スザク、回想して開き直る
私は、知能が上がって以来、夢をよく見るようになった。
もしかしたら、夢を見た事を思い出せるようになっただけなのかもしれない。
夢を確かに見たはずなのに、内容を覚えていない事もあるからだ。
その日、恐ろしい夢を見て混乱した私は、錯乱して暴れまくった。
リフレの塒の近くで糞をばら撒いた。
正気に戻った時には、さすがに怒られると覚悟を決めた。
怒られるで済むだろうか。良くて放逐、悪ければ肉だ。
リフレの庇護下から離れるのは、思ったよりも早かったななどと思いながらも、諦めた。
その怒りに晒されれば、私が敵う筈もない。
が、リフレは糞を綺麗に掃除すると、前日もしてくれたように足で温かい塒を作り、私を迎えてくれたのだ。
この場所は好きだ。
思い出せないくらい遥か昔、こんな温もりを味わった事がある気がする。
不安を感じる事も無く、ただ穏やかな温もりに抱かれ――。
悪夢を見る事無く、朝を迎えた。
何か良い夢を見た気がしたのだが、覚えていない。
ぬくぬくといい気分で眠る事ができたわけだが、それがリフレの負担になっているのは目に見えてわかってはいた。
それでも、この人間ならば大丈夫だと高を括っていたが、間違いだったようだ。
夜が明けたというのに、リフレは塒に潜り込んだのだ。
活動期になったはずなのに、塒で体を休めるというのは、体が休眠を求めているからだ。
つまり、それだけの負担がリフレに掛かったことを意味する。
何故、負担をかける私を庇護下に置いておくのか?
私はこの人間に、何かを与えたことは無い。
同族でも無ければ、近似種でもない。
戦闘もできないし、喋ることも、付いて行く事さえできない。
知能を得て学習したことで、本来、庇護と言うのは無条件に受けられるものではないと知る。
小さい人間であっても痩せ衰えることはあるし、関わりの無い相手まで庇護されているわけではない。
あの頃は殆ど区別が付いていなかったが、自分の家族や、コミュニティの一部だからこそ大事にされていたのだ。
そこから外れれば、対等な関係、もしくは相手をボスとして従い、役に立ってみせるしかない。
ウマという生き物を見たが、あれは馬車という人間の巣のようなものを運ぶから、人間の庇護を受けられるのだ。
私を人間の役に立てようと思うならば、それこそ肉にするしかないだろう。
庇護する側はどうだろう。
コミュニティの仲間を大事にする生態、というのは分かる。
だが、それ以外の、同族ですらない生き物に対しては・・・?
私がこの人間であるならば、何らかの役に立てと命じるだろう。
さもなければ、捨てるか、それとも・・・・・。
考えてみても、私を連れ歩く理由は無い。
だが、間違いなく、リフレは私を庇護している。
決めた。
私はリフレの庇護下から出る日が来たとしても、この人間に付いて行くと。
その為には、頼ってばかりはいられない。
その日、負担にならないようにと、リフレの元を離れた。
他の人間の頭に乗ってみたが、問題は無い。
この人間は小さいからな。舐められることもあるだろう。まずはここからだ。
リフレにとっては私は役不足だろうが、とりあえず、この人間の鶏冠の役割を果たしてみせよう。
この日、なにやら話し合いの為に、前に行った建物に行くようだ。
試しにギルディートの頭の上に乗ろうとしたが、退けられてしまった。
くっ、お前も私を役不足だと思っているのか。
見ていろ、今に立派な鶏冠として成長してみせるからな!
・・・・・。
難しい話をしている。
ほとんど聞き取れないが、しっかり耳を傾ける。単語を少しづつ理解していけばいい。
後々、何と言ったのか理解できるようになる筈だ。
その後も、リフレの頭の上で色々な話を聞いて学んだ。
リフレが出歩けば、みんな私を・・つまり、リフレの鶏冠を見ている。
きっと畏れているに違いない。
敬え!と頭の上で胸を張る。
私は声を大にして言いたい。リフレは強いんだぞ、そして凄いんだぞ、と。
残念ながら、相変わらず喋ることはできないが、喉の感じから出る声の高さの調整をできるようになってきた。
折角、言葉を覚えたのだから、喋りたい。
だが、私の言っていることを理解してもらうのは難しいようだ。
練習あるのみ、と言ったところか。
交渉の末、ギルディートの頭に乗る事ができたが、私の言葉を理解しているようには見えなかった。
しつこいから、よくわからないけど乗せてやるよ、といった感じの事を言っていた。
きっと、鶏冠の重要性なんて半分も理解していないに違いない。
ちゃんと認めさせて見せるからな!
いろいろな事を学び、色々な事に慣れたと思う。
肉を見る目で見られるのも怖くなくなった。
リフレがいるからな。
リフレが姿を変える。これにも慣れた。
どうやら、この[???]の姿、他人には秘密にしているようだ。
頻繁に、大胆に使っているように見えて、絶対にバレないように注意を払っている。
言葉が喋る事ができないが故に秘密が共有できる、というのは、嬉しくもあり、もどかしくもある。
フードというやつは滑り易くて嫌いだが、今回の姿は、何やら足元にフワフワした突起がある。これは掴み易い。
何をするつもりだろうか。また妙な場所に入り込む。
剣呑な雰囲気だが、気付いていないあたりは流石だ。悪い意味で。
そして振り回される。
だめだ、この速度。相変わらず滅茶苦茶だ。
まだ私がリフレの鶏冠としてやってくには力不足なのは否めない。
だが、きっといつか、立派に鶏冠をやってみせる!
私は、やる気を漲らせるのだった。
・・・・・・・。
さて、最近、外を歩かないせいか、餌を宿で食べることができるようになった。
席に着く時は、リフレが塒にあった羽毛・・タオルというものを敷いてくれるので、そこで啄ばむ。
テーブルの上を歩き回ってはいけないが、こうすることで例外になるようだ。
人間のルールはいつもよくわからない。
相変わらず、「肉」という視線は浴びるし、
喋ることはできないし、
強くもなれないし、
他の人間は恐ろしい。
だが、私は今、幸せである。
知れば知るほど、人間の世界は複雑で、その中でもリフレは特別おかしい。
それでも、死に怯えたあの頃と今では、比べようが無いくらいの安心感を、私にくれる。
私は人間を推し量れるようになっても、人間にはなれない。
人間と同等の能力を手に入れたとしても、きっとリフレの能力を推し量れるわけではない。
そして、リフレと同等の能力・・・・・。
いや、出来もしない事など思うまい。
だが、きっと、いつか。
何かを返せるようになりたいと思っている。
私は立派なトサカになります!!(キリッ)




