荒らしと肉体言語
2人が気絶している間に、俺はメインキャラに戻っていた。
サブキャラになりっぱなしとか、前の全裸事件みたいなことにならない為にも避けたほうがいい。
俺のネームが[???]になってしまう問題もあるし、このキャラに戻るクセは付けておこうと思う。
「酷い目に遭った・・・。」
いや、それ俺の台詞。
「まさか2対1でやられるとはなぁ・・・。」
ぼやく2人に、ジットリと纏わり付くような視線を送ってやる。
お前らが気絶してる間に、一悶着あったんだよ。
まず、ギルド員のお姉さんにめっちゃ怒られた。
なんか俺が主犯(?)だと思われたみたいだ。
「名ばかりの訓練でチームメイトを甚振るなんて!」
「いい年して手加減も知らないんですか?」
「訓練で気絶なんて有り得ません。」etc..
懇々と説教された。
続いてギルドマスター、略してギルマスのオッサンが現れた。
「お前が例の“訓練所荒らし”か!」
言いがかりは良くないぞ。
例のって何だよ。初利用ですが、何か?
人違いだと説明すると、ギルドカードの提出を求められた。
「名前が違う」とか「特徴も違う」とか「クランに入っていない」とか聞こえてくる。
ネームを見たらわかるんじゃないか?と思ったが、もしかして、見える人と見えない人がいるのか?
あとでマリッサさんに聞いておこう。
事情を聞くと、周辺の町で喧嘩を売っては訓練所で模擬戦という名の決闘をし、負けた者を半ば強引にクランに加入させている奴がいるらしい。
うん?どっかで聞いた話だな?
「確かに“訓練所荒らし”が来たって連絡を受けたんだがなぁ・・・。」
なるほど、その“訓練所荒らし”が「確かに来た」というのなら、心当たりが1人いるな。
「あの、その人物の名前というのは、もしかして・・・・?」
ギルディートだった。
しかも、「レベルに任せてルーキーを甚振り、強引にクランに勧誘している」とされて厳重監視対象だった。
おいおいおい。何やってんだ、あいつ。
俺の事情を聞かれて、話し始めて気付く。
言われてみると、確かにそんな感じで声をかけられたんだよな。
で、逃げたら町を跨いで追いかけてきて・・・。
ああ、遺跡の話をするわけにいかないから、ちょっと中略。
仲間の装備を買いに来て、それに付いて来た、と。
・・・・・・・。
遺跡の話を端折ると良い所が何も無いな!
適当にはぐらかされた相手を執念深く追い回しているようにしか思えない。
ヤバイ奴ですね、わかります。
割と中身はいい奴なので、フォローをしたら同情された。
口八丁で騙されていると思われたらしい。
違う、誤解なんだ。あいつは人を騙せるタイプの人間じゃなくてだな・・。
「いや、なんか育ちが貧しかったらしく、色々常識のズレたところはあったけど、話せばわかる奴だったんで、大丈夫ですよ!」
ちょっと同情を誘うような言い方になってしまったが、こうでもしないと普通に準犯罪者みたいな扱いだ。
でも、冗談抜きで不憫な奴なんだよ。
だから、資格の剥奪だの凍結だのはやめてあげてください、お願いします。
俺の熱弁に、一応、厳重注意で済ませてくれるとの事だ。
そのギルディートが、「仲間と一緒に気絶している」と知った時のギルマスのオッサンの反応がこれだ。
「話せば、わかる・・・・・?」
誤解だ!!!
結果的に叩きのめしてしまったが、道中、いろいろなドラマがあってだね・・。
模擬戦も、約束だったからしただけで、仲良くやってるよ!頼もしい仲間だよ?!
「肉体言語、か?」
違うから!それ言語じゃないから!
コミュニケーション手段として、取っちゃいけないやつだから!
で、ついさっき、その取調べ擬から開放され、今に至る。
そして、今度はギルディート達2人へのお説教タイムだ。
さぁ、ギルドマスターにコッテリ絞られるが良い!
ギルマスのオッサンが、これまでの行いを厳しく問い詰めた。
淡々と答える2人。
ギルドの規則と照らし合わせて説教を始めた。
はいはいと聞いている振りをする2人。
時々、不満そうに口を尖らせたり、ボソッと反論したりしている。
その反論も、ギルマスの話と噛み合っていない。
だめだ、この2人組。
何が悪いのか理解っていないから、反省なんかしてない。
「このオッサンめっちゃ怒ってんなー」くらいしか思ってなさそうだ。
資格を剥奪する話も、へー、なんで?まぁ登録し直せばいいんじゃね?程度の認識だ。
それがギルマスのオッサンにも伝わり、オッサンだけがヒートアップしている。
そして、空気がいよいよ白けてくる。これでは駄目だ。
ギルマスのオッサンからバトンタッチしてもらい、俺が話の席に着いた。
2人の背筋がピッと伸びたのがわかった。・・・違うよ?肉体言語じゃないよ?
「とりあえず、何が悪くてギルドマスターが怒ってるのかわかるか?」
わからない、と言えば怒られるので、言えないのだろう。
しかし、言えないだけなので、当然わかっちゃいない。
下手に「わかる」と言って説明を求められても困るし、余計に怒られるので、2人とも無言だ。
「何か問題なのかは?」
「「・・・・・・。」」
わからないだろう。
だから、問題を起こすわけだ。
「まず、クランへの勧誘。これは問題ない。」
えっ、という感じで腰を浮かすギルマスのオッサンを手で制す。
おっさんの話がややこし過ぎるんだ。何もかも怒れば良いってもんじゃない。
あれもこれもと全部禁止したんじゃ、結局、どこか破らないと好きな事ができない。
じゃぁ勝手にやろうという思考に至る。それじゃ駄目だ。
そこで黙って座って待っていて欲しい。
ギルディートとアーディもポカンとこちらを見る。
さっきまで、その話で怒られていたから、当然だ。
「問題は、その手段だ。ギルディート、初め、お前が俺に声を掛けた時、かなり挑発的だったよな?」
そりゃそうだ。相手の頭に血を昇らせて、一気に模擬戦まで持っていくのが、コイツの手口なのだ。
コクリと頷いて認めるギルディート。やはり、わざとだ。
「あの時、お前は俺を名無しの根無し草だと思った。
それで、クランに勧誘して戦力にしつつも、助けてやろうと考えて、勧誘を決めたわけだ。」
頷かないが、目を逸らし、その頬が赤く染まる。照れんなよ、こっちが恥ずかしいわ。
ギルマスも、マジか?って顔をしているな。
そう、こいつの行動はアレだけど、中身はいいやつなんだよ。
「だが、お前の内心はともかくとして、周囲からはどう見えると思う?
お前が助力してやろう、と考える冒険者は、基本的に弱者だ。
強者が弱者を強請って、無理矢理クランに入れているように見えるわけだ。」
うんうん、と頷くギルマス。だから?という顔のギルディート。
知ってたし・・みたいな興味の無さげなアーディ。
「さて、お前個人の評判については察したと思うが、そんな勧誘をするクランや、クランのリーダーに対する、周囲の評判はどうなると思う?」
ここで、ようやく反応らしい反応が返ってくる。
「クランは関係ないだろ?俺が勝手にやってることだし。」
ギルディートは、決して頭が悪いわけじゃない。
心根も腐ってないし、どちらかというと良い奴の部類なんじゃないかと思う。
ただ、自分の取れる手段に対して、あまり思考を巡らせない。
できる、ならやろう、という即断即決、悪く言えば短絡思考の持ち主でもある。
「その理屈が、本当に通じると思ってるのか?
その状況を見た第三者が、それを聞いて信じてくれるとでも思っているのか?」
俺の言葉に、ようやく自分が何をしたかに気付いて、表情を変えたのだった。
「で、アーディ。お前、ギルディートとは親しいよな?
さっきの連携、息の合わせ方なんか、即興でできるものじゃなかった。
冷静な判断力もある。何故、こいつを止めなかった?」
アーディは、まさか自分に火の粉が飛んでくると思っていなかったのか、目を白黒させて背筋を正した。
ギルマス、その視線をやめれ。
叩きのめしたから言うことを聞くわけじゃないんだよ。マジで。




