市場に買出し
このまま宿に流れ込んで宴会・・かと思いきや、町に戻るなりオッサン達は散っていった。
マリッサも宿の部屋に引篭もった。
ドワーフって、とりあえず一仕事終わったら飲む、何かあったら飲む、みたいなイメージがあったが、そうでもないらしい。
マリッサに「ちゃんと寝ろよ。」と声をかけたら目を逸らしたので、「じゃないと協力しないからな。」と釘を刺しておいた。
「つまりは、ちゃんと寝たら協力するという言質が取られてしまったわけだな。」
ギルディートが横で何か言ってたが、気にしたら負けだと思う。
気にしなくても、既に負けているという感が無いでもないが、とりあえず置いておこう。
「なぁ、ギルディート。市場ってどっちの方にある?」
今日は放置気味のましゅまるに餌をやりたいと思っている。
何だかんだで一番活躍しているしな。
近くで狩ってもいいんだが、狩りに行ってるうちに夜になってしまいそうだし、食料品を売ってるところを見ながら購入した方が手っ取り早い。
「案内しようか?」
おお、頼む。先にギルドに寄ってミラバドの涙を換金しないといけないけどな。
キャラを変えれば現金がある事はあるが、換金を優先しようと思う。
現金は重さにならない仕様は相変わらずだし、ゲームでは無いこの世界で死ぬつもりは無いので、死亡ペナルティの事は考えなくて良い。
まぁ、盗難には気を付けないといけないみたいだが。
で、ギルドに行ってミラバドの涙を3つ換金しようとしたのだが。
ギルマスのオッサンがやって来て言った。
「売って欲しいのはやまやまだが、恥ずかしい事に、現状、当ギルドの財政状況は逼迫していてな。
一度に全部購入するのは厳しい。数回に分けて買い取らせてはもらえないだろうか?」
えっ?たった3つだけだけど・・・。
と思ったが、換金業務はまだ残っているし、これまでの業務で換金したので、俺のアイテムの買取に使える金がミラバドの涙1つ分なのだそうだ。
というか、とりあえず1日1つまでで勘弁してくれと言われた。
とりあえず1つだけ換金しよう。何度も来なきゃいけないのは面倒だな・・。
「ところで、この間もこれを寄越したが、まだ沢山持っていたりするのだろうか?」
ギルマスのオッサンが質問してくる。
残り・・・丁度30だな。っつったら、ギルマスとギルディートが「はぁ?!」と声を揃えた。
1つ30万Dだから、全部売ったら900万Dか。・・・金の延べ棒9本分だと思うと、結構な金額なのかもしれない。
「お前さん・・暗黒洞窟にはよく行くのか?他のアイテムはどれだけ持っている?」
この世界に来てから行った事はないし、もう狩場としてはおいしくないから行ってない。
・・と言っても通じないだろうし、頭がおかしいと思われそうなので、「昔ちょっと・・」と濁しておいた。
CCして他のアイテムの数も見てみる。
・モグゴンの爪×38
・サボンナッツ×41
・シャドウエッジ×26
・ミラバドの涙×30
どれも流通量が少なく、人気の高いアイテムなので、高く売れるのだそうだ。
まぁ、ミラバドの涙は宝石なので特別高いようだが、他のアイテムも3~5万Dで売れるのだから、ゲーム時代と比べて随分と高騰したものである。
必ず売り捌くので、時間をくれと言われた。
俺が売ったミラバドの涙をどっかで売り捌いて、その金でまた俺のアイテムを買うつもりのようだ。
まぁ、売れるなら構わないけど、そんなに頻繁に来るのは面倒なんだが・・。
「俺が代わりに換金して来てやるよ。」
ギルディートが言ったので、それは助かると思って頼んだら、驚いた顔をされた。
いや、お前だって俺に金塊を預けてるだろ。
「・・手数料取るよ?」
急に思い付いたように言うので、「お小遣い程度ならいいけど・・。」と言ったら小躍りして喜んだ。
無邪気過ぎんだろ。
とりあえず、ミラバドの涙を換金し、30万Dを手に入れた。
もう夕方だが、「市場に行っても店が閉まってたりしないのか?」とギルディートに聞くと、「これから書き入れ時なのに、どうして閉まるんだ?」と逆に聞き返された。
市場というものは朝やってるイメージだったが、そうでもないらしい。
むしろ、夕飯前のこの時間、日払いの仕事なら給料も出ている頃なので、最も市場に活気が溢れるのだそうだ。
つまり、ものすごい人でごった返しているわけだが。
「お前、どうやってこの人ごみを擦り抜けてるんだ?スリが衝突れずに流されてったぞ。」
ギルディートが苦笑いを浮かべる。
まぁ、大きな駅の中みたいな感じで、人の通らない場所や、同じ方向に向かって流れている人の間を縫えば上手く歩く事ができる。
乗換えがシビアな公共交通機関をよく利用していた俺としては、そこまで苦ではなかった。
まさか、スリに狙われてるとは気付かなかったが、衝突りに来る人がいれば、うまく躱して行かないと余計な時間を食うからな。
ギルディートの躱し方はAGL(敏捷性)任せに無理矢理といった感じで、見ていて危なっかしく思える。
が、似たような動きをしている奴らもおり、ギルディートだけが特殊というわけでもないみたいだな。
多分、冒険者なんかはそうやって人ごみを擦り抜けるのが主流なんだろう。
で、その辺で衝突り合って喧嘩をしているとわけか。何やってんだかなぁ。
で、到着したのが食肉屋だ。店に肉が並んでいる。
こんな温かい時期に大丈夫か?と思ったら、そのあたりの空気がひんやりしているのに気付く。
魔道具の効果で肉を冷やしていて、鮮度を保っているらしい。
「おう、ギルディートじゃねぇか。悪いが、今日は悪くなりかけた肉はないんだよ。」
だから一々不憫なのやめろ。
「俺のよく行く店」とか「世話になってる」とか言うから常連なのかと思ったら、そういう事かよ。
店のオッサンはお世辞にも優しそうとは言えない外見だが、意外にも優しい人物のようだ。
「違うよ!今日は客を連れてきたんだ。俺が世話になったり、世話をしたりしてる。」
お世話になってます・・・。っておい。
間違っちゃいない気はするが、納得いかない。
まぁこうして案内してもらっているわけだが。
「ははは!ギルディートが世話をしてるって珍しいな!」
・・・だろうよ。
店主に握手を求められ、手を差し出す。
「俺は肉屋のアロゴンってんだ。仕入れは不定期だが、品質は保証するぜ。」
ほほぅ。不定期って事は自分で狩ってるのか?
品質を保証という事は、肉に関しては目利きということか。
こういう職人気質な人とは仲良くなっておいて損は無いかもしれない。
自信を持ってオススメしたものがペットの餌にされてたら怒るかもしれない。
最初の印象は悪くなる可能性はあるが、正直にペットの餌を探していると伝えておこう。
「俺はリーフレッドです。食材と、ペット用の餌を探しています。
ちょっと多めに欲しいので、いくつか見繕ってはもらえないでしょうか。」
「ペットの餌だぁ?」
案の定、何やら不機嫌そうな声になる。
ここでブチ切れられるようなら、肉は諦めるしかあるまい。
と、ここで違和感を感じでアロゴンの視線を追ってみる。
アロゴンは胡散臭げに俺の頭の上に目をやっていた。
「コ?」
違う。スザクの餌じゃねーよ。




