8 Tragic Idol
プレイヤー・マック・レーンを撃破。
ディザイア・ゲームは、私の勝利となりました。
でも、どうして私は涙を流しているのでしょう?
ようやく胸の中のムカムカとざわめきが落ち着いたからでしょうか?
それとも、怪我の痛みのせいでしょうか?
あるいは、もう一人の親――プレイヤー・マックを排除したからなのでしょうか?
ならば、レーン警部の娘は、彼の死をどう思うのでしょうか?
それは、もし主任が亡くなった時の、私の心持ちと同じなのでしょうか?
もし、この世から主任がいなくなってしまったら……。
そう考えただけで、身が絞れるようで、余計に涙腺を刺激してしまうのです。
「つまり私は……誰かに悲しみを与えたのですか……?」
あまりにも暗く寒い闇夜の中に、私の問いに応じてくれる人はいませんでした。
――ホムンクルス・シシラ。
汝をディザイア・ゲームの勝者と認める。
それは、ディザイア・ゲームの『主催者』の声だったのでしょうか。いずれ、所縁あるものの声なのでしょう。
――勝者には褒賞を。
汝の渇望を叶えよう。
これが、ディザイア・ゲームを征した者への報酬なのです。
大佐から「この先の戦争で、JC国はNY国へ勝利することを望め」と命令を受けていました。
ですが、私はその命令に背きたくなりました。こんな悲しみが撒き散らされるのならば。
喪失が、これほど『辛い』のならば――しかし、そんなことをすれば、私と主任は大佐に殺害されてしまうでしょう。それもさけたい結末でした。
「質問があります。ゲームの勝者の望みは、なんでも叶えてくださるのですか?」
――例外はある。
それは、この世から争いをなくす願い。このゲームも含めてだ。
それは、このゲームの存在意義を覆してしまう。
何故こうも執拗に、人は争いを止めないのでしょうか? 事前に主任に質問するべきでした。
ならば、人間同士の争いを少しでも減らせる方法はあるのでしょうか?
そして、私と主任が共に生きていける方法とは、なんなのでしょう?
しばし考え、私が出せる最善の答えを、思いつきました。
「ならばお願いがあります。
私に戦う力をください。
うんと、強い力をです。
この世界の人々が協力しなければ、私を倒せないほどの強い力を」
――汝の渇望を叶えよう。
途端、膨大な魔力が私の身体を干渉し始めました。頭には無数の角が生えて茨の冠を戴き、肩甲骨と骨盤後部に一対ずつ大きな翼を授かり、無尽蔵の魔力が私の体から出力できるようになりました。
私は新たな器官で蒼穹を昇り、JC国まで一飛び。そして、ホムンクルス研究所を襲撃し、研究主任を拉致しました。
「シ……シシラなのか……?」
「はい、そうです主に――お父さん。
ごめんなさい。約束したお出かけの決行日は、ずっと後になりそうです。私も楽しみにしてたのですが」
「シシラ、今、私のことをなんと――」
私はお父さんを抱えたまま、天高く昇りました。
そして、拡声魔法を発現させ、世界中に宣言しました。
「おはようございます。私は『覇王』シシラと申します。
この度、私は世界中の皆様に宣戦布告を申し上げます。
事実を申し上げます。私シシラは、世界中の皆様方が力を合わせない限り、決して負けません。
早速、ホムンクルス研究主任アルバート・ウォンツェフ博士を人質に取らせて頂きました。
彼は、私シシラの弱点を唯一知っている人です。
ですが、もう一度申し上げます。とても大切なことです。
私シシラは、世界中の皆様方が力を合わせない限り、決して負けません。
早速侵攻を開始します。
それでは皆様、御武運を」
ディザイア・ゲーム ~Episode Honesty in Death~
了
※あとがき
『まどマギ』みたいなオチをなんとか回避できたと思ったら、結局アメコミの『ウォッチメン』みたいに共通の敵が出てきて世界中が協調がすることになりそうエンドになってしまったでござる。まるぼろさん、素敵な設定原案をありがとうございました。