ダイナミック帰還
いつまでもコイツの頭を背負ってても、回復しないんじゃしょうがない。
水を吐かせることもできないし、なんとかならないだろうか?
アイテムボックスに入れることを試みると・・・。入った。
・・・生き物って、アイテムボックスに入るのか?それとも、やっぱり死んで・・・・・。
とりあえず、考えない事にして、陸地を探した。
うーん、全方位海だねぇ。
だんだん暗くなってきているし、通りかかった船も無かった。
これは、さっき見えた陸あたりを目指すしかないのかな??
泳ぎはあまり得意では無いが、陸地を目指して泳ぎ始める。
服を脱いだほうが消耗が少ないので脱ぐべきなのか、脱衣に体力を使うくらいなら進んだ方が良いのか。
判断に迷うが、助け出された時に素っ裸なのはちょっとな。仮に死体になったとしても、だ。
俺にだって恥じらいはある。
沈んだ時に見た感じ、かなり深そうだったので、陸は遠いだろう。
幸いにも、周囲にはほとんど生き物の気配は無く、逸れの小魚と、クラゲのような物体と、遠くに小魚の群れらしいものが見えただけだったので、とりあえずの脅威は無いと見た。
犬掻きから平泳ぎに転向し、クロールか背泳ぎにした方がいいかな?と思い始めた頃、鋭い爪が肩に食い込んだ。
痛い、痛い!いや割とマジで!
海面がおろし金だったら全身 摩り下ろされてるレベルでズバババババ・・と水を切って牽かれた後、ダパン、と海中を脱し、空へと舞い上がる。
ましゅまるだな?
ありがたいといえばありがたいんだが、めっちゃ風当たるし、しかも空気が冷たい!
暑さ寒さに強くなったと思ったんだが、装備も無い上に体が濡れているから、普通に冷えるんだ。
高度はどれくらいだろうか?雲より下だが、見上げるとめっちゃ近い。そして冬みたいに寒い。
うう、これは新手の嫌がらせか?いや、運んでくれてるのは助かるんだが。
そもそも、これは運んでくれてるのか?その辺に捨てられたりしないよな?
疑心暗鬼に駆られてるうちに、ましゅまるは高度を下げ、陸地が見えてくる。
速度が緩み、高度が下がって行き、陸地がどんどん近付いて来た。見覚えのある海岸だ。
あれは・・・ギルディートだろうな、テントに見覚えがある。
宿に戻らずに待っていてくれたようだ。それも野営の構えで。
ん?よく見ると頭にスザクを乗っけてないか?結局、乗せる事にしたのか。
ここまで来ると、ゆったりとした空中散歩を楽しむ余裕も出てくる。
高度が下がったせいか、それとも水分が飛ばされたせいか、寒くないしな。
焚き火に当たっていたギルディートも、こちらに気付いたようだ。
まだ空は暗くなってないしな。
立ち上がったものの、間抜けな面でこっちを見上げている。
で、
ズシャァァアアア!!!
俺はついに地面に着地した。
というか、減速してたので油断していたら、振子のように勢いを付けてポイッと投げ捨てられた。
おかげで、俺は地面に突き刺さる勢いでヘッドスライディングしてったわけだが。
ましゅまるは、着地する前にホバリングして、優雅に降り立ったので、俺を下ろす時もやろうと思えばできたはずだ。
やっぱり性格悪いぞ、こいつ。
砂まみれになった俺だが、とりあえず、ましゅまるを送還する。
普通に遊んだだけなら塩を流してやりたいと思うのだろうが、そんな大量の水も持って来て無いし、コイツには大変な目に遭わされたからな。
結構上空にいたみたいだし、そこまで塩塗れになってるわけではないだろう。
労ってやる必要は無い、というかそもそも、ましゅまるが飛び出さなければこんな目に遭わなかった筈だ。
あー疲れた。
ましゅまるの後、時間があればもふもふ達も面倒を見てやりたかったんだが、無理だ。
狙ったのか知らないが、ギルディートのいるテントの直ぐ近くに着地(?)していた。
「・・・帰ろう。」
[人喰らい]は仮に死んでたとして、蘇生リミット1分を過ぎていると考えれば蘇生不可能だろうし、アイテムボックスの中は時間経過が無いのだとすれば、今やらなくても変わらない筈だ。
生きてたとして、水を吐かせたり色々措置が必要になってくるだろう。
面倒な事はとりあえずしたくない。今日はもういいだろう。
「装備・・・いや、何でもない。」
おそらく、装備を付け直せと言いたかったんだろうけど、俺の顔を見て色々と察したらしい。
何か付いてたか?ああ、砂がめっちゃ付いてるな。
撤収の準備を始める。
スザクは、俺の微妙にまだ湿っぽい頭に戻ってきた。塩だらけだけど大丈夫か?
撤収の準備を見て気になったことがあったのでギルディートに話しかける。
「おい、その鍋って・・・。まさか、市場でもらった腐りかけのやつじゃないよな?」
「チ、違ウヨ?新鮮ナヤツダヨ?」
何故カタコトなんだ?
ギルディートはいそいそと鍋を仕舞う。怪しい。
そういえば、俺も後片付けをしないとな。
後回しにしてしまったが、直ぐに済ませておくべきだった。
と、ここで、ようやく鍋の正体に気が付く。
「・・・その辺に、キャベツが粉々になったヤツが散らかってたと思うんだが、ギルディートが片付けてくれたのか?」
「う、うん。」
ほら、耳が下がってフルフルしてるし、視線が合わないだろ。
あのキャベツを拾ったようだ。それにしても、綺麗に片付けたもんだ。
暗いせいかもしれないが、欠片の1つも見当たらない。何処に落ちていたのかもわからない。
「それは有り難いが、もし、散らばってたヤツが食えると思って回収したんなら、ちゃんと洗えよ?
この辺、かなり砂っぽいからな。」
「うん。」
ちゃんと洗ったらしい。OK。
そういえば、ギルディートって鍋にするほど水を持ち歩いてたっけ?
「あと、海の水で料理しようとか思うなよ?」
「・・・・・。」
これは・・海水で煮込んだな?大方、水も塩も節約できて楽だとか、そう思ったのだろう。
海は綺麗に見えるが、どうだろうな?煮沸するから菌という意味では大丈夫か?
成分は?まぁ飲んで死ぬ事はあるまい。
ちょっと塩辛いかもしれないが、むしろミネラルが摂れて健康的・・なのか?
いや、でも海水を調理に使うって話は聞いたことが無いな。
刺身とかをちょっと海水で洗って食べるとかぐらいしか・・・。
まぁ大丈夫か。大丈夫としよう。
いつも海水で作るわけじゃないだろうしな。
俺は、詮索するのは止めにして、ノルタークへと向かう。
今日はもうゆっくりと休もう。




