世話で急激に金が無くなった奴が多かったが、元々は普通に生活していたというのだ。
つまり、今、普通に生活している奴らの中にも病人がいるということだ。
「この町だけで、どれくらいの人がその病気に罹っているんだ?」
「この町の人口は、かなり減ってしまったが、それでも1万人近くいるだろう。
推定だが、現在、人口の2%ほどが呪病に侵されていると見られている。」
つまり・・・約200人というわけか。




