核心に迫るのはタイミングを見て
「で、さっき言いかけた、『それに』の後は?」
・・・・・。うん?
ギルディートに聞かれて、さっきまでの会話を振り返る。
説明したって事しか覚えてないや。どんな流れだった?
「本の中に吸い込まれるとは思わない、の後だよ。何か言いかけただろ?」
そうだっけ?
うーん。うーーーん。
「思い出せないな。そんな大した事じゃないんじゃないか?」
俺が言うと、ギルディートは地団太を踏んで見せた。
こらスザク、真似するんじゃないよ。地味に痛いから。爪が刺さってるから。
「気になるだろうがっ。ああ~質問を挟むんじゃなかったぁ!!」
言わなきゃいけない事だったら、もっと一生懸命覚えてるだろうしな。
絶対にそんな悔しがるような事じゃないと思う。
「そういえばさ、そんなに本が沢山あるなら、同じ本も結構あるんだろ?筆写とか複製とか。」
そうだな。何万冊と同じ本があるはずだ。筆写でも複製でもなくて印刷だけどな。
漫画のベストセラーとか何千万冊って出てるらしいしな。
「じゃぁ、リフレみたいに、この世界に来た奴もいるんじゃないのか?」
「!」
こいつ、いきなり核心を突いてくるな。俺もそう思う・・・。
同じ本を読んでいる・・例えのままだと分かりにくいな。
同じゲームをやった事がある奴って、かなりの数に上る筈なのだ。
俺みたいな個性の無い放置プレイヤーが、この世界に来ているのだ、俺だけがたまたまって事は無いだろう。
かといって、こんな転移だか転生だか分からない異常事態、そうそう起こる訳も無い。
「もしかして、前に言ってたポレイヤってのは、その本に関係があるのか?」
・・・・・・・・プレイヤーな。
あと、本は例えであって、本当に吸い込まれたわけじゃないんだ。
実際には魔道具でもないわけだし、説明しにくいから例えに出したわけだが・・。
かえって混乱するか?
例えとしては本が適切なのか魔道具が適切なのかも分からないしなぁ。どっちに例えても無理が出そうだし。
「あ。」
俺が思い出して声を上げると、ギルディートが耳をピンと立ててこちらを見た。
「さっき、『その本はしばらく開きもしなかったしな。』って言おうとしたんだ。
・・・・・・・・・・。ほら、『それに』の後だよ。」
「それは、もはやどうでもいいわ!」
怒られた。気になるって言ったじゃないか。地団太まで踏んでたじゃないか・・・・・。
実際には、「しばらくログインしてなかったしな」と言いたかったんだが、それじゃ通じないだろ。
下手に説明すると、ゲームの説明からネットの説明、電気や文化の説明まで飛躍していくかもしれない。
そうなると、上手く説明できる自信も無いし、ものすごい時間が掛かりそうだ。
・・・長いことやってなかったんだがなぁ・・・。ホント、何故この世界に来たんだろ。
プレイヤーが全員飛ばされたんだとすれば、もっと遭遇してるはずだし、上位プレイヤーのみだというのなら、俺は引っ掛かるどころか、掠りもしないだろう。
って事は、だ。何を基準に、もしく何が引き金になってこの世界に来たんだ?・・まさかの、ランダム?
「はぐらかすなよ!ポレイヤについて教えろよ!」
お前・・本当にもうすぐ三十路か?公式ではそんな設定だったはず・・。
マリッサは24歳だって言ってたし、公式設定のままなら29の筈だ。仮にゲームより少し過去だったとしても28だろ?
男はいつまでも少年の心を持っているとか言うけど、さすがに限度があるだろ。
「じゃぁ、まずはこの四角の擬似世界についてだが、TFF(トリニティー フィールド オブ ファンタジア)と呼ばれている。本の名前だと思ってくれていい。」
ギルディートが「とり・・」とか言ってるが、覚えなくて良いし、多分覚えられまい。
「コケ。」
お前の事じゃない。
「で、その本に入って疑似世界に入った人をプレイヤーと呼ぶ。本の中でプレイヤーは、物語の登場人物を疑似体験できる外、プレイヤー同士で交流したり、PTを組んで一緒に冒険したりもできる。」
おや?ギルディートの反応が思ったのと違うぞ。
もっとワクテカさせて話を聞くもんだと思っていたが、何を考え込んでいるんだ?
「ただ、プレイヤー同士は、元の世界でも知り合いとは限らないし、お互いに本の中では登場人物の姿をしているから、自分で明かさない限り、お互いを知ることも無い。
だから、年齢も性別も外見とバラバラだったりするし、本当に信頼できる相手なのか、なかなか分からなかったりするんだ。
だから、元いた世界の仲間として、他のプレイヤーに話を聞きたい気持ちもあるが、少し怖かったりもするわけだ。
何しろ、何故この世界に飛ばされたのか分からないからな。実はものすごい厄介な事になっていて、首を突っ込んだせいで巻き込まれるかもしれない。
情報は欲しいが、下手に探って酷い目に遭いたくないから、接触は慎重に行こうと思っているんだ。」
プレイヤーについて知りたいなら、俺が説明できる範囲はこんなもんだと思う。
あとは、ギルディートが納得できたかどうかだが。
「質問がある。」
あ、はい、どうぞ。
「他にもリフレみたいなのが沢山いるかもしれないんだな?しかも、善人か悪人かも分からない奴が。」
そういうことになるな。頷く。
「リフレは、その中でも強い方だよな?」
「いや、多分・・じゃないな、十中八九、弱い方だ。」
ギルディートが絶句して口をパクパクさせる。
うーん、まぁそうなるよね。
周囲の反応を見るに、どうもこの世界でのレベル250って相当高いっぽい。
でも、アップデートによってレベル上げが簡単になった今、そこそこプレイしていれば250あたりは目指せる。
レベル上限255だった頃には夢みたいなレベルだったが、俺がこのレベルに辿り着いてる理由がそれだ。
で、半年はプレイしていないような放置プレイヤーの俺。
アップデートは進み、レベル上限が今290だか300だか・・・。
廃プレイヤーならカンストさせているだろうし、新しいクエストやフィールドでレベ上げして、それまで燻ってたプレイヤーもレベルを上げているだろう。
そう考えると、俺の252レベルって微妙だと思う。
その微妙なレベルの俺でも異端レベルで強いのだ。
そして自分で言うのもあれだが、常識があまり無い。
それが何人もいるかもしれない、下手したらうじゃうじゃいるってのは不気味かもしれないな。
そいつらが居る所は、おそらく、俺の知らない新実装マップ辺りだろうと検討を付けている。
この辺に、250以上のレベルの奴が来るとすれば、プレイヤーの開いている露店を目当てにか、闘技場あたりに用事があっての事だろう。
拠点は、レベルに合ったダンジョンの近い街になるだろうし、そうなると、この辺にプレイヤーが居ない説明が付く。
俺は・・多分、蚤の市で掘り出し物が無いか見ていたんじゃなかろうか。
蚤の市ってのは各国2箇所くらいづつあって、巡るのが大変なんだよなぁ。何故か都会ではなく、ちょっと田舎っぽいところにあるんだ。
混雑を避けて、変な所に出店してる上級プレイヤーも多いし。
そして、蚤の市を見た後に、動作の重くない場所に移動してログアウトしたのではないだろうか。
そのせいで、この世界に飛ばされた時に、最後にこのキャラがログアウトした地点だったのではないか、と推測している。
・・正直、ログアウトした場所なんて覚えてないし。
「で、物語の登場人物ってのは、主人公じゃないのか?何人もいたりする?」
「っ?!」
ギルディートがいきなり核心を突いてくる。ちょっと待て?どういう意味で聞いてる?
下手に受け答えすると、俺のCCがバレるぞ。・・もしや、もうバレてるのか?
俺は咄嗟に言葉が出て来ず、頭の中が真っ白になったのであった。




