斜め上空の戦い
俺が剣を構えたのは、敵対の意志を感じたからでもあるが、それだけではない。
[人喰らい]
そいつのネームだ。
どこかでそう呼ばれているという事であり、つまりは人を食い殺した、という事だろう。
外見の特徴で判断するとブラゴンというモンスターに見えるが、ブラゴンはせいぜい150レベルのモンスターだし、別物と考える。
体格は、ましゅまるより二回りほど大きいし、なんかゴツゴツしている。
プテラノドンという恐竜を思わせる外見だが、翼の他に鋭い爪の付いた前足が付いていて、こちらの方が些か凶暴そうな顔付きをしている。
まぁ、プテラノドンの顔付きなんぞ知らないわけだが、突き出した牙が怪獣っぽいというか、凶悪そうというか。
グラフィックではドラゴン系モンスターなんて色以外はちょっとした違いしか無かったのだが、結構違うもんなんだなぁ。
名前が付いてると他のモンスターより手強いのはお約束だし。
手加減する必要は無いし、間違えればこっちの身が危ない。
スキル:斬首
スコッ、という、思ったよりも軽い手応えで俺を斬り裂こうとしていた[人喰らい]の前足が一本飛んだ。
岩のような外見だったので、もっと堅いかと思ったんだが、意外だ。
そして、その翼を掴み、背中に回る。
ふぅ、足場があるのはいいな。回転も無いし。
飛んだ前足は回収し損ねた。
もし回復させる事になるなら、あった方がいいと思ったのだが、何しろ空中戦。
俺には余裕も空を飛ぶ術も無いからな。
スキル:斬首は、重い一撃で、高確率でクリティカルになるスキルだ。
総合ダメージでは千斬乱衝に劣るが、こちらを選択したのはダメージを分散させてしまうよりも、集中させて一撃入れた方がいいという判断したからだ。
相手の強さが分からない以上、表面だけ傷付けて終わる、というのは避けたかったしな。
「ギュオァ??!?」
スキル:疾風 のおかげで、俺は攻撃した上で[人喰らい]によじ登り、一息入れるくらいの余裕はあったが、[人喰らい]にしてみれば一瞬の出来事だったのだろう。
戸惑ったような挙動と声を上げる。
その翼の付け根に切れ込みを入れた。機動力を奪う為だ。
ましゅまるは飛ぶ前に羽ばたいていたし、魔法的な不思議力で飛んでいたとしても、翼が全く無関係ということはない筈だ。
切り落としたら落ちそうだから、そこまではしない。
・・・そして、効果はいまひとつのようだ。
どっかに着陸してくれないかなぁ。
いくら海上でも、100メートルの高さから落ちたら人ってだいたい死ぬらしい。
何メートルから落ちたら、水がコンクリート並みの硬さになるとか聞くし。
『首を飛ばせ!』
ましゅまるが何か言ってるが、コイツの言い分もあるだろうし、いきなり殺すのはどうかと思うわ。
喧嘩売ったの、ましゅまるだろ?
とはいえ、見たところモンスターだし、ネームも物騒なので、事と次第によっては討伐しなければならない。
言葉が通じなくても同じだ。相手はモンスターだからな。
「言葉がわかるか?」
念話を意識して話しかけてみる。
一応PTチャットやクランチャットは念話という扱いだった筈だ。
つまり、俺が使えない道理は無く、ましゅまるが話せるんなら、こいつも話せるんじゃないかと思ったのだ。
例え人を殺していたとしても自衛の為かもしれないし、事情があるなら聞いておきたい。
が・・。
「シギャァァアアア!!! ギシャァァァアア!!」
暴れる、暴れる。
こいつに傷を付けた相手が背中に乗ってる訳だし、落ち着けって言う方が無理だろう。
だいたい、こうしてる間にも、ましゅまるが攻撃を加えてきているのだ。
割とアクロバティックな動きで、急旋回や宙返りを繰り返す。どうやら俺を振り落としたいらしい。
何度か話しかけてみたが、言葉が通じる気がしない。
軽くペシペシ叩いて気を引こうとしてみたが、それに対しての反応も無い。
コミュニケーションを取るのは厳しいようだ。
「生意気」とか言ってたし、ましゅまるとは話せるんだよな?・・ドラゴン語???
『無駄。殺せ。』
ドラゴン同士って仲間じゃないのか?斬れだの、首を飛ばせだの、殺せだの。
喋ったと思ったらこれだもんな。物騒にも程があるだろう。
仮に倒したとして、俺の足場ってコイツなんだよね。コイツを倒したら、当然落ちるだろう。
ましゅまるは俺を乗せてくれる気あるのか?チラとましゅまるを見てみる。
「フスン。」
・・・・・ですよね。
不本意ではあるが、討伐する方向で考えは纏まっていた。
仮に何か事情があったんだとしても、こうして相見えた以上、敵である。
それに、おそらく人を見付けたら、やはりまた襲うだろう。
そうなったら絶対に後悔する。
幸いにも、[人喰らい]のDEF(防御力)は思ったほど高くないっぽい。
戦って倒せない相手では無さそうだ。
背後の死角からというのは、ちょっと卑怯な気はしないでもないが、むしろ有利だし。
急所は射程内と言えるだろう。
何が問題かって、この高度なんだよな。
手応えはあったものの、一撃で止めを刺せるような雑魚ではない。
地上で戦えば勝てる見込みは充分あると思うんだが・・・言っても仕方ないな。
ゲームで空を飛べるモンスターが地上で戦ってる方が不自然なんだから、こんな事もあるさ。
で、どうしようか?
俺は、機会が無くてしていなかったというか、うっかり先延ばしにしていた検証を試してみる事にした。
CC:リーフレッド
俺は、125レベルのキャラにCCする。
何故かって、こいつが一番重量級のアイテムを持っているからさ。
俺は、アイテムボックスからワープポイントを取り出す。
「??!? ギュェエ! ギュァア!」
うん、ドラゴンでも重いもんは重いみたいだな。
さて、ましゅまるは・・・、っと。CCしても自動では送還されてないな?
ペット連れはログアウトすると、ペットも一緒に消えるが、やはりゲームと現実との違いがあるようだ。
このまま元のキャラに戻ってもいいんだけど、あっちはアイテムボックスの空きが少ないんだよな。
一応、戦闘中なので、咄嗟に身動きが取れないようだと困りそうだしな。
戦闘になったら、また元のキャラに戻ればいい。
俺が[人喰らい]のスタミナを奪う為に出したワープポイントは、大変いい仕事をした。
あまりの重さに空中機動は不安定になり、宙返りをできるだけの速度が出せず、旋回を繰り返すのみ。
徐々に高度が下がり、ヘロヘロになっていく。
だが、速度は相変わらずだ。このワープポイント、ざっくり言うと“めっちゃ重い板”である。
それを両手で持っていた俺は、足の力だけでコイツの背にしがみ付いていたわけだが、度重なる旋回により風の煽りを受けた結果、俺はついに空中へと投げ出されるのであった。




