帰ってきたのに
戻った途端に頭をぶん殴られたような衝撃を受けた。
おかげで転移前に、アフリカ産の猛毒蛇「ミニマムデビル(ちんまいあくま)」の毒で口から泡を吹いて倒れていた俺の体は意識を取り戻した。
荒っぽいやり方だ。アホになったらどうする。
俺は頭を振って意識をはっきりさせると、急いで握り締めていた血清を傷口に塗りこんだ。
血清はみるみる浸透していき、紫色に覆われていた患部の腫れが嘘のように引いてゆく。
数分後には噛まれた跡さえ消え、バクバクいっていた心臓の鼓動も落ち着いてしまった。
辺りを見ると俺が踏み殺した猛毒蛇「ミニマムデビル」が見当たらない。
血痕は残っているので野良猫かカラスにでも持っていかれたのかもしれない。
哀れ野良猫、そいつはおいちくないよ。頭の部分は残しておけよ、でないと死ぬぞ。
俺は体の状態を確認し、足元に気をつけながら慎重に、ホントもうこれでもかってなくらい慎重にアパートへと帰った。
だって俺の胴体には医療用御神本「「混合反応エスティナ」がおしえてア・ゲ・ル」と「混合反応エスティナ」といっしょにね」がテープで巻きつけてあるからね。
職質なんかされたらアウトだよ。
おかげで500mくらいの距離に1時間掛かってしまった。
俺はアパートの部屋に入り畳の染みを見ながら感慨にふける。
ああ、俺の城、俺の拠点、俺の6畳一間、台所、風呂、便所付プライベートコパートメント。
こちらの世界時間では2日しか経っていないがもう何ヶ月も留守にしていた気分だ。
血の跡は大家さんが拭いておいたと入院中聞いた。
少し染みが残ったがどうせ次の時に取り替えるから気にするなと言ってくれた。
ここの大家さんはいい人だ。でもひとつ失敗していた。窓が開いているのだ。
俺の持ち物で金目のものはパソコンくらいだが見たところ一式揃っている。
冷蔵庫はさすがに今時かっぱらうやつはいない。
そう、取られたものは無い。でも侵入者はいた。
そいつは俺のベットの上ですやすやと寝息をたてている。
そいつが典型的な空き巣泥棒だったら俺はそっと表に出て警察に通報するところだか、残念ながら猫の捕獲は警察の仕事ではない。保健所だって来てくれるか怪しいものだ。
窓を全開にして脅かせば勝手に逃げ出しそうだが、俺はその猫に嫌な感じがビンビンだった。
まさかな、3度目は無いだろう。
俺が躊躇していると気配に気づいたのか猫が目を覚ました。
大きな欠伸をして顔を洗う仕草をする。
うん、大丈夫だ。すぐ逃げ出さないところをみると飼い猫だろう。
思い過ごしだ。過剰反応だな。
俺は少し安心して猫に近づく。
すると猫が俺の方を見て言った。
「随分遅かったのぉ。待ちくたびれて寝てしまったぞよ。」
俺はこの猫を知っている。いや猫自体は知らないがこの猫の中に憑依しているヤツは知っている。
「くろ、お前なのか?」
世にも不思議な喋る猫はニタッと笑った。
-完-
これにて2順目終了です。
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