郷愁と考察
教会を横目に通り過ぎ、西門から町の外に出ると、道が続いている。
東の森とは違い、獣道でもなく、途切れ途切れでもない、力強い道だ。
それもそのはず、ゲームの通りならこの道は他の町にも繋がってるのだ。
現在地の平原から、フィールドを3つほど越えなければならない筈だが、2つの町に行ける。
人口密度は多分そんなにコランダと変わらず、商業地でショップの多い、都会でも田舎でもある町ディアレイ。
海が近くにあり、何もかもの規模が大きく違う町ノルターク。
それらの町に向かう、分かれ道の付近にもワープポイントがあったはずで・・・
ワープポイントについてだが、設置場所に一定の決まりがあったように思う。
各主要な町には必ずあった。
ゲームスタートの地点はもちろん、大きな町なら国を超えて設置されており、「戦時中って世界観なのに、これってどうなの?」と思ったものだ。
ダンジョンのあるフィールドのダンジョンから離れた場所、もしくはダンジョンのあるフィールドの1つ前のフィールドに設置されていたように思う。
よくよく考えてみると、思いつく限りはそうだった。
これまでずっと深く考えずに利用し、「ダンジョンまで遠いんじゃボケ」とか思っていた。
だからどうしたという話だが。
今のところワープポイントを1つも見つけていないのだから、無意味な考察なのかもしれない。
「あるはずの場所にない」という現象が起きてる以上、ワープポイントを見つけるという目的においては期待薄だ。
おかげで、帰還の札と双璧を成すはずの移転の札が、ゴミアイテムと化している。
帰還の札は、逆に凄まじい高騰を見せているわけだが。
それより今、俺は他の町にプレイヤーがいて、接触できるのではないかと考えているのだ。
しばらく放置していたゲームの世界に突然放り込まれた俺は、何が何だかわからない。
しかし、他にプレイヤーがいるのなら、何か事情を知っているかもしれない。
とはいえ、VRゲームでもない普通のMMOの世界に放り込まれるような異常事態を冷静に把握している人がいたら、それはそれで不気味でもあるか。
うん、この事態の元凶とかかもしれないし、接触は気を付けたほうがいいかもしれないな。
幸いにも、俺にはCCがある。
サブ鯖のサブキャラになって、人探しクエストでも出せばいいのか?
いや、サブ鯖(鯖)は低レベル大剣と倉庫キャラしかいない。
預かり所が生きていたとして、倉庫キャラを潰すのは痛いな。
そもそも、この世界で「メイン鯖」「サブ鯖」なんてものに意味はあるのか?
CCしても、俺は同一人物と見なされる可能性は?顔は同じだし、中身も同じなんだよな。
考えがまとまらない。
昨日も今日も出社日だ。
向こうの世界とこちらの世界の時間が同じように流れているとしたら、2日も無断欠勤だ。
そもそも、あちらの世界の俺はどうなっているんだ?
時間が止まっている、とかであれば、何も考えずに異世界ライフを楽しめるのだが。
まぁ、この世界から元の世界に戻れる事を前提に、だが。
失踪?普通に考えると、この可能性が一番高い。
死亡?あ、俺もしかして寝てる間に死んだ?在り得るけど、だとすればこの世界は一体何なんだ?
あの世がゲームの世界とか、笑えないし、ゲームを知らない他の人がどんな世界に旅立つんだという謎もある。
ある物語を参考にすると、「俺は過去ごと消滅した」なんて可能性もある。
「俺が存在した」という事実は、向こうの世界から消えている。・・・ゾッとする話だ。
何にせよ、その根底にある疑問は1つ。
「どうして?」だ。
どうしてこうなったんだ?
どうして俺なんだ?
どうして異世界に飛ばされたんだ?
前兆も無かったし、関連する出来事も身に覚えが無い。
暦こそ長いものの、ゲームの世界に招待されるような廃プレイヤーではない。
俺より暦が長い奴だって、数は減ってもまだまだ生き残っているはずだ。
そもそも、現在は半年から1年の単位で放置し、動画なんかの広告でアップデートやらコラボやらを知り、気が向いたら少しの間だけ復帰するような、かなりマイペースなプレイヤーだ。
実際、ここしばらくログインした記憶はない。
身に覚えが無い以上、「どうして」を考えるのは無駄だろう。
答えにたどり着ける要素がない。
向こうの世界についても、俺の存在についても、こちらに来た理由についても、そしてこの世界が何なのかも、考えるだけ無駄なのだ。
向こうの世界で俺の身に何が起きていたとしても、こちらにいる以上、どうしようもない。
生きてようが、死んでいようが、消滅していようが、どうしようもないのだ。
・・・・・・。
しばらく道を進んでいくと、フィールドの終わりにある岩場が見えてきた。
キャラの歩行速度はだいぶ速くなっているはずなので、マリッサの速度で来れば、3倍の時間はかかるだろう。
ここまで、グミーやポイズングミーを見かけたが、フラウワという植物系のモンスターを見なかった。
生息しているはずだが、道沿いのせいだろうか。
もちろん、ゲーム上での隣のフィールドだからと言って、先が見えないという事は無く、その先の道が見える。
そういえば、マップの機能って視界の範囲みたいだ。
最大で直線距離で見えるところまで。
フィールド全般が見えてたゲームと違い、ちょっと不便だが、その代わりにフィールドの括りがなくなって、岩場の向こう側まで表示されている。
捨てられないアイテムの地図を開こうとしたら、持って来てなかった。
検証のために宿に置いて来たのだが、どうやら肌身離さず持ってなくてもいいアイテムに格下げになったらしい。
つまり、捨てようと思えば捨てられるみたいだ。
ゲームとの相違点はまだあるに違いない。
ここまででわかっていることを挙げていこう。
トイレに行きたくなった時にCCして別のキャラになっても、生理現象は変えることが出来ない。
多分、食事も同じだと思う。トイレ・空腹・睡眠は持ち越せない。
気になっているのが状態異常だが、ダンジョンに入って確かめるつもりができなかったので、未検証だ。
そして、各町にあった預かり所が無い。
正確には、コランダの蚤の市にあった預かり所が無いので、他の町にも無い可能性がある。
じゃぁ、預かり所に預けてあったアイテムは消えたのか?つまり「無かった事になった」のか?
それが「無かった事になった」のなら、そもそも同じように獲得してきたアイテムが残ってるのは何故だ?
初期化されて消えたというのなら、各キャラのレベルや装備だって消えているはずだ。
ゲームの設定を受け継いでいる、ということは、どこかにそのアイテムがあるはずである。
それを引き出す術の1つを、確かめてみる事にした。
“ペットシステム”
ほとんど愛玩用のペットの、誰も使っていないシステムを。
ただ、問題が1つある。
召喚:ましゅまる
「クエエエエ!!」
ボウッ!!小型(?)の白いドラゴンの吐いた炎が俺の身を包む。
そう、俺のペットの好感度は最悪まで下がっていたのだった。




