2日目:整理整頓は大切
さて、まだ一日も半分。
昼飯(と言ってもSPポットだが)も取った事だし、これからだ!と言いたいところだが、マリッサを町まで送らなければならない。
帰還の札を渡してハイ、サヨナラというわけにもいかない。
彼女の荷物の大半は、俺が持っているのだ。
・・・・・そういえば、マリッサの持ち物って何が詰まってるんだ?
枠は30あるわけだろ?何をドロップしてもとりあえず拾っておくって気持ちはわからなくもないが。
さっき出してた中身を見るに、下手したらゴミ…は言い過ぎか。
ろくでもないアイテムばかり入っていそうだと思うのは失礼だろうか。
2人で帰還の札を使ってもいいかなとも思ったのだが、また「お金持ちめぇえ!」とキレられるかもしれないので、黙っておいた。
初心者さんに高額アイテムを渡すのは良くないしね。
いや、元は100Dなんだけどさ。
それに、もう気軽に補充できないんだよな。
まぁ500個以上持ってるんだけどさ。
しかし、ワープポイントとダンジョンの場所だけでも確認しておきたい。
「この森は私の庭みたいなものなのよ。」
なんて言うマリッサに聞いてみたが、ワープポイントやそれらしいものは見た事がないそうだ。
遺跡らしいものならあるらしいが、ほとんど埋もれていて入り口がどこにあるのかも分からないと言う。
ワープポイントは目立つ外観をしているので、見た事がないという事は、埋もれているか、存在しないのだろう。
俺の知るコランダの町とは景色が大きく異なるが、蚤の市のあった場所にワープポイントがあったはずなのだ。
それも見当たらなかったのだから、見える場所には無いのだろう。
期待はしてなかったさ、うん。
遺跡をちょっと見たいと言ったら、今度案内してくれるとの事だった。
うーん、今度ではなく今から案内して欲しいんだけど・・・まぁ大変だったみたいだし仕方が無いか。
今日は諦める事にする。
で、確かにマリッサはこの森に詳しかった。
「この木。ほら、ちょっと白っぽくてここに黒っぽい縁のある枝があるでしょ。
ここらへんは細い木ばっかりだから見分けるのが大変だけど・・・。
これが見えたって事は、さっきの木の場所から残り半分の距離よ。
この枝の向いてる方向がコランダよ。」
とても一生懸命、目印を俺に教えてくれるんだけど、ごめん。
俺はその木に特徴なんて見いだせないし、覚える事もできそうにない。
他の木にだってその白っぽい苔?は付いてるし、黒っぽい枝も付いてる。つまり同じだ(俺基準)。
ちょっと歩いて振り返ったら、もう他の木と区別が付かないんだから、どうしようもない。
最初に教えてくれた場所は岩場で、他に似た地形は無かったから覚え易そうだったんだけど・・・。
あんな感じの、顕著と言うか目立つやつはないのかね?
ちなみにマリッサは、目印を見て行動してたのは昔の話なんだそうで、
今はこの森全体の地形をだいたい把握してるんだそうだ。
だから、目隠しをされて目印の無い場所にいきなり放り出されたとしても、自分がどこにいて、コランダがどちらの方にあるか分かるんだとか。
いや、俺はいいんだ。
別にこの森のプロを目指しているわけじゃないからな。
あと、マリッサにPTの検証を手伝ってもらっている。
通じない用語があったりして大変だが、冒険者の秘密をペラペラ喋るような事はしないというので、とりあえず信用してみる事にしたんだ。
モンスターの解体も報酬としてこぎつけた。
インゴットはいらないから、と言うと大層驚いていたが、解体ができないと言うと、「貴方がこれから困らないように教えてあげるわ!」と意気込んでいた。
いや、教わらなくてもいいというか、基本的にあんまり解体はしたくないというか、できれば誰かに任せたいというか・・・。
俺が集めたフォレビーは、蜜袋という器官以外、ほとんど価値が無いのだそうだ。
ゲテモノ食いの人や、素材として脚に付いてる花粉や翅や目を買ってくれる人もいるかもしれないが、二束三文だとか。
いや、食べた時の食感とか聞きたくないから。口に残るとかいらない情報だから!
解体を済ませてから町に戻ったほうがいいのかと尋ねると、ゴミは畑の肥料になるので大丈夫だそうだ。
そういえば、農耕の町なのに門を避けるように畑があるせいで、畑を間近で見ていないんだよな。
別に農業に興味はないんだが、気になる事があって・・・。
いや農作物が気にならないわけじゃないが、もし声を出したり歩き回ったりするようなファンタジー植物だったりしたら、食べにくいかなっていう・・。
そうじゃない。他に気になる事っていうのは、だ。
異世界で気になるランキング上位(当社比)のトイレ事情だ。
昨日の宿で、意外と快適なトイレ(綺麗かと問われると謎だが臭くも無い)に安心したのだが。
多分、堆肥に使われてるよな?という…不安?
マリッサの後ろをのんびり歩いてテントやフォレビーと戦う様子を微笑ましく見守っていたら、そのうち森が開けてきた。
麦畑が揺れる、風車の町コランダに帰り着いたのだった。
コランダに着いてまず、宿の女将さんの管理する畑に向かった。
そこで解体する許可をもらったからだ。
「鍛冶屋の畑を使う事もできるんだけど、今回に限っては宿で場所を借りたい」というマリッサの提案でそうなった。
鍛冶屋・・・ね。マリッサはドワーフだしな。
畑にはコンポストと呼ばれる「穴に蓋をしたもの」が設置されていて、蓋の下にある穴にゴミを落とせば、長い時間をかけて良い堆肥になるんだそうだ。
ここを使ってくれと言われたコンポストを興味本位で覘いたら、深めの穴の底に生ゴミが溜っていて、わりと酷い悪臭だった。
それでも、分解を促進する成分を含んだおが屑などが定期的に入れられていて、そこまで酷い匂いでもないんだそうだ。
で、フォレビーの死骸を50体分ほど出したら、「瓶が足りないかも」と言い出した。
しかし、死骸はこれだけじゃない。あと180体分くらいあると伝えると顔を引きつらせていた。
何故アバウトなのかって、斬撃でバラバラになってるからな。
「道具を取って来る」というマリッサを見送って、シートを敷いて待っていると、鶏が集ってきた。
フォレビーの死骸を啄ばみ始めたので、慌てて収納する。
しかし、俺がフォレビーを持っていることを学習した鶏は、離れるどころか集まるばかり。
マリッサが戻る頃には、俺は「餌を寄越せ」とばかりに集まる鶏に埋もれていたのだった。
-解説- 超説明会です!読み飛ばしOK!
初心者さんに高額アイテムを渡すのは良くないって?:あくまで主人公の感覚によるもの。初心者さんは価値とかまだ分かってないので、価値観を身に着けるまでは地道に頑張った方がいいと考えている。
価値観が崩壊してしまったり、詐欺師にあってしまったりするリスクが高まる他、最初に楽をしてしまった結果、飽き易くなるなんて事もあったりなかったり。
同じだ(俺基準)って?:品種の違う木でも「よくわからない木」という同じカテゴリに入ります。
モンスターの解体って?:殆どのゲームがアイテムドロップ式(倒した敵が消滅し、代わりに報酬としてアイテムを落とす)なのだが、解体してリアリティを味わうゲームもある。ただし、ここは異世界なのでリアリティとかいうレベルではなく、本物の解体なのでキツイ。
食べた時の食感って?:頭痛が痛いですね。主人公の動揺っぷりがわかります。
異世界で気になるランキングって?:主人公の思い描く、勝手にランキング。中世ヨーロッパに似た世界かどうか、獣人がいるかどうか、勇者がいるかどうか、など多岐に渡る。
鶏って?:ここにいるのはコッコ鳥と呼ばれる、非常に鶏に近いモンスター。鶏という動物は存在したが、コッコ鳥に置き換わって絶滅した。ごく一部に名前だけ残っている。