マリッサはいずこに
俺が試験走行をした後も、若手が作った水上歩行器なんかが披露され、あの賑わいは続くようだ。
そして、俺は、町のある一角へと連行されていた。
「武器の何たるかを教えてやる。」
いや、わかりました、もうしませんて。
夕飯までひたすら槌を振るわされた。無言で。
え~と、体感だと半日だけど、6時間くらいなのかな?え、4時間ちょっと?
真っ赤に焼けた鉄をずっと見詰めていたせいで、ものすっごい目がチカチカする!!
眩しかった?違う、何と言うか・・網膜が焼き付いたというか・・・。
目の奥が低温火傷したというか・・・。
目を閉じると、まだ熱を持ってる気がするもん。鍛冶やばい。
てか、武器の何たるかを教えてくれるんじゃなかったの?ずっと無言だったんだけど!
お喋りする雰囲気じゃなかったけどさぁ!
「あれで伝わらなかったとなると、もう一度教えてやった方がいいのか?」
いいえ、結構です。
途中、マリッサに連れられてスザクがトイレに行ったのだが、そのまま戻って来なかった。
逃げやがったか・・。いや、マリッサがどこかに連れて行ったのだろう。
これ重労働だよ。このステータスだからこそ、何とかなってるけど、まず熱気すごいもん。
炉の前なんか、顔面が焼けるんじゃないかってぐらい熱いし。
うん、暑いんじゃなくて、熱い。そしてもちろん、暑い。その上、むさ苦しい。
ハンマーが重い。多分、その辺の安っすいダンベルとか比べ物にならないくらいには重い。
本格的にトレーニングしてる人のやつの最大値ぐらいはあるんじゃなかろうか。
ステータスが無かったら振るうことも・・いや、持ち上げることもやっとか、できないかもしれない。
あんなのハンマーじゃねえよ。大槌?ほとんど武器だった。
いや、実際、槌は武器としても売られてるんだけどさ。
そんな重量ハンマーを、風の無い部屋で、熱気に晒されながら延々と振り続けた。
実際には振らされ・・・・・・なんでもない。
その結果、処罰的なものだった筈なのだが、パワーと持久力を褒められ、職人としていつでも歓迎すると言われた。
歓迎しちゃうのかよ。やらないよ。
鍛冶場って言うと暗いイメージがあったけど、明るかった。
ただ、それよりも金属の塊が強烈な光を放っていたので、それをずっと見つめていたせいで、部屋が暗く感じた。
というか、あたりが暗くなってから作業を終えたせいかもしれない。
ようやく労働から解放され、宿に戻る。
「酒が沁みるだろう?!」
オッサン達が付いて来てた。今日はもうむさ苦しいのはいらないよ。家に帰れ。
「ところでマリッサは・・?」
スザクを預かってもらったままなので、引き取らなければと思ったのだが、宿に戻っていないらしい。
スザクをトイレに連れて行ってから、鍛冶場にも戻ってないそうだ。
まさかトイレに1時間も掛かる訳がないし、どこかに出掛けたのだと思ったが・・
店を見て回るには遅い時間だ。なぜならば、暗くなると飯屋・飲み屋以外の店はほとんど閉まってしまうからだ。
特に夜なんかは、宿に泊まっているならば、基本的に宿で飯を食うものだ。
歓楽街に用事が無いのであれば、出掛ける用事など無いはずだ。
CCのような秘密でも無ければ、ペットに餌をやりに、という事も無いだろう。
また海岸にでも行ったのか?さすがに時間が遅すぎると思う。
マリッサなら行ってても不思議じゃないが、俺のペットを町の外に連れて行くにあたって、声を掛けるくらいの常識は持っているはずだ。
そして、ここはマリッサの地元じゃない。戻るとしたら、鍛冶場か、宿かの二択だと思うんだが。
と、そこへ、見知らぬ男がやって来て女性店員を捕まえた。
肩を掴み、正面になるように向きを変える。壁ドンか?
「おい、リフレとか言う男を知らないか?」
何だろう、馴れ馴れしいというよりは喧嘩腰、かな。面倒事か?
そういえば、こんな風に尋ねて来そうな面倒な組織を知っているな。
店員が「知らないわ、今日は見てないし」と白を切る。男が「庇うと身の為にならないぞ」と脅す。
「そのうち戻って来るんじゃない?」と店員が引き伸ばし、「ここに泊まっている事は間違いないんだな」と男が確認する。
おい、胸倉を掴むな。
庇う必要は無いぞ、相手は1人みたいだし何とかなるだろ。
接触してみて平和的解決が無理そうなら、ささっとギルドに託して来るし。
「いつ頃戻って来る?」
「それは分からないわ。いつもこの時間には戻って来てるし・・・」
「今、ここにはいないんだな?」
俺がいない体で話が進んでいるので、名乗り出るわけには・・。
それにしても店員が全く怯えてないのは何故だ?まるで世間話のような顔で応対してる。
・・・男が店員の胸倉を掴んだまま、全く別の所を見ているのに気が付いた。
[旅人、リフレが我が宿に伝えたレシピ。
彼は、本当の味を教えてくれた。]
壁のプレートだった。ご丁寧に鶏を頭に乗せた男が描かれている。
「何だこりゃ???」
ですよね。
店員が離れたのを見計らって、話し掛ける。
「・・・リフレは俺だが、何か用か?」
友好的ではない相手なので、丁寧な対応は必要ないだろう。
むしろ舐められそうだし、いつでも態度を改められるようにして対峙しよう。
話によっては高圧的になる必要もあるだろうし。
先程の店員が驚いた顔で俺を見る。いや、俺の頭の上を見ている。
ああ、俺だって気付いてなかったパターン?頭の上のはペットだよ?本体はこっちだよ?
「お前、コッコ鳥を頭に乗せた女の仲間か?」
「!」
まくし立てる様子は無い。荒っぽい割りに、最初の接触は無難というか、素っ気の無いものだった。
おそらく、情報を小出しにして口を割らせたいのだと思う。
問い詰めたいが、冷静に交渉しないといけない。
それに、まだ、この男があの謎の組織の者だと決まったわけではない。
何らかの事件に巻き込まれたマリッサを保護して、身元確認に来ただけかもしれない。
そうだ、と言っておくべきだろう。
『コッコ鳥を頭に乗せた女』がどちらを指すのか分からないが、情報を引き出されそうなら惚ければ良い。
「お前。マリッサに何かしたのか?」
俺が口を開く前に、ドワーフのオッサンが前に出ていた。
と、いうか、ドワーフのオッサンらが男を囲んでいた。
「何だお前ら。邪魔だ。」
苛立ったようにオッサンを押し退けようとした男だったが、オッサンはびくともしなかった。
だいたい、なんでそのオッサン押し退けようとしたし。
見りゃ分かんだろ。どう見ても重量級のムッキムキだ。
少し身長が高いくらいじゃ埋まらないほどの重量差と筋力差があんだろ。
「マリッサをどうした。」
「マリッサをどこにやった。」
男が入り口とは逆の壁側に追い詰められていく。
結局、暴れて捕獲された男は、オッサン達による“職人マッサージ”により大人しくなった。
一応、痛そうではあるが暴力は一切振るわれていない。
が、男の悲鳴に思わず気の毒に思ってしまったのは俺だけじゃない筈だ。
マッサージとはいえ、集団による蹂躙だ。
身動きも取れず、恐怖の方が大きかっただろうよ。
敵地の知らんオッサンの集団に、全身を揉み解されるのを想像してみろ。ゾッとするだろ?
拷問の方がいくらかマシかもしれん。




