こんな事もあろうかと
「それにしても、どうしたのかしら・・・。」
ここは、初日にギルディートに案内された飯屋だ。
あの時にいたオッサンとは別のオッサンが飯を作っている。
パンが選べて、スープが選べる事は変わってないが・・・。
パンとスープの種類が変わってないか?何、ここ?日替わりなの??
宿での飯は、サラダか野菜炒めでしか野菜が取れないし、手間のかかる煮込み料理が皆無だ。
せっかくだから煮込み料理が食べたい。
パンも飽きた。久しぶりにパスタもいいかもしれない。
マリッサも決まったようで、すぐに注文した。
「まぁ、ギルディートの目的は模擬戦だった訳だから、目的が果たせた以上、いなくなってもおかしくは無いんだけどさ。」
話題は、一昨日までは一緒に行動していたギルディートについてだ。
何となく、また遺跡を一緒に冒険するようなつもりでいただけに、拍子抜けというか、寂しいというか。
それは、マリッサも同じであるようだった。
「それにしても、突然過ぎないかしら。何かあったと思うのよ。」
「確かになぁ。でも、何があったのかなんて調べようもないしなぁ。」
あの日、不機嫌だった事と関係があるのだろうか?
だとしたら、クラン関係か?
「アーディに聞いてみたらどうかしら。何か知ってると思うのよ。」
「確かに。伝言を頼まれてたみたいだしなぁ。」
すまない、の一言だ。すげー気になる。
あの時は、不貞腐れていた事を謝っただけかと思ったが、もう少し、真剣に考えれば良かったな。
間もなく、料理が運ばれてくる。
アイテムボックスのある世界だ。飯屋で待たされることは少ない。
ロールキャベツ3種盛りとか言う、謎豪華なメニュー。
コンソメスープ、クリームスープ、トマトスープの3種類で煮込まれたもので、異世界っぽさは欠片も無かったが、滅茶苦茶美味かった!
もう、挽肉から違う。業務スーパーで売ってるロールキャベツみたいな、何かのペースト?と首を傾げたくなるような謎肉ではない。
謎肉は謎肉で美味いんだが、これは、ちゃんと肉々しいミンチだ。
それが、旨みが外に流れ出ないようにキャベツで包まれ、キャベツにはスープの味と肉の旨味が染み込んでいる。
そして、ナイフを入れると、迸るような肉汁が溢れ、スープと絡むのだ。
すぐにテイクアウトで注文する。
そぼろ肉の煮込みパスタは、ミートソースかと思いきや、ハッシュドビーフ風のパスタだった。
甘すぎず、酸味とスパイスが効いていて、塩味も丁度いい。
これは、自分で作るのは難しいぞ、と思わせる、絶妙な味付けのパスタだった。
もちろんテイクアウトだ。
マリッサがジットリとこちらを見ているが、仕方ないだろ。美味いんだから。
しかし、価格もそこまで高くないし、味もかなりいい店なのに、昼時にこんなに空いてるのは何故だろう?
「アルコールが一滴もないみたいなのよ。」
うん?
「アルコールが無かったら、水分が摂れないじゃない。」
いや、普通に水を飲め。ドワーフの水って、薄い酒なんだっけ?
え、何?ドワーフって酒が無いと死ぬの?マジなの?アル中なの?死ぬの?
まぁ、ドワーフに人気が無い理由は分かった。
だが、この町の人口における、ドワーフの割合は、実はそんなに多くない。
半数以上が耳が長く尖った、エルフもしくは魔族だ。
それは、この町がエルフと魔族の住む、青の大地エルフォルレという大陸に位置するからである。
6割強がエルフ、もしくは魔族だとして、1割強がヒューマン、ドワーフは2割弱程度である。
残りの1割満たないところに、その他の種族がいたりする。
つまり、全体の8割がドワーフ以外の種族な訳だが、どうして店に閑古鳥が鳴いてるんだ?
「コケ?」
呼んでないし、お前は閑古鳥ではないだろ。
店の雰囲気も悪くないし、立地は・・微妙か。看板もわかり難いしな。
でも、一度、この店の味を知ったら、何度も足を運んでしまうと思うんだが・・。
「それよりも、午後はさっき着けた水泳スーツの試作型を色々着けさせられるのよ。
あまりにサイズの小さいものは除外させるから、着替えやすい格好でお願いするわね。」
マジか!・・・あの、何か嫌な予感がするんですけど・・・・・。
「まだ、『スイバ -シリーズ』との連動はできてないけど、連動型も明日にはテスト出来る筈だわ。」
俺が知らない間に、どんどん話が進んでいるようだ。
あの格好で大剣を振り回して戦うのか?・・かなりシュールじゃないか?
特撮なの?ファンタジーなの?みたいな、微妙な外見になりそうだ。
「安心するのよ。ちゃんとテストを済ませた物だから、いきなり壊れる事はないわ。」
俺が心配してるのはそこじゃない。
いや、ケツが割れるという無様を晒したくないから、そういう意味ではものすごく大事だな。
「マリッサ、この辺りの店に、水着を売ってる所なんて知らないよな?」
水着の上から水泳スーツを来たっていいはずだ。水着が売っていれば、それを履いて挑みたい。
でなければ下着を付けさせてもらう。これは決定事項だ。
「水泳スーツは、体にフィットすることによって最大限の効果を発揮するのよ。
そして、中に衣服を着ると言うことは、水の・・」
「それは何度も聞いたけど、最大の譲歩が水着なんだ。
あの水泳スーツだけで挑むって言うなら、絶対に装着しない。」
ちょっとコスプレしてみる、程度なら気持ちは分かるし、実際面白くもあるんだろう。
実際、気まぐれにあのスーツを着てみたのは、面白そうだと思ったからだし。
だが、あれだけの人の前であの格好で走り回るなんて、どう考えても恥ずかしいだろう?
必要に駆られて、というのなら仕方ないのかもしれないが、万が一、大衆に尻を晒す事になったらと思うと、ゾッとする。
「・・・ふ、そう言うと思って開発した、これが」
「普通の水着を買いたい。」
その薄い布は何だ。これを晒すならパンツを晒した方がマシだ。ってか、絶対に小さいだろ?!
これ履いても、水泳スーツと一緒に破けたら意味無いんだからな?
堂々と掲げるな。パンツにしか見えないから。
店内でパンツをひけらかす変態にしか見えないから!




