俺もう眠いよ・・
さて、イッドとモーグの両名だが、あっさりとドワーフのオッサン達に摘まみ出された。
そして、顔色1つ変えずに掃除に入る店員さん、凄いけど怖いっす。
手伝おうとしたら、「これもお仕事だから。」とやんわり断られた。
日常茶飯事だったりするのかな??まさかねぇ・・。
「色々聞きたい事があるが、ただ1つ。最も答えが必要な事だけを聞こう。
これを何処で手に入れた?」
ドワーフのオッサンの手の中にあったのは、スザクの足環だ。
拾ってくれてあざーす。・・・って、違うか。
イッドとモーグの件が脇に置いておかれているくらいだ、何か面倒事の香りがするぞ。
いや、それを置いておいてくれるのは、本当に有り難いんだが、却って不穏に感じるのは俺だけだろうか?
「何処だったか・・・記憶に無いですねぇ。」
手に入れるも何も、俺の作ったやつだ。
・抗毒のバードリング(+6)
いくら作り直しが簡単だったからって、これは不味かったかな。
たかが鶏の足環だ。
スザクのレベルの関係上、良い素材を突っ込めなかったのもあるが、価値の高いものじゃない。
こんなの、人の目に付く事なんざ無いと思っていたからな。
素材はその辺で取れるやつだし、何処で手に入れたかは覚えていない。
とぼける俺の顔に、じっと視線を送る人物がいる。
読み込み中、ってか?・・・・・余計な事を言うなよ?
「私のピンチの時に、さっさと寝ようとしたのよ。」
悪かったから!本当に眠いんだ。勘弁してくれよ。
何で今日に限って面倒事に巻き込まれてばっかりなんだ?
「面倒事に巻き込まれるのは今日に限ったことじゃないのよ。」
うるさいよ!それ以上俺の心を読むな!
「姉ちゃんの連れか。ってことは、もしかして・・・。」
「私が作ったんじゃないのよ。でも、リフレなら色々珍しい装備を持っているし、どこからか手に入れて来るのよ。」
てんめぇえ、余計な事を言うんじゃないってぇ!
もしかして、ディアレイで手に入れたナイフの話を根に持ってるの?ねぇ?
あれ、嘘は付いてないんだよ。嘘は。
「町の外に出れば、装備の事なんて直ぐにバレるのよ。」
250レベルの装備なんて、そう無いからな。
確かにそうだけどさ!出入りする冒険者の事なんざ、あまり見てないだろ。
余計な事さえ言わなければ、バレねーんだよ。
俺、なんか大勢のオッサンに囲まれてんだけど!
プレッシャーがハンパ無いんだけど。・・早く寝たいんだけど。
「とりあえず、何か出して見せてあげたらどうかしら。後のことは私が責任を持つのよ。」
・・・マジか?
いや、下手に見せて捕まったら、結局、何時間も拘束されるんじゃなかろうか?
「私が手入れと実用性とデザイン以外、褒めるところしか浮かばなかったのは、あの剣しかないのよ。
あれを出してくれたら、この人たちの相手は私がするのよ。」
貶す事だらけじゃねーかよ!
むしろ、手入れと実用性とデザインを貶したら、褒めるトコって残ってんのか?
まぁいいや。
もうダルいし、じゃぁ後は任せた!
ってあれ?最初から俺、この人たちと関係なかったよね?!
なんか足環のせいで、こっちに寄ってきたけど、元々マリッサのお客さんだよね???
引っかかることはあったが、マリッサに大剣を預けて部屋に戻ることにする。
仕方が無いじゃないか、もう面倒くさいし、眠いんだもの。よしを。
部屋に行く前にと、トマスとエディに挨拶したら、ドン引かれてた。
いや、本当に衝撃的だったよね。俺もびっくりした。
やり過ぎたとは思うが、まさか腕が飛んでいくとは思わなかったし、もちろん、そのつもりも無かったんだよ。
俺も悪かったけど、向こうも悪かったと思うんだ。さすがに殺すのはやり過ぎでしょ。怒っても良かったと思ってるよ。
いや、結果的にはスザクは生きてるわけだし、加減を忘れて大変な事になってしまったけど。
でも、結果だけで言うなら、あいつら無傷だし。ちゃんと治ったし。
なんだこの距離感。
俺、猛獣じゃないよ?噛まないよ?
・・・・・。
べっ、別に落ち込んでなんかいないんだからね!
ギルディートとアーディは・・隅の方で飲んでるな。
邪魔するのも悪いし、あそこまで行ったらまた誰かに捕まりそうだ。
2人にもドン引き食らったら、流石にガッツリ凹みそうだし。なんか高確率で引かれてる気もするし。
スザクはトイレを済ませられたんかな?トイレを済ませ、さっさと寝よう。
・
・
・
宿の部屋は静かだ。この世界の建物で、あまり高いものを見た事が無い。
ゲームの町でも、だいたい宿が大きい部類の建物で、2階建てか3階建てという外見だった。
プレイヤーが入れる宿スペースというのは、いつも2階だったと思う。
1階には、俺の知る限りでは、必ず食堂が付いている。
そして、食堂から漏れ聞こえてくるのは、怒鳴り声や笑い声など、なんとなく判別が付く程度の声だけだ。
電車の音や、どこかで誰かが回している洗濯機の音、テレビの音・・そんなモノが当たり前のように聞こえてくる住居と比べても、居心地が良いくらいには静かなのだ。
「・・・・・眠れない。」
スザクを見ると、桶の中で目を閉じている。
眠れているようだし、動物がどの程度人間に近いのか分からないが、特に悪夢を見ているといった様子も無い。
・・・・・。
おかしいな。あれだけ眠たかったはずなのに。
そう、あれだけ眠たかったのだから、眠れるはずなのだ。
なのに、眠れない。
理由はわかっている。
あの時、確かに「そこまでグロくもないな」と感じたはずの映像が、瞼の裏でチラつく。
腕を飛ばしてしまった時の手ごたえ・・あの感触は、さほど強くも無かったが、妙に手に残っている。
紙を破るように布を引き裂き、紙粘土を叩き殴るように肉を割り、鉛筆でも折るみたいに骨を叩き折った。
あっという間などという言葉があるが、本当に、「あっ」と思った頃には飛んでいたのだ。
あの、肉を絶ったときの繊維を断ち切るような生温かい感触。
一歩間違えば、腕じゃ済まなかったかもしれない。
自分の持つステータスが、武器を持たずともおそらく人を殺せるという異常性。
あの時は、冷静なつもりでいたのだが。俺は、いつもと変わらないと思っていたのだが。
実際は、そうではなかった。
事故に遭った人が、そのショックで興奮して骨折に気付かない、という話を聞いた事がある。
骨折はまだ無いが、脱臼、靭帯損傷なんかを経験している俺としては、「そんな馬鹿な」と思う。
あれ、めちゃくちゃ痛いんだ。骨折は、更に痛いんだろう?
だが俺は、自分の心に傷が入った事に気付かない程度には、ショックを受けていたようだ。
・・・・・。
そして、もし、何かの弾みで身近な誰かを傷付けるような事になったらと思うと、ぞっとする。
うっかりじゃ済まないが、その辺に危険物を置いておいて、事故を起こすなんて事例は山ほどあるし、多かれ少なかれ経験のある人もいるだろう。
その危険物が自分自身だなんて笑い話にもならない。
「コヶ?! ケーーーッ?! ケーーーーーーーッ??!?」
スザクがバタバタと羽を打ち鳴らし、桶から転げ落ちた。
その勢いで桶が転がり、スコーンと無駄にいい音を鳴らす。
転げ落ちた衝撃と、その音で、更にパニクって暴れている。
うん、しっかり悪夢を見ていたようだ。
「スザク。スザク。」
名前を呼ぶが、暗闇に差し込む月と星の光では、全く光量が足りないらしい。
少しだけ大人しくなったが、まだ寝ぼけているのか、挙動不審だ。
蝋燭の火が消えているので、トーチを取り出し、蝋燭に火をつける。
トーチの方が蝋燭よりも明るいんだが、ちょっと火力がありすぎて部屋じゃ危ないし、置く所もないんだ。
トーチに火を付けた時に、スザクがビクリと硬直したが、やがて体勢を立て直して座り込んだ。
と、言っても、体が斜めのままだし、辛うじて起き上がって静止している、といった感じだが。
優しい蝋燭の光に照らされ、目が慣れて来たのか、こちらを見上げている。
・・・・・。おいで、と言っても来ないな。腰でも抜かしたか?
スザクが驚かないよう、しゃがみながら近寄る。
そっと両手を伸ばすと、身構えた。こりゃトラウマになってるな。
怖がらせないよう、包むようにスザクを持ち上げる。スザクは可愛そうなくらいに震えていた。
「ケェ・・。」
ありゃま、床に糞をしてしまったようだ。ウ○コをちびるほど怖かったんだろうな。
動物を飼うには、それなりの苦労が必要だ。
スザクは今まで、殆ど面倒を掛けずに頑張ってきたからな。これくらいの面倒は見よう。
俺は、宿の店員さんに掃除道具を借りて片付け、ベッドを背に胡坐をかき、スザクを乗せてみた。
ストレスになるようなら、他に方法を考えないとと思ったが、スザクは腰を落ち着けて目を閉じる。
・・・うん。大丈夫そうだ。
眠い。薄い掛け布団と枕をいい具合に調整して、俺も少しでも眠ろうと目を閉じるのだった。




