初めての模擬戦
さて、ここノルタークのギルド練習場だが、そこそこ広い。
とはいえ、この世界で練習場に入るのは初めてである。
ゲームの知識で言えば、コランダの練習場は裏庭に毛が生えた程度の設備だ。
小さい町のギルドの設備なんぞ、そんなもんである。
そういえば、練習場が無いのか、チュートリアルがフィールドのキャラもいたっけ。
で、ここノルタークの練習場は、なんと屋内である。
首都フロウランほどではないが、広くて充実した設備を誇るのだそうだ。
ギルドの受付に練習場の使用申請を出したら、面倒くさそうな顔をされた。
この時間になるとギルド員が減るので、メインである依頼や素材買取以外の利用はこんな顔をされる、というのがギルディートの連れ・・・[アーディ]の言だ。
あれほど模擬戦を楽しみにしていたはずのギルディートが、何故か依頼を見に行ってしまったり。
テイムしているペットは入れないと、スザクを預けさせられたり。
連れの・・・アーディに何故かしつこく絡まれたりするトラブルはあったが、練習場の使用許可を貰って入場している。
ふむ、確かに人は少ない・・のかな?
何しろ、初めての利用なので、よくわからない。
まばらに人が打ち合っているが、これだけスペースがあれば邪魔になる事もあるまい。
ギルディートの推定レベルは60。俺の約四分の一だ。
さすがに、それで模擬戦をするつもりはない。
俺はレベル125のサブキャラにCCする。
それでも、ギルディートの倍ほどのレベルだ。
完全な倉庫キャラを使えば、もっとレベルを近づけることができるが、それはしない。
あまりレベルを下げてボコられるのも嫌だし、これまでの事を考えても、逆に不審がられてしまうだろう。
80~100くらいのキャラが望ましいのだが、残念ながらそのレベル帯の大剣キャラは無いのだ。
「・・・・・・・。」
ギルディート、目を擦っても見えるものは変わらんよ。
多分、俺のネームがまた[???]にでもなっているんだろう。
「さて、やろうか。」
言い出したのは俺でもギルディートでもなく、アーディだった。
木剣を構えて、やる気満々だ。
チラとギルディートを窺ったが、苦笑いを返される。
いや、何か言えよ。どういう意味だよ。ってかどうすりゃいいんだよ。
何やら、ギルディートが引き気味なので、とりあえずアーディを相手に模擬戦をするか。
別に模擬戦をしたいわけじゃないんだが、こうして突っ立っていても仕方が無い。
問題は、ギルドが用意してくれた攻撃力の低い木剣に“大剣”が無い事だ。
飛び道具の類もない。あくまで、近距離戦の練習場ということらしい。
なるほど、どおりで練習場以外の場所でのチュートリアルがあったわけだ。
納得しながら、木剣を手に取る。
うん、軽くて、細くて、短くて、めっちゃ心細いな。
アーディの強さも戦闘スタイルも知らないので、俺は全力で様子見の構えだ。
俺が構えたのを見て、アーディが目を細める。
「・・いくぞ。」
来いやぁあ!気合を入れる。
速い。ギルディートとはそれほど変わらないくらいか?
アーディは初撃を弾いた時に驚いた顔をしたが、すぐに追撃が加わる。
動きを止めないあたり、戦い慣れているのではないだろうか。
俺はというと、倍 (推定)はあるステータスのおかげで考える時間があり、対処もできているが、同じレベル同士であったら、そうはいかなかっただろうと思う。
カカカカカカン、と小気味良い音が響く。
うん、剣は心細いが、STR(腕力)のおかげで受けきれるな。
「ふっ!」
強打も受けられる。
で、強打が来たら、その分のエネルギーが前に向かっているわけだから、利用してそのまま流せる。
アーディが流れたエネルギーに逆らって体をを引き寄せ、体勢を整えるまでが隙となる。が。
焦りは無く。視線がしっかりとこちらを捕らえている。誘い、か。
だが、乗ってやる。
「ていっ。」
パァンという音と共にエネルギーの流れに乗った剣が、そのままアーディの手からすっぽ抜け、飛んでいく。
「うっ?!」
アーディが体勢を崩す。
俺のSTR(腕力)が想定を超えたのだろう。すまん。
本当は、どういうつもりで隙を見せたのかを見て、そのスタイルを確認しようと思ったのだが、俺も想定外だった。
だが、勝負は勝負だ。
アーディに剣先を突きつけると、アーディは降参とばかりに両手を上げた。
とりあえず勝てたな。
「くっそ、すっぽ抜けとか、めちゃくちゃ格好悪い・・・。」
アーディが落ち込んでいる。
本当にすまんかった。
ただのステータス差なので、気にしないで欲しい。
レベル倍とか、とんでもないハンデを背負っているんだ。
軽薄そうなアーディだが、戦闘に入ると一変する。それなりに修羅場を潜ってきているのだろう。
あの冷静な雰囲気とか、もし同レベルでやり合ったら勝てる気がせんよ。
「よし・・・。俺もやるか。」
ギルディートさんがアップを始めました。
それにしても、この木剣。普段と間合いが違ってやりにくいんだよな。
武器による範囲補正もないし、この短い距離で打ち合わないといけない。
対人ってゲームでも好きじゃなかったけど、緊張感が違うんだよな。
この短い一戦で、ものすごい手汗だ。滑らないよう、タオルで拭う。
そして、ギルディートと向かい合った。
・・・・・。
今思ったんだけど、剣が2本って、・・ちょっと卑怯じゃないですかね???