デットヒート
巨人族のちびっ子をチビドラゴンが追いかけ、そのチビドラゴンをくろが俺の首根っこを掴みながら追いかける。その俺たちを母親ドラゴンが追った。
しかも巨人族のチビは小山の周りを右回りに逃げるからいつしか4つの塊がぐるぐる小山の周りを周回するコントみたいな状態になった。
これが虎ならおいしいバターができるところだが赤いドラゴンでは何ができるか見当もつかない。
巨人族のちびっ子はチビとはいえ体長は9m、体重10トンはある。それがなりふり構わず走るのだからまるでダンプカーが暴走しているようなものだ。
チビドラゴンもまた岩をなぎ払いながら追いかける。
くろは飛んでくる樹や岩を20ミリ対空機関砲で撃ち払いながらやっぱり追いかける。
時々流れ弾がチビドラに当たるが鱗に跳ね飛ばされる。すごいね、ドラゴンって。
だが一番迫力があるのは母親ドラゴンで体長50m体重500トンを超える巨体が獲物を襲うティラノザウルスのごとく疾走する。
彼女が地面に足を付く度に地面が振動し、土が削れて行く。10周もすると深さ3mほどの周回コースが小山のまわりにできてしまった。
「くろ、止まれ。頭を使うんだ。止まって待っていればチビ助の方から飛び込んでくるから!」
「アホ、そんなことをしたら後ろのでかいのにペチャンコにされてしまうぞ。今はとにかく前のチビを確保して身の安全を担保するのじゃ。」
いや、なんかそれらしいこと言っているけど追いかけっこを止めたくないだけだろう。
次の10週も状況は変わらなかった。いや溝はますます深くなり5m以上になっている。だがこれ以上は深くならないだろう。
地面は踏み固められてコンクリートみたいになっている。
走りやすくなったせいか、各選手スピードが上がった。お陰でアウト側に体が膨らむ。今度は壁を削っての路面拡張工事が始まってしまった。
「だめだ、くろ。このままじゃラチがあかない。壁面を爆破しろ。」
「なに!そんな楽しいことをしてよいのか?すぐやるぞ、もうやるぞ。もうやったぞ。」
後方で爆音が轟いた。衝撃波と爆風が来ないということは母親ドラゴンの後方で爆発したのだろう。くろもちゃんと考えているんだな。
「くろ、この周回が最後だ!飛び出すからな!タイミングを間違えるなよ!」
「なに?もうお終いか、つまらんのぉ。お主の勇者スキルはしょぼいのぉ。」
くろよ、俺は勇者だけどお前からスキルを貰った覚えはないよ。とゆうか誰からも貰ってねーよ、くれねーよ。
そうこうしてる内にゴールが見えてきた。目の前には爆発で崩れた土砂が行く手を塞いでいる。
「今だ、くろ脱出しろ!・・ぐわっぶ。」
くろが俺の首根っこを掴みながら周回コースから飛び出す。
チビ助とチビは止まりきれずに土砂に突っ込んだ。さすがに母親ドラゴンはそんなヘマはしない。
あの硬くなった地面に爪を立て壁を崩しながら見事に減速しチビたちの1m手前で止まった。
土砂の中から顔を出すチビたち。
母親ドラゴンはふんぬと息を吹きかけてチビたちが埋まっている土くれを吹き飛ばす。
そしてチビとチビ助は母親ドラゴンの背に乗って帰っていった。
俺たちのことなどもう眼中にないらしい。俺は呆気に取られてその姿を見送る。
と、その時。
「ぐぉーらぁー、どこのどいつだ、わしのダンジョンをぶっ壊してるのはー!!」
突然、俺たちの前に北欧のバイキングみたいなごっついおっさんが轟音と共に現れた。
右手にハンマー、左手に盾を持ってどう見ても臨戦態勢だ。
「お前か!お前だな!お前に決めたぞ!いざ、勝負だ!!」
わーん、確かに俺たちだけど即決ですかぁ?違っていたらどうするんですか?
「すいません、すいません、すいません。すぐに直しますのでぺちゃんこだけは勘弁してください!」
即断には即謝罪で対抗だ。
「なんじゃ、ぬしのエリアだったのか?相変わらずでかいのが好きじゃのぉ。」
あれ、くろの知り合いですか?となるとこの方も子神さま?
「おおっ、紅玉ではないか!とするとこれはお前の仕業か?・・なら仕方ないか。」
うわっ、おっさん納得しちゃったよ。くろ、お前どんだけ有名なんだ?悪い意味で。
「ぬははははっ、さすが、北王軍第7師団長「百夜」じゃ。諦めが早いのぉ。構わぬ、我が許す、もっと褒めよ。」
褒めてねえよ!
「お前に関わるとろくな事がないからな。今回は見逃す、さっさと出て行け。」
「つれない事をいうな。ぬしの所で作った重水は格別じゃからのぉ、振舞われてもよいぞよ。」
「ほざけ!園長!さっさとこいつらを放り出せ!あと、塩を撒くのを忘れるな!」
北王軍第7師団長「百夜」は面倒ごとはこりごりとばかりに園長に後を任せて行ってしまった。
ぺちゃんこにされずに済んだが、その後ドラゴン動物園の園長に延々3時間お説教をされました。おもに俺が・・。
「うむっ、堪能した。我は満足じゃ。」
くろは出口付近のお土産屋で買ったドラゴンのうろことドラゴンの顔ハメ記念写真を嬉しそうに抱えて満足そうだ。
そりゃあれだけ暴れればね。
でも次から俺たちは出入り禁止間違いなしだよ。




