水上を走ってみよう
このスノーシュー擬だが、着けてみて思ったのは「歩きにくい」という事だ。
スノーシュー擬とか樏擬とかって、呼びにくいし、ちょっとどうかなと思うので、暫定的に名前を付けておこうと思う。
・・・水上靴?ウォーターシュー?しっくりこないな。あ、水樏でどうだ?
「これを『スイバ - 試作型』と名付けるわ。水を駆けるウマ、という意味よ。」
はい、マリッサさんにお任せします。
今まで、何度か俺のネーミングセンスについて言われたことがあったが、今日、ものすごく実感した。
俺、ネーミングセンス無いわ。
スザク、ましゅまる、もふもふ・・(以下略)。文句があったら言ってくれ。
口を利けない事はわかっているが。
まぁ、スザクに関しては、[丸焼き]→[グリル]からの[スザク]だから、マシになったと思うよ。
丸焼きは俺のせいじゃないと思うけどね?
てくてく歩いて水上に・・波を被る。
まぁ普通に行って浮力が足りない事はわかっていたさ。
気を取り直し、助走をつけて海上に出る。
走りにくいな、これ!木の板が壊れそうだし、板と板が当たらないように気を付けて走らないといけない。
若干、蟹股気味というか。
で、茣蓙の上を走る芸人がごとく、走る、走る、走る・・・。
「おぉ??!」
助走を付けた分なのか、最初は勢い良く進み、海上を100メートルほどの距離・・この場合、沖合いと言えばいいのかな? でシャバシャバやっている。
まず感じたことが、滑る。だ。
水飛沫が俺の後ろで上がっているみたいだが、派手な割に全然進まないのだ。
服が既にびしょびしょである。
が、このまま足を動かし続けていれば沈まないかもしれない。
あくまで試験走行だし、既に改善すべき点がいくつも上がっている。
無理に続けずに一旦戻ろう。
そう思って体の向きを変えようとしたあたりから雲行きが怪しい。
体の向きを変える為には、ブレーキが必要だ。もしくは体を傾け、重心を変えるでもいい。
しかし、それをするとなると、体が沈む。
実際そうなりかけたので、速度を増した。焦ったせいで板同士がガツンとぶつかる。
くそっ。俺は体の傾きとブレーキが掛かるのが最低限で済むように、大回りして陸を目指す。
目指したいのだが、全然操作が利かない。
ただでさえ板が滑っているのに、そんな控えめの操作でうまく行くわけがない。
「うおおおおお!!!」
俺は頑張った。
めちゃくちゃ頑張った。
その結果、靴と『スイバ - 試作型』を繋いでいた紐がパチンと切れた。
「あっ」
ジャポン・・・!
俺は盛大に水中に突っ込み、沈・・・まなかった!装備を付けていないので軽くなり、浮くようだ。
泳ごうとして、左足に残った『スイバ - 試作型』のせいで泳ぎ難いのに気付く。
STR(体力)でごり押しして泳ぐ。
右足に着けてあった『スイバ - 試作型』を回収したところで、左足の紐も切れた。
しばらくしてプカリと浮いてきたので回収する。
ところで、水中でアイテムボックスに道具を出し入れしたらどうなるんだろう?
若干の興味はあったが、ちょっと怖いのでやめておいた。
泳いで陸に向かう。うん、早い、早い。
今のところ、一番早いのが「何も着けずに泳ぐ」だけど、実戦でやる気はない。
剣を振るえる気がしないし、防具無しっていくら何でもと思うわけだ。
足が付く所まで泳ぎ着く事ができたので、陸地に向かってトボトボ歩く。
STRとか関係無しに、なんか濡れた体って重い気がするよ。
「・・・船より早く泳げる人間ってどうかと思うのよ。」
マジでか?
いや、走って馬車より早いんだから、泳いだら船より速い可能性は充分ある。
この世界の船って動力が風のみだったりしそうだし、船っつっても筏から客船から色々あるもんな。
「次俺も!俺もやりたい!」
ギルディートすまん、壊してしまったんだ。
マリッサが直してくれ、ギルディートがバタバタと派手な音を出しながら走って海に向かう。
あいつ、装備そのままだけど、大丈夫なのか?
俺と同じように水飛沫を上げながら、沖合い40~50メートルくらいのところで、ギルディートが沈んだ。
・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・。
あいつ、泳げるのか?
ってか、装備が重過ぎて浮かべないのか???
嫌な予感がした俺は、再び海に飛び込む。
水中でジタバタともがくギルディートを発見した。パニックを起こしているようだ。
こういう時、しがみ付かれたりするから危ないとか聞いたことがあるな。
意識を失うまで待つんだっけ。・・・・・何それ怖い。
要は掴み掛かられなければいいんだろう?
背後に回り、装備品を掴む。うん、しっかり体に固定されてるな。
ギルディート自身を“重し”にして、海底に足を付ける。ほら暴れるなって。
とりあえず呼吸をさせねばと陸地側の海面の上に向けて放り投げた。
浮かんで、放り投げた陸地の方を見てみると、ギルディートが水を切って水上を跳ねていく様子が見えた。
そして再び沈んだが、そこからは自力で岸に向かえるようだ。
泳いで追いかけ、ほぼ同時に陸に上がる。
「・・・・。死ぬかと思った・・・・・・。」
ご愁傷様だな。
今度は、目を輝かせたマリッサがやってきた。
「今の、すっごく面白かったのよ!もう一回やって見せて欲しいのよ!」
鬼か。
案の定、ギルディートはジットリとした視線をマリッサに向けると、ツッコミを入れる気力も無いのか、休憩地点に敷かれたタオルの上にベトリと横たわった。
バッタリとかパタリとか、そういう倒れ方じゃなく、思わず「お前は泥か?」とツッコミを入れたくなるような崩れ落ち方だった。
・・・ん?タオル??あれ?俺のマントは?
「こんなものの上に寝られるわけがないのよ。」
キレイに折り畳まれて返却された。
今後、装備を適当に流用させるのは控えようと思います、はい。
アメンボ(水黽、水馬、飴坊、飴棒)。
別名の中にミズグモ(水蜘蛛)というのもあり、忍者が水を渡る時に使った忍具という俗説がある。
なお、マリッサが、この別名:水馬を知っていて名付けたのかどうかは不明である。




