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ディザイア・ゲーム ~Episode Honestly in Death~  作者: おるた(原案者 まるぼろ)
5/8

5 セットアップ2

「ディザイア・ゲームが開始され、バトルフィールドに転送された後、プレイヤーには自動的に三つの魔法がかけられる。

 一つ目は、『認識不可』だ。例えば街中がバトルフィールドとして決定された時、プレイヤーは他の人間からは認識されない。

 二つ目は、『偶発的魔法』だな。結論から言って、ゲーム中に使える魔法は一つ、それもゲーム側が無作為に決めたものだけだ。その代わり、魔力は常にゲーム側から供給され、24時間おきに使える魔法は変わる。君は魔法を使えないが、知っておいて損は無いだろう。ちなみに、酷いモンだと『爪を切る時、深爪をしなくなる魔法』を使うハメになったプレイヤーもいたらしい。

 三つ目は、『束縛絶命』。バトルフィールド以外の区域には一歩でもはみ出すなよ。爪先が出た時点でプレイヤーの心臓は止まり、即死だ。もっとも、バトルフィールドと圏外の境は力場で視覚的に表示されているから、うっかり領域を離脱することはそうそうないだろうが」

 俺達は、トレーサーにゲームの解説を受けていた。「何か質問は?」

「認識不可の魔法は、単純に俺達の存在が他の奴らから認識されないってだけなのか? 例えば、戦術魔法の流れ弾とかはキチンと当たるってことなんだよな?」

「そうだ」

 大の為の小の犠牲、どこにでもありふれてる。

 俺達は転送魔法で、トレーサー達が運営しているプレイヤーの『控室』に来ていた。部屋はまるで武具博物館といった装いで、野蛮な鉄のこん棒の隣に、自動小銃が、酷く無秩序に陳列されている。その割に手入れはキッチリ行き届いており、埃一つ見つからない。ここで護身用の得物やら防具やらをおめかし、って事なのだろう。いよいよ、かつて兵士だった頃の嫌な緊張感が甦ってきた。軽い吐き気がのど元まで昇ってくる。

「君向けの武器を調達してきた。『ウィントック04』だ」

 トレーサーは、やけに大きいトランクケースをテーブルの上に置き、金具を外す。

 中には酷い義手が出てきた。曲がりなりにも義手なのだ。せめてシルエットぐらいは、人の形を模していて然るべきだろう。ところが目の前のコイツは違う。先端は円筒状になっており、下腕の部分は酷く機構を備え、機能的であり、――つまるところ、義手と銃器の合いの子だった。義手に小型の銃を仕込んでいる、そんな紳士的な代物じゃない。露骨なまでにその機能性と攻撃性を全面に押し出した『腕銃』とも言える、酷く薄情な意図を感じる得物だった。

「お宅らは愛国心で、五体不満足者にもこれを括りつけて戦わせるつもりなのか?」

 つまりそういうことなのだ。この武器が作られた経緯というのは。

「非常事態になり生活物資が滞れば、真っ先に切り捨てられるのは老人と障害者だ。

 寒村では間引きや姥捨てがあることぐらい、君も知っているだろう。

 だが軍なら、その日の飯にありつける。

 そして、自身の尊厳の為にあえて銃を取り、戦うことを望む者もいる。

 これはあくまで、そういう物だ」

 俺は溜め息をついた。詮無いことだ。今日と遠い未来を切り売りして、二束三文で明日を買う。本当にありふれた話なのだ。それに、片腕じゃせいぜい小型拳銃をベルトにぶら下げるのが精いっぱい。だが、それでは防弾防魔法可能な防具は貫けない。それどころか、マッチョ相手だと筋肉表面で停まることもある。貫通力が低すぎる。弾薬の再装填にだって時間がかかる。その点、この腕銃は強力な弾丸を発射でき、弾薬の再装填も容易かろう。

 腕銃の点検を始める。目を瞑っても分解と点検ができるまで把握できればベストだろうが、そんな余裕はない。

「肘部分の突起が、グリップとトリガーがある。装弾数は6発だ」

 小銃用の弾薬が詰まったカートリッジ三つが差し出される。

「それに防弾坊魔法ジャケットも用意してある」

 ハンガーから、黒色の防護ジャケットを取り出してきた。拳銃程度の弾丸とレベル3までの戦術魔法なら、ほぼ無力化できる。だが、身動きもとりにくい。昔ほどの体力もないから、目に見えて消耗しそうだ。

「俺は黒が似合わない。ホームレスの衣装はあるか?」

「あるにはあるが」

「じゃあそれを着る。もしバトルフィールドが街中なら、それで偽装できるかもしれない」

 トレーサーが顔が、珍しく惑いで揺れた。

「ディザイア・ゲームのルール上、相手が生物兵器型ホムンクルスだとしても、俺達のような人間に近い――魔力に肉体維持を依存しない肉体のハズだ。となると肉体強化は勿論、視力や聴力、嗅覚だってバフ(強化)魔法による能力拡張が前提になる。変装して群衆に紛れている方がギリギリまで接敵しやすい」

 この世界は科学や技術より、魔法という存在に生存している人間が遥かに多い。実際俺が戦ってきた魔法兵士だって実際強力だった。だからこそ、原始的な手段で盲点を突けるチャンスも少なからずある。防魔法ジャケットに防弾機能も付いているのも、かつてその盲点を突かれたからだ。

「そして、この腕銃だ。手りゅう弾のような爆弾がない。俺のような魔力無しが相手を殺すなら、バッグいっぱいに発破を詰めて、手当り次第吹っ飛ばせば良い。

 だが、それはお互いにやりづらい。第三者に認識されなくても広範囲に及ぶ魔法の効果は影響される。

 それにもし、どちらかが他国のど真ん中を吹っ飛ばしたらどうだ? 当然他の国のトップにも、お宅のようなトレーサーが居るだろうから、謎の爆破事件の原因は察知される。

 そして、表向きには理解されない、根拠を証明しがたい怪現象だからこそ、他国を強請るネタにもなる。余計なリスクは互いに追いたくないハズだ」

 トレーサーは、俺を見て微笑んだ。期待を含んだ目線に変わる。別に男にそんな目で見られても嬉しくはないが。

「ご名答。兵士だった頃の感覚が戻ってきたかな?」

 兵士、と呼ばれてウンザリした。

「お前、モテないだろ?」

「恋人や家庭は、この仕事をする上では重荷になるからな。ではウィントック04の射撃訓練を行おう」

 いったいどれほどの敷地なのかは分からないが、この施設には簡素ながら射撃訓練室もあった。

 俺は、腕銃――ウィントック04を装具する。

「付け心地はどうだ?」

「かかしにでもなった気分だね」

「女学生のようにお喋りだな。訓練を始めよう」

 俺はウィントック04の銃口を的に向けた。

 肘部にあるトリッガーを引く。

「ぐッ!」

 反動によるストレスが、肩の関節に収斂される。おそらくまだ開発段階の試作品なのだろうが、この腕銃のコンセプトに改めて狂気を感じる。

 射出された弾丸は、的の頭のど真ん中を撃ちぬいた。肩の痛みとは別の感覚が脊髄を通してきて、息が上がってくる。

「善し。次」

 自動的に薬室に装填された弾薬を射撃する。心臓を射抜く。恐らく、防護服で最も防御が厚いところであろうが、狙ったところに当てられるまで慣らす必要があった。

 酷く胸の奥がむかつく。息が上がってくる。

 不意に、戦場の幻影が五感を支配し始めた。

 言葉にならない声が聞こえてくる。音にならない音が聴こえてくる。死肉の臭いが鼻の奥にわだかまり、蝿が鼻の穴に突っ込んでくる感覚を覚える。口の中は、舞った粉塵でジャリジャリとした舌触りがする。

「撃て!」

 誰かが叫ぶ。それは仲間か? 隊長か? 一体誰だ?

 だが俺は、命じられた通りに撃った。射線軸上には敵兵が居て、俺が放った弾丸が敵兵の鼻を穿ち、内圧で頭を弾けさせ、仰け反った。


「そうよ。マック・レーン。

 貴方は、また殺す。

 何度でも殺す。

 自分が落ち延びる為に、いくらでも、何人でも傷付けて、とうとう殺すのだわ」


 あの時の少女の声が、頭の奥に木霊し、共振して俺の理性を大きく揺さぶる。


「待ってくれ! 違う! 違うんだ! そんなつもりじゃなかった!

 俺は、こんなことしたくはなかったんだ!」




「マック!? どうしたんだ! しっかりしないか、マック!」

 トレーサーの声が聞こえる。皮肉にも、ヤツの声が現実へ帰還する為の呼び水となった。

 トレーサーが俺の頬を張ると、ようやく俺は正気に戻った。

「ああ……トレーサーか……」

「まさか……トラウマがあるのか?」

 俺は無理に笑ってみせた。

「あともう一人殺すくらいなら、どうってことはない」

 流石のトレーサーの言葉に詰まっていた。俺に対する不安が堰となったのか。それとも憐憫の言葉がヤツの語彙に無かったのか。いずれ、時が俺の手足に括り付けられた運命の意図を手繰り、次なる煉獄へと誘導するのだろう。


 ディザイア・ゲーム開始まで、あと一時間。

※あとがき

 コブラとか、トライガンのヴァッシュとかベルセルクのガッツなんかもそうだけど、左腕(あるいは義手)に銃器類を仕込み、かつ悲しみを背負うのは、何かの様式美なのだろうか。


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