試験走行
装備を外していくと、オッサン達に囲まれた。
スザクが縮み上がっているのでやめてください。
装備が次々とオッサン達に奪われていく。
まぁ後で返してくれるとは思うが・・・えーっと、壊さないでくれると助かる。
剣だけは直ぐにアイテムボックスに入れた。
前に見せたし、いいよな?
で、001型をマリッサに装着されたので、マリッサの頭の上にスザクを乗せた。
よし、行って来るぜ。カッポカッポと海に走り始める。
大きいスパイクが砂を掴んでいるが、裏に引っ付いてる感じがする。
幅は解消されたけど、足がガッチリ固定されてて動かし難い。相変わらずだな、これ。
海に出てみたら、そこからが少し違った。
紐から固定器具になった事で、壊れる不安感が減った上、俺の足の動きがしっかりと『スイバ -試作001型』に伝わる。
かつ、裏の申し訳程度の窪みだったのがスパイクのような器具が付いたことで、格段に加速・ブレーキが効くようになった。
まぁ、一生懸命足を動かし続けなければならない、ということは変わらないが、精神的疲労度が全然違う。
ただ、スパイクが付いて水を掴むということは、水飛沫も比にならないくらい上がるという事だ。
服がよく濡れる。
蛇行やステップなど、様々な動きを試した。
細かい蛇行はできないが、ちょっと大回りめの蛇行なら可能、っと。
ステップは無理だったが、両足を使って面を大きくすることで、ステップに近い動きができなくもない。
ジャンプも少しならいける。が、ステップもジャンプも着地で足を止めたら沈むので、そこだけ注意だ。
着地で沈むので、体勢を立て直す為に必死に足を動かし続ける必要がある。
特に、水上を滑ったかと思うと靴が沈んで急に水の抵抗を受けてつんのめるのが恐ろしい。
「やべぇ」と思ってからの建て直しで間に合うだけのAGL(敏捷性)があるので、膝までの水没で助かっているが、多分、太股まで沈んだら立て直すことはできないだろうな。
ある程度沈むと、上下の動きでは間に合わなくなるというか、水の乗った板が重くて逆に沈んでしまうので、水を切るように足を跳ね上げるなど、工夫が必要だ。
しかも、こういう時にスパイクが逆に邪魔になったりもする。
地上との違いを体で覚えることになった。
大剣を振るってみる。うーん、足をひたすらバタバタさせながら振るう事になるので、すごく変な感じがする。
踏ん張りは効かないし、複雑な動きもできない。実戦向きではないのは確かだ。
溜めも建て直しも、簡単にはできそうにない。
満足するまで試し、陸へと戻った。
「どうだったかしら。前より調子が良かった筈なのよ。」
自信に満ち溢れた顔のマリッサさん。
そりゃ、今回は途中で壊れなかったし、ちゃんと戻って来れたもんな。
色々な動きを試したし、こりゃいける!と思ったのかもしれないが・・。
「実戦は無理だな。
散歩ならできるかもしれないが、複雑な動きはできないし、重さの関係で装備も着けられない。
あと、立ち止まって沈んだ場合に隙だらけになるだろうな。沈んだ後の対策ってどうなってるんだ?」
「・・・・・・・・・・。」
対策なんぞ何もしてないのは分かってる。目を剃らすな。
「もちろん、前より改良されて調子が良かったのは確かだが、ここから劇的な改善を図るのは難しいと思う。
見たところ、スパイクを細かくして増やしたり、でかくして数を減らしたり、水抜き穴を増やしたり減らしたり。
この001型をメインに色々テスト型を作ってあって、データを取って、一番良さそうな組み合わせから改良していくつもりなんだろうけど・・。
ここから実戦型に持っていくのは無理があるし、できたとしても相当の時間が必要になるんじゃないのか?」
この町に長期滞在する気は無いし、道具作りが楽しいのは分かるが、あまり時間を掛けてはいられない。
道具作りに時間がかかるというのなら、他のやり方を見つけた方がいいだろう。
無理なら無理と返事をしないといけないしな。
「その問題なら、我々が手を貸そう。」
ずずい、と間に入ってきたのは、ドワーフのオッサン達の中でも一番横にデカいオッサンだった。
と言っても、付いてるのは贅肉ではなくて筋肉のようだ。
やべぇ、腕の太さパネェ。今のところ、身長的に大柄なドワーフを見た事は無い。
で、何だって?手を貸す???どゆこと??
「水上を走る。その閃き、心意気、そしてやってのける技、根性。しかと見届けさせてもらった。
そして、持つ道具は一級品。それを使いこなし、作り手としての視点も持つとあらば、力にならぬわけにはいくまい。」
今度は、このオッサン達の中でも年配に見えるオッサンだ。
ツンツンに逆立っている髪の毛はだいぶ白いが、お洒落白髪なのか???と思える程度には動きが若々しい。
っつっても、毛穴と皺の刻まれた皮膚に、火傷が治癒したような跡やシミ、ホクロなんぞを見るに、やはり年配者なのだろうと思える。
「町の職人どもに声をかけ、総出で改良に挑み、必ずや水上を縦横無尽に掛ける事ができる靴を作ってみせよう!」
腕を組んで偉そうにしてるオッサンが宣言する。
他のドワーフのオッサン達も頷いてるので、本当に偉いのかもしれないが。
「で、その為には、あらゆる視点からの検証が必要なのだ。力になってくれるな?」
・・・・・。
あれ?
チラッとマリッサさんを見るが、今、ニヤリと笑ってなかったか?
余所見をしてごまかすな。この流れを想定してオッサン達を連れてきただろう?
気が付いたら丸め込まれていた俺は、オッサン達の指示で、『スイバ -試作型』をひたすら履き替えて走り続ける事になるのだった。




