わりと酷い幕引き
夕焼けが、海を複雑な色に染め上げる。
キラキラと光を反射する水面は黄金色に、そして、その周辺は茜色に。
俺の落ちていく海面は、深い紺色をしていた。
飛行機に乗った経験は数あれど、スカイダイビングの経験は一度も無い。
が、海上なので地面と言うか海面までの距離感がイマイチ掴めないのもあって、思ったほど怖くはなかった。
むしろ、さっきまで高速で振り回されていた時の方が速度あったしな。
ダメージが怖いので、ワープポイントを仕舞ってCCする。
同じリーフレッドだが、レベルが100以上違うのだ。装備も段違いだったりする。
空気の抵抗を最大限まで受けて、着水の瞬間につま先から刺さる感じで海面に入れば、なんとかならないかな?
ならないよな。コンクリートの硬さじゃぁなぁ。
しかし、コンクリートも砕けるステータスだとしたらどうだろう?
この辺は賭けになる。
俺が着水の為に心の準備を整えていたところ、肩付近を鋭い爪が掴んだ。
[人喰らい]かっ?!
すわ、と身構えたが、どうしようもない。
反撃するとしたら、この爪に向かってだろうが、そんな事をすれば落ちるだけだ。
しかし、ここからどう戦局が動くのか想像できない。
頭から丸齧りされちゃう?空中でそれは難しいだろう。
より高いところから落とされるのはキツイなぁ。
上手い事この爪を掴んで背中に乗れれば、再びワープポイントを取り出して、もう一度体力を削いでやるんだが・・。
下方向に落ちていくのみだった運動の流れに、ぐぐん、と横に力が加わり、下への速度が減速した。
と思いきや、滅茶苦茶に振り回される。
上昇を始めたところで、ようやく状況を飲み込めた。
ましゅまるが俺の肩を掴んで、[人喰らい]からの攻撃を避けているようだ。
再び上昇してからは、ましゅまるの飛行は安定し、俺を掴んだまま宙返りしたりしている。
肩が掴まれて上半身固定状態の俺の視野はとても狭いので、どうなっているのか全く分からないが、時々[人喰らい]がものすごい勢いで通過していくので、争いが続いているという事だけは分かった。
そして、何度かの攻防の末、俺は[人喰らい]の背にそっと置かれた。
「ギャウ?!」
「クェェ!クェエ!」
今度は、ましゅまるが指差して笑ってる気がするんだが・・。
俺は嫌がらせアイテムか何かかっ?!
まぁご期待に応えるとしましょうかね。
今度は落ちないよう、しっかりとニーグリップを固める。
つまり、しっかりと膝で[人喰らい]の首を締め上げて剥がされないように騎乗する。
そしてレベル125のリーフレッドにCC。
取り出だしたるはワープポイント。さぁどうだ?
さっきみたいに振り落とそうと暴れる[人喰らい]だが、最悪、巻き付くようにしてでも離れない覚悟だ。
俺が本気で張り付いている以上、俺が風に煽られれば、当然、コイツも一緒になって煽られる。
ヤバイと感じたらワープポイントをアイテムボックスに入れて体勢を立て直し、再び取り出す。
同じ轍は踏まないさ。
「ギェエエエエエエエエエ!!!!!」
[人喰らい]は、頭を左右に振り、怒り狂ったように海面に突入した。
・・・・・。
っぶはっ。
危うく、洗い流されるところだった。
危険を感じてワープポイントを仕舞ったのが幸いして、なんとか背中に張り付いている。
しかし、濡れたせいで、その背は若干滑り易くなっており、ワープポイントを出して煽られたら吹き飛びかねない。
[人喰らい]がヨレヨレと空に上昇していくのを、ましゅまるが指を差して笑った・・ように見えた。
「クェッ!クェッ!」
気のせいかもしれないが、[人喰らい]から怒りのオーラが立ち上っていく。
いや、明らかに怒っている気配がする。
やばい、と感じCCし直した。メインのリーフレッドだ。
ゴォォ、という音と共に上昇し、凄まじい速度で海に滑り込んでいく。
俺は剥がされまいとしっかりと首に抱き着く。
敵に抱き着かれて気分の良いもんではないと推察するが、こっちだって必死だからな。
「「ゼェ、ゼェ・・・・」」
いや、俺も結構大変だったけど、お前もしんどいんじゃないのか?
明らかに消耗しているし、その疲れ方がワープポイントの比じゃないんだが。
今度は海中から脱したものの、なかなか上昇しない[人喰らい]を小馬鹿にするように、ましゅまるが上空を小旋回している。
なんとなく気付てはいたけど、お前、性格悪いな!?
遠くに陸が見えてきたのだが、再び高度を持ち直してしまっていた。
ここに『スイバ -試作型』があれば陸まで走れたかもしれないんだが、さすがに遠いか。
装備を仕舞えば泳げるが、何が生息してるかわからない海中で無防備になるのはちょっとな。
[人喰らい]がゆっくりと大きく旋回を初める。ああ・・陸が遠ざかっていく。
[人喰らい]は、体力が回復する度に海中に飛び込み、俺を振り落とそうとした。
実際、水圧で吹き飛びそうになる事は何度もあったが、なんとかなっている。
龍というと水中もいけるイメージだが、どうやら[人喰らい]、水陸両用ではないらしい。
と、いうのも、水中に没した瞬間、明らかに速度が落ちる。
それまでの速度を利用にしてなんとか空中に飛び上がっているといった感じなのだ。
なので、水中にいる時間は大して長くないし、突入時の衝撃に耐えてしまえば、後は呼吸を止めていればなんとかなる。
むしろ、大幅に減速してしまい、上昇するエネルギーさえ回復するのがやっとな[人喰らい]の方がダメージでかいと思うんだが。
そして、何度目かの突入で、ついにそれは起きた。
これまでなら、バシャァアと水飛沫を上げて飛び出す筈だったのだが、そのまま勢いを失い、上昇の気配を失った。
更に緩やかに減速し、沈み始めたところで、ようやく異常に気付く。
勢いが足りず、海面から飛び立つ事ができなかったのだ、と。
[人喰らい]は、バシャバシャと翼で水を搔いていたが、既に体が沈んでいる。そう長くは持つまい。
こうなれば一蓮托生なので、装備を外して仕舞い始める俺。
それを空中でプギャーと指差すましゅまる。お前なぁ。
[人喰らい]が沈むのは早かった。俺も装備を外しきっていないので、一緒になって沈んでいく。
沈む寸前、荒めに何度も呼吸をし、思い切り息を吸い込んでおいた。
これで血中の酸素濃度が多少上がっているはずだし、少しは持つだろう。
焦らないように心がけて装備を外す。思いがけず海中でアイテムボックスを使うことになったが、問題なく使えるようだ。
装備を全部アイテムボックスに入れたところで、弱々しく暴れていた[人喰らい]の首を抱えて全力で海面を目指す。
きつかったら見放す予定だったが、流線型(?)のボディのおかげで水の抵抗は思ったほど無い。
ぷはっ。
海面に出る。
上を目指してる時から見えていたが、ましゅまるが小旋回をしている。
[人喰らい]の顔を水面に出させる。まずは呼吸だが・・・。
・・・・・・・。
こいつ、死んでないか???
気絶しているだけか?
「プクェーーーー!」
ましゅまる・・。いつまで「ざまぁ(見ろ)」してるつもりだ。
こいつ、性格がやばい。こっちは死に掛けたようなもんだぞ。
今後何かあっても、極力、ましゅまるに頼るのはやめておこう、と俺は思った。




