逃亡と捕獲
俺は、昔からあまり頭も良くないし、要領も悪い。
自分が人より出来ない事に気付いてから、人より勉強するようにした。
もちろん遊びもしたが。
経験することを学びとし、「凄いと思ったら見習う」を心掛け、出来るだけ、ぼんやりと過ごす時間を少なくするよう努めていたあの頃が苦々しくも懐かしい。
ぼんやりする事こそ至上の贅沢と知ってから、時間が一瞬で過ぎるようになってしまったなぁ。
それはさておき、並みの生活が出来るよう努力をしてきたのだが、不得手が消えて無くなった訳じゃない。
とっさの時の判断力・応用力が未だに低いままなのだ。
それでも、歳を重ねて培ってきた経験のおかげで、そうそう「想定外の事態」には出会わなくなったと思っていたのだが、さすがに異世界で生かせるような経験は少ないみたいだ。
今後の事を考えると、誰か1人でも身柄を抑えておいた方が良いと思う。
しかし、このままだと不味い。飛び道具が出て来るあたり、放っておけばもっと物騒な武器が出て来ないとも限らない。
普通に殺す気だ。逃げた方がいいに決まっている。
逃げるとして、どのルートで?途中に通行人がいたらどうする?
どうしたらいいのか、さっぱり思い浮かばない。
だが経験上、こうして無為に時間を潰していても状況は悪化していくだけだ。
決断しよう。さっさと尻尾を巻いて逃げるべきだ。
俺は、せっせと築かれつつあるバリケードを駆け上がる。
「ちょっ、コラ!待て!」
誰が待つか、ボケ。というか、丁度良い足場を作ってくれてありがとう!
しかも、俺以外にとっては障害物として、ちゃんと仕事をしている。GJ!!
見回してみたが、特に罠らしいものはない。バリケードの外には2人・・いや、3人いたが、躱すのは簡単だった。
いくつか屋根に駆け上がれそうな建物を見つけ、「これだ」という建物から屋根に登る。
数名の追っ手がいたが、さすがに追って来れず「屋根の上だ!」とか言ってる。
ひとまず、これで安心だ。
逃走ルートが屋根なら、追うのも大変だし、変な巻き込み事故も起こらないだろう。
ここら辺は温暖なのか、布(?)張りの屋根とかもあるし、あまり頑丈そうじゃないから、小柄で身の軽いこのキャラでも気を付けないとな。
あ、スザク。大丈夫だったか?
頭の上からスザクを下ろしてみると、なんかモッコモコになってた。どうやら興奮して羽毛が逆立っているみたいだ。
そっと頭の上に戻す。イテテ、なんか耳のツボだそれ。痛いよ。
乗せ直しても、掴み易いのか耳を掴むんだよなぁ。
ニャンコロノフ以外のキャラに変えておくか?
いや、まだこのキャラの方が都合がいいだろう。
そっと屋根の下を覗き込む。
「いたぞ!あそこだ!」
うん?12人はいた筈だが、人数が減ってるな。
3人・・・もしや、バリケードの外側にいた奴らじゃないだろうか。
俺を見失うよりも、追うことを優先したのか。残りはバリケードに阻まれて、まだ来れずにいるのか?
もしかして、分断できるんじゃないだろうか?
分断さえできれば、捕らえることもできるかもしれない。
ちょっと釣ってみようか。幸い、高い所なので遠くまで見渡せる。
人通りはほとんど無いな。
態と目に付くように、屋根を飛び越えて誘導してみる。奴らがワタワタと付いて来る。
こっちの屋根、そっちの屋根。右に左にと振り回してやっていると、1人逸れた。
逸れた1人を捕まえるよりも、今、付いて来ている2人を分断させた方がいい。
せっかく見失ってくれた相手に、合流のチャンスをやる事はないだろう。
少しでもギルドに近付くように誘導する。
駄目だ、2人は固まったまま付いて来てるな。
だが、マップを見る限り相当距離を稼いだし、他の奴らからは引き離せたと思われる。
慌てて逃げ、転けて落ちた振りをしてみる。
普通は挟み撃ちにしようとする筈だ。奴らのいた場所に近い方の通路から出る。
お、1人になってる!
アゴに一撃を入れたら昏倒した。OK。
もう1人が背後からやって来た。
「てめ!よくもカルゴを!」
大声出すなっての。距離を一気に詰めてアゴに一撃。
うん。悪くないな。
ただ、2人目の頭の揺れ方を見るに、リーフレッドとかSTR(腕力)の強いキャラでやったら首の骨が折れるか、下手したらもげそうで怖い。
さて、気絶した人ってアイテムボックスに入るのか?
試そうとしたら、重量限界だった。
CCしようにも、メインのリーフレッドはドラゴンのせいで重量限界近いし、125レベのリーフレッドはワープポイントを持ってる。
150レベの方も色々持ってたと思うが・・・。
CC:リーフレッド
入らないな。実は気絶してない、とかじゃないよな?
ベチベチと顔を叩いてみるが無反応だ。死んじゃいないと思うが。
2人を小脇に抱えて、ギルドに向かって走る。
ギルドにギルマスのおっさんがいたので、こいつらが何らかの悪い組織に入っていることを告げたが、反応はあまり芳しくなかった。
これから衛兵の斥候が出るようだが、あくまで表沙汰にしない範囲の探りだそうだ。
「怪しい」という理由だけでギルドは簡単には動けないらしい。
うん、奴らが何をしていたという訳でもないからな。
せいぜい目撃者は殺せ的な反応をされたぐらいだ。・・・あれ?これって結構、問題じゃね?
一応、取引現場らしき場所を教えておいたし、捕らえた2人も尋問してくれるそうだが、任せて大丈夫なんだろうか?
「それなりに上手くやるさ。」と言っていたので信用しようと思う。
まぁ、これ以上関わりたくないし、いいだろ。
そして宿へ戻ろうとしたら、怪しい男に後を尾けられた。
これって、ちょっと不味いんじゃないか?
理由はわかっている。俺には目印が付いてるからな。
角を曲がったところでニャンコロノフにCCして、ダッシュで背後に回り込み、男のみぞおちにに一撃入れる。
バレちゃいるだろうが、あくまでも手を出したのはニャンコロノフであって、リーフレッドではない、という姿勢を貫きたい。
「ごふっ・・。・・・・ぉ・・・・・っぁ・・。」
何か言いたそうだが、口をパクパクさせるばかりで言葉にならないようだ。
呼吸が止まるらしいからな。みぞおちでは気絶しないか。こめかみに一撃。
倒れたけど、目は開いてるな。めっちゃ睨んでる。
アゴに一撃入れたら沈んだ。
こいつが特別タフだったのか、アゴが気絶させ易いのか分からないな。
コイツもギルドに連れて行こう。
急ぎで、な。
リーフレッドに戻り、気絶した男を追加すると、ギルマスに嫌な顔をされた。
仕方ないだろ。ストーカー被害はこういうのを見逃していると起きるんだよ。
別にストーカー案件ではないんだが。
次の帰り道では、人が追って来る事は無かった。




