完成に向けて
「おお・・・・。おおおおおおおお!」
俺は、今、水上に立っていた。
現在装着しているのは『スイバ -0102(ストップアシスト)型』。
小型ボートに搭載していた魔道具と風の魔道具の構造を参考に開発した、小型魔道具“ホバー”を搭載。
水圧・を魔道具が判断。別の魔道具が連動して発動し、水上での停止が可能だ。
ただし、あんまり長く立ち止まっていると、すぐに燃料が切れてしまうので注意が必要だ。
他に
0101(オールアシスト)型…小型魔道具“ホバー”で浮力をアシスト。低速でも沈みにくい他、他のあらゆる制動で効果を示す。。
0301(カーブアシスト)型…傾き、水圧を魔道具が判断。小型魔道具“ホバー”連動して制動をアシスト。カーブが曲がりやすい。
0401(スピードアシスト)型…振動をエネルギーに代える魔道具とブースター付き小型魔道具“ホバー”を搭載。爆発的な推進力を発揮する。
0501(バックステップ)型…極端なブレーキを魔道具が判断。小型魔道具“ホバー”で瞬間的に広い水面を叩く事で地面のような感覚でバックステップをできる。
といった感じで、0101以外はクセがあるものの、なかなか面白いのを仕上げてきた。
そう、仕上げてきたのだ。もう試作型ではない。
魔道具のスイッチを入れなくても、ちょっと足の速い人が、全力で走り続けることができるなら、一般人でも水上を走れる性能だ。
もちろん、水上ならではの地面の撓み、うねりに対応できればの話だが。
え、こういう開発って何年も掛かるもんなんじゃないの?
「ふふ、この町で何人のドワーフが暇を持て余していると思っているの。」
胸を張るマリッサと、その頭の上で胸を張るスザク。
いや、スザクお前わかってないだろ。あと、「暇を持て余している」は余計だと思うぞ。
オッサン達、腕を組んで頷いてるけど。
いくつか質問する。
燃料はカートリッジ式にできないのか、とか。
魔道具を切り替え式にできないのか、とか。
カートリッジ式の意味が分からなかったようなので、置き型のトーチを例にして説明した。
燃料タンクをカートリッジに見立て、それを次々と交換して見せる。
ちなみに燃料タンクは詰め替えができるので、置き型トーチはカートリッジ式として使う必要は全く無い。
見て説明すると、すぐに理解してくれた。
「こんな魔道具が開発されていたのか・・!」
いや、これ本来の使い方と違うと思うよ。
俺が無駄に沢山持ってるだけで。
切り替え式は、ダイヤル式やボタン式など色々ある。
それぞれの説明に数字を使って1がオールアシスト型で、2がストップアシスト型・・などと説明する。
これも理解が早い。
全てに共通の魔道具が使われているわけだし、重さもそんなに極端には重くならないはずだ。
可能であれば実現して欲しい。
ちなみにこれ、かなり小型化されている。
ちょっとゴツくて足首が動かし難いが、さほど靴と変わらない感覚で歩けるし、沈んでも泳げる。
その上ワンタッチに近い感覚で着脱可能だ。
文句を付けるところが殆ど無く、完成形として持ってきた気持ちはものすごいわかる。
まぁ、普通の製品はテストを何度も繰り返す必要があるわけだが、それを俺がやるのは勘弁なんだよな。
そして、あとは発展させるだけだが、不安感は残るよな。
特に0401(スピードアシスト)型。ピーキーな性能はいざという時だけ使えればいいんだよ。
職人さんたちが一斉に意見交換を始める。
専門用語が飛び交い始めたらそっと撤退する。
魔道具の互換性とか言われても、俺にはさっぱりわからないからな。
海岸ではから揚げと焼き鳥、ビールが売られている。
売っているのは宿の店員と、足環を持った2人組、そしてアーディだ。・・ギルディートは見当たらないが、どうしたんだ?
基本はアイテムボックスの作り置きだが、時々思い出したみたいに肉を焼いている。
あれだ、客寄せの匂い撒き。匂いは武器だからな。
スザクが頭に乗ってなくても、よく売れているようだ。
しばらくすると、変なシルエットの小船が走ってきた。
あれはもしや・・!
バリスタ船だった。俺の話を聞いたオッサンが、いつの間にか手配していたらしい。
行動が早ええわ!!!
的を浅瀬に突き刺し、試験発射。
・・・・・。
・・・・・・・・・・・。
精度はあまりよろしくない。
そして、思ったよりも威力が低い?
どうやら、不安定な水面であることが、だいぶ響いているようだ。
矢も思ったほど大きくないし・・。連射性能も無いし・・装填が遅いし・・。
俺は、同じ小船に乗って、その矢を的に向かって放った。・・・素手で。
そこそこの威力と命中率を叩き出した。
オッサン・・、そんなに落ち込むなよ。
最後に、俺の大剣を放ってみると、桁違いの威力を発揮した。
まるで大砲の弾だ。
だが、それを見た職人さんたちが悲鳴を上げて一斉に海水に飛び込んでしまった。
「探せ!」「必ず見つけ出せ!」「この辺の筈だ!」
大剣を見付けると滅茶苦茶怒られた。
なんだ、その・・悪かったというか・・。うん、悪かったよ。
浅瀬だし、無くしたら不味いから、それなりに威力を調整したし、見つける自信はあったんだけど・・あ、はい。すみません。
そういう問題じゃないですよね。
めっちゃ剣を磨かされた。
びしょ濡れのドワーフのオッサンに囲まれちゃ、黙って言うことを聞くしか無いですよね。
先頭に水の滴るマリッサさんがいたけど、庇ってくれる様子じゃない。目が怖いっす。




