慣れない町で
さて、看板を頼りに、適当な店に入って、適当に物品を買う。
後者の適当は、適切なって意味だからな。間違えないように。
今日の買い物は序盤から好調で、まずいいジャケットが手に入った。
見た目は普通だが、ボタンに細かい細工が入っていたり、縫い目がしっかりしていたり、生地も丈夫そうなのが気に入った。
服屋なのか、装備屋なのか分からない店の雰囲気も面白い。
コンセプトは「レベル1でも付けられて、町でも着れる、街着装備」だそうだ。なるほどなぁ。
しかし、売れ行きは悪いらしく、俺がレジに持って行っても客だと認識されなかった。
買いたいと言うと驚かれ、大喜びでいくつも商品を勧められた。
なかなか良いものがあったので、また機会があれば来ようと思う。
あの時買ったローブよりも丈夫そうなのがあったので、思わず購入したが、サブキャラで来た方が良かったよな?まぁいいや。
で、魔道具屋。
ここで、置けるトーチという物が売っていた。
これは便利だ。手を離しても倒れないので、室内でも使える。明るさの調整もできる。
その上、五徳とセットにすればコンロに大変身ときたもんだ!
8つしか無かったので買い占めた。
後から、トーチは消費アイテムじゃないので焦って買い占める必要はなかったと気付くが、店員さんも売れて喜んでいたし問題ないだろう。
通常のトーチの燃料が使えると言われた時点で気が付けば良かったのだが、興奮して半分聞いてなかった。
乾燥の魔道具は在庫がないと言われたが、これだけでも良い買い物である。
よくわからん店に入る。
うーん、素材屋、といったところか?
素材のだいたいの値段がわかるというもんだ。
面白いものがあるかもしれないし、と、凝視してどんなアイテムなのか確認しながら店内を物色する。
「!?」
鉄の鉱石と混じって、魔鉄の鉱石が売っている。
思わず、やる気の無さそうな店員に声をかけた。
ごっちゃになってるのは、誤りではなく、魔力が含まれていようといまいと、同じ扱いをしているのだそうだ。
魔鉄の価値というのは、鉄と同じだというのだ。信じられない。
他にもあるというので見せてもらった。高級品は店頭に出してないみたいだ。
レア鉱石が、レアじゃない鉱石と同じ価格・・・。思わず買い占める。
そして、似たような店は他に無いのか聞いた。
そこまでは順調だったのだが。
教えてもらった通り、店を出て、左に見える大きい道に出て右に進む。
左の青い街灯を目印にして左に曲がって、突き当たったら右、そして、赤い花の咲く花壇が見えてくるまで歩く・・・・・と。
花壇の近くに細いわき道があり、それを抜けたら、かなり古い店があるのだそうだ。
目立たないけど「ある」とわかって探せば、蔓に埋もれた大き目の看板があるという話だが。
その花壇が無いんですけど。ってか、その花って咲く季節っていつですかね?今、咲いてないんじゃないですかね?
一旦戻ろうと引き返したが、どこで突き当たって右に曲がったのかわからない。
これは・・・迷ったかな?
下手に「ここだ!」って曲がると、手が付けられなくなるような気がして、真っ直ぐその道をウロウロ。
横道が見えるたびに目を凝らす。
青い街灯が見えるんじゃないかを思ったんだが、見つからないな。
てか、ここらへんは全然違うところだな。
見るからに寂れてるし、なんか汚いし臭いし。
もう一度、引き返そう。と思ったところで、痩せた男達に絡まれた。
「兄ちゃん、恵んでくれよぉ。」
各自、棒を装備(?)している。恵んでくださいって雰囲気じゃないな。
警戒して身構えると、物陰からワラワラと人が出て来た。
全員、こいつらの味方、というわけでもなさそうだな。
野次馬もいれば、自分を売り込んでくる奴までいる。
「助けてやろうか。負けとくぜ。」「ちょっと小銭をくれりゃー加勢してもいいぜ。」
安くしてくれるという意味なんだろうが、喧嘩腰の奴を前に「負けとく」って助っ人としては頼り無さ過ぎるだろう。
うーん、こういう時の対処ってどうすれば良いんだろうな?
盗賊のオッサン達の事が頭を過ぎる。
「乞食さえやったが、誰も見向きもしなかった。俺にできることは何だってやったさ。」
臭イモみたいな奴らならどうしようもないが、話だけでも聞いてみるか。
「売られた喧嘩なら買おう。暴力には暴力で対処する。
だが、取引なら喧嘩以外がお勧めだ。うまい飯屋を教えてくれた奴には、美味い飯を奢る。
俺にとって有益な場所を教えてくれた奴には、報酬を出す。どうする?」
1D。取り出そうとすると、手の中にコインが現れる。
それを、絡んできた奴らに見せ、目の前で握り潰して投げ渡した。
うーん、できるかもしれないと思ったけど、できちゃったねぇ。
指が痛くなかったのはDEF(防御力)のせいだろうか。装備が無いと素のDEF(防御力)はそんなに無いんだけどな。
しばらく、絡んできたオッサンらはそのコインをまじまじと観察していたが、唐突に「ひぇえ!」と叫んで後ずさった。
いや、暴力沙汰にはしないよ?それと、反応遅っ!
周囲にも緊張が走る。
そこへ・・
「あ、大道芸人のお兄ちゃんだ。」
「あーっ」
2人連れの子供達が現れた。すっ、と子供達を守るように動く、絡んできたオッサン達。
うん、根は腐ってないみたいだな。ところで、大道芸人のお兄ちゃんって何だ?
「あのお兄ちゃんすごいんだよ。ナイフをね、ぽい、ぽい、ぽーいって投げてね。
いっぱい、いっぱい投げたのに、全部落ちないの。それでね、一杯お金をもらってたの!」
「たの!」
姉と弟らしい。
弟はまだ舌足らずというか、姉の喋るのを真似してるだけみたいだな。
あれで大道芸人と勘違いされたのか。しかし金は取ってないぞ。ギルディートが勝手に回収してたけど。
空気を読めないお年頃なので、大人達の警戒を知らずに喋りまくる。
「それでね、ギルディートのお兄ちゃんがね。お金を集めてね。」
うん?ギルディートのお兄ちゃんってどういう事だ?
俺が大道芸人のお兄ちゃんなら、ギルディートだって大道芸人のお兄ちゃんの筈だろ?
CCしてないんだから、俺の名前だってちゃんと出てるはずだ。リフレだけど。
「あとでご飯を奢ってくれたの!」
「たの!」
・・・・・。
ギルディート、あの後、宿に篭りっきりなのかと思ったら、出掛けてたんだな。
やっぱりお前は良い奴だよ。・・ってか。
「お前ら、ギルディートの知り合いか?」
そう聞くと、緊迫していた空気がほんの少し緩んだ。
絡んできたオッサンの1人が答える。
「ああ、アイツとは、1匹のネズミを分け合った仲だ。」
いや、ちょっとその生々しい表現やめてくれませんかね?
同じ釜の飯を食ったとか、他にも例えようがあると思うんだが。
例えじゃない??え、マジで???
彼らの現状を聞いた時、全俺が震撼したのであった。




