試し切りとドワーフのオッサン達
ギルド訓練場。
ちょっと剣を振るところを見せたら、すぐ帰るという約束の上、ここに来たんだけど。
なんでこんなドワーフのオッサンだらけなんだ?
訓練場を利用している奴らが迷惑そうにしてたり、困惑したりしている様子なので、いつもの光景というわけではないのだろう。
普通に訓練に参加してるオッサンもいたりする。パワーファイターしかいないみたいだが。
俺を確認するなり、ドワーフのオッサン達の手によって、色々な素材でできた板の人形が並べられた。
そこへ案内されたのを見るに、俺の剣を振るところを見たいというのは、どうも俺を連れてきたオッサンだけじゃないみたいだ。
「これを順番に斬っていけばいいのか?」
俺を連れてきたオッサンに問うと、オッサンはコクリと頷いた。
左から、藁っぽい人形、木の板、木の板を重ねた物、黒っぽいもの・・・多分、レンガとかそういう系?、がいくつか並んでいる。そして最後に鎮座するのは金属に見える。
いや、途中から試し切りにしちゃおかしいのが並んでる気がするんだけど・・。
ってか、どうしてこんな事やらされるんだ?何でこんなの見たいんだよ??
・・・・・。
全員無言ってどういう事っすかねぇ?!
まぁいいや、さっさと済ませよう。
ちょっと刃が痛んでも、アイテムで直るし。
藁、木、重ねた木まではサクサクと進めた。そして、黒っぽい物体をまじまじと見つめる。
今までの感じから、同じような感じで難易度が上がっているだけであれば問題ない。
だが、相手は未知の物体だし、ここで難易度が滅茶苦茶上がってる可能性は否定できない。
これの右側、更にその隣…と同じような材質の物体が続く。
多分、徐々に難易度を上げているんだろうけど、判別がつかない。
中に意地悪な物体が紛れていないとも限らないのだ。
「ていっ。」
ちょっと気合を入れて叩き斬ってみると、シャクッという砂っぽい手ごたえと共に、謎の物体が断面を晒した。
思った程は堅くない。泥ポリームさんの方が固かったくらいだ。
続いてその右側。
これも気合を入れて斬り付ける。
カットされて落ちた謎の物体を見て、納得する。
表からは見えなかったが、裏に溝がいくつも入っていて、そこに粘土のような物体が詰まっている。
この溝の入り方や粘土の固さで難易度の調整を行っているのだろう。
で、溝に合わせて斬れば、ある程度楽ができそうにも思えるが、そうならないように、溝は幾度も向きを変えて入っているし、ズルできないように向こう側を向けているんだろう。
身構えていたほどキツくは無く、文字通りサクサクと進んだ。
で、最後。金属の板にしか見えないんだけど・・・。これ斬るの?
いや、金属製のゴーレムにもダメージは通るんだけどさ。
改めて「さぁこの鉄(仮)を切ってみろ」と言われると、身構えてしまうよね。
まぁ実際には何も言われちゃいないんだけどさ。無言ですよ、無言。
こうやって検証してみたこともないわけだし。これ、材質何だろう?
集中し、上から斜め下に向けて振り抜くイメージを描く。
人の形をしているので、横の方が斬る長さは短いのだが、縦の方が力が入ると判断したのだ。
全部同じような斬り方になってしまい、面白みは無いかもしれない。
が、相手は斬れと言ってるのに、弾き飛ばすのはどうかと思うしな。
ここでホームランとかしたら気まずいだろうなぁ・・・。
そう思いつつ、思い切り大剣を振り下ろした。
クン
変な音をさせて金属の板が斬れる。
ってか、下の方が厚いって酷いだろ?!態とだとは思うけど!斬れたからいいけど!
斬り上げてたら間違いなくホームランコースだったよ?
何事も無かったように板を回収して去って行くドワーフさん達。
俺を連れてきたオッサンと俺だけが取り残された。
あと、他に剣を振るっていた冒険者もいるが。
「・・・・・。飲むか。」
いや飲まねーよ?!
だいたい、説明不足にも程があんだろ?どうしてこうなったんだ?
いや、飲まねーから!!ちょっと、飲まないって・・・。
俺は、来た時の同じように肩を組まれて、撤収していくのであった。
宿の食堂。
俺がここを譲らなかったのは、飲み終わったらさっさと休めるからだ。
久しぶりにアルコール類を飲むのも、酒が入ったら眠りやすくなると思ったからである。
「お、俺は騙されねーぞ?!奇妙な術を使いやがって!」
「大道芸人のくせに、冒険者の真似事をしやがって。お、思い知らせてやる。」
断じて、こいつらと遭遇したかったからじゃない。
こいつら・・[イッド]と[モーグ]か。何故俺に絡んでくるんだ?
痛い目を見た割りに元気そうで・・・・・良かったのかな?
だいたい、お前らの方が大道芸人っぽいだろ。・・いや、大道芸人に失礼だな。
オッサン、めちゃくちゃ不機嫌そうな顔になってるな。
本当にすまん。俺も想定外だった。
スザクもしばらく頭の上で縮こまっていたが、今は肩に留まって身を寄せてきている。
チラッとイッドとモーグの2人組・・略してイモ組を見る。
イモに失礼かもしれないが、土っぽく汚れた感じとか、チョロチョロ長い毛が生えてる感じとか、それっぽい感じがするんだ。
品種は臭イモってところかな?そんなのあるかどうか知らないが。
俺の視線に気付いて、2人してスザクみたいに縮こまった。怖いなら来るなよ。
「お前らのクランでは、喧嘩を売るのが挨拶なのか?
とりあえず、それはやめたほうがいい。ダフの名がに傷が付くぞ。」
とりあえず、ギルディート達に効果的だった文句で相手の出方を窺う。
イモ組みは顔を見合わせると、ギャハハハと馬鹿みたいに笑い始めた。
こんな汚い笑顔、見た事も無かったし見たくもなかった。
俺は呆気に取られてそれを見ていたが、いつまでも腹を抱えて笑っているそいつらと付き合う気はない。
オッサンに合図をして席を移動した。
そして、店員さんに渡されたメニューを確認する。
適当な酒と、つまみと、何か腹に溜まるもの・・・。
・コッコ鳥のグリル
・モチトンと野菜のソテー
・クロウシのステーキ
・モチトンとクロウシのミンチ焼き
・モチトンのカツレツ ~リフレ風~
・コッコ鳥の丸ごとロースト
目を擦って、もう一度メニューを凝視する。
見える物は変わらない。
・モチトンのカツレツ ~リフレ風~
「なんじゃこりゃぁ?!?」
俺は、本日2度目の叫び声を上げるのであった。




