ダンジョン内はドラゴン動物園
俺が血清を手に入れアキハに戻るとくろがガチャで手に入れた景品を兄貴に自慢していた。
「こやつは強敵であった。前にガチャの勇者も言っていたがこの色は中々無いらしい。」
「こっちのやつは大したことないらしいがよく見れば趣がある。」
「これは別のやつと交換して手に入れたものじゃ。あっ、ちゃんと外で交換したからの。トーフじゃ。」
兄貴は苦笑しながらもくろの自慢話に付き合ってくれている。
「すいません、ウチの子がご迷惑をお掛けしています。」
俺はなんか悪ガキの母親みたいなセリフを言いながら兄貴に礼を言った。
「おっ、やっと帰ってきたか。して、首尾は?」
「上々かと。ご覧ください、今回のブツでございます。」
血清と神本を手に入れ俺もちょっと浮かれていたのかくろの言葉遊びに付き合う。
ちなみに神本は見せないよ。俺だけの宝物だ。
「ふむっ、よし。では次は我の番じゃ。」
「思えばしゅんぽんはハズレであった。我は本物のドラゴンを見たいぞ、お主なんとかせい。」
俺は早く現世に戻りたかったが、その方法を俺は知らない。くろが教えてくれないのだ。
しかたなく、くろの遊びに付き合うことにした。
「ドラゴンですか?それはくろ様の方がお詳しいのでは?」
「我の知っているドラゴンはトカゲみたいでちと迫力が無い。やはりドラゴンは首が沢山付いてないとな。」
キングキンドラかよ!いやヤマタノオロチの線もあるか?
困った時の兄貴頼み。俺は兄貴にアイコンタクトで助けを求めた。
するとここら辺でドラゴンに会いたけりゃモンスターゴハンダーダンジョンが一番確実だと教えてくれた。
さすが兄貴、ほんとなんでも知ってるよ。
もしかして俺の大学の中間試験の問題も聞いたら教えてくれるかな?
俺たちはモンスターゴハンダーダンジョンに行く前にハロハロギルドへ寄った。
どうせダンジョンに入るなら仕事を請け負いたいと思ったからだ。
くろが中でぐずった時に仕事だと言えば強く出られると思った、なんてことはありませんよ。いや本当に。
そんな息子が学校で問題を起こした時、仕事を理由にお母さんに厄介ごとを押し付ける父親みたいなことはしません。
あくまで純粋に仕事をしたかったんです。神に誓って宣言しますが99%嘘ですが1%は真実です。1%の真実は99%の嘘に勝ります。
「これからモンスターゴハンダーダンジョンに行くんですけどなにか簡単な仕事はありませんか?」
「モンハンダンジョンですね。少々お待ちください。」
モンハンっていうのか、確かにモンスターゴハンダーダンジョンは長いからな。よし俺もこれからはモンハンって言おう。
「お待たせしました。こちらなどは如何でしょう。」
出してもらった依頼書にはダンジョン内で迷子になったチビドラゴンの探索とある。
取りあえず探索を行えば千丸、発見して通報すれば2千丸、チビドラゴンと確認が取れれば1万丸、確保できれば10万丸とある。
「チビドラゴンとありますが小さい大人のドラゴンということですか?」
「いえ、子供のドラゴンです。正式種別は日中ドラゴンの50歳で母親が野球観戦に夢中になっていて見失ったとのことです。」
50歳で子供なのか。あと俺、野球は疎いのでスルーさせていただきます。
「写真とかはありますか?あと通報の方法とかは?」
「詳しいことはダンジョン内のインフォメーションでお聞きください。こちらではお答えできません。」
「あっ、そうですね。分かりました。これ、受けます。手続きお願いします。」
「では先方にはこちらから連絡しておきますのであちらの受付でこの受諾書をお見せください。」
「分かりました。ありがとうございます。」
「ご武運をお祈りいたします。」
うわ~、また言われてしまった。
俺たちはモンハンダンジョンのインフォメで説明を受けたあと中に入った。
入り口の扉の厚さがちょっと怖い。20センチはあったよ、しかもオール金属だ。
中の雰囲気はモロ恐竜時代だった。むわっとした空気と鬱蒼と茂るシダ類。空には翼竜と思わしきものが飛んでいた。
「うぉ~、あれはドラゴンではないのかのぉ。」
「あれを見よ、でかいぞ、でかいぞ、沢山おるぞ。」
「なんじゃ、この虫は!気持ち悪いくらいでかいのぉ。よいぞ、でかいことはよいことじゃ!」
ダンジョンに入った途端、くろは大はしゃぎである。
「くろ様、あんまりはしゃいでいると迷子になりますよ。
迷子捜しをしていて当人が迷子になったら「お前ら山岳遭難を舐めてんのか!」って山岳救助隊の怖い隊長さんに叱られますよ。」
「なんじゃ、誰か知り合いが遭難したのか?そうなんか?」
くろは時々スでおやじギャグをカマスから侮れない。だがおやじギャグに対策はない。ここはシリアススルーだ。
「くろ様は大きい物がお好きなようですが、今回は小さいものにも関心を持ってください。我々は仕事で来ているんですからね。」
でた。お父さんたちの最終兵器「仕事だ。」。くっ、こんなに早くに使うことになるとは・・、俺も大概だなぁ。
「分かっておる、体長50mのチビドラゴンを探せばよいのじゃろう。」
50メートルじゃねぇよ、50歳だよ。まったく人から聞いた話も誤変換かよ。
「違います。種別は日中ドラゴン、チビの現在の体長はおよそ6m、体色は赤、特徴は頭部がヘルメット状になっていて常にバットのような棍棒を持って素振りをしている。
近隣に住む読み切りジャイアントという巨人族とは仲が悪く会えば必ず追いかけます。・・だそうです?」
俺はインフォメで渡された説明書を再度読み聞かせた。
突っ込み所は多々あるが体長6mはチビじゃないよな。
普通、ドラゴンのチビといえば精々1mくらいで臆病でピーピー泣いているもんじゃないの?
棍棒をバット替わりに素振りするって想像すらできないよ。
「そうか、ではその読売ジャイアントとやらを連れ回ればチビの方から襲い掛かってくるのぉ。早速ジャイアンを連れて参れ。」
その時地面がどしんと揺れた。そして遥か上空から声が届く。
「オラを呼んだか?」
そこには一人の巨人族が立っていた。
身の丈およそ100m。巨人の名に恥じぬ巨体である。
「なんじゃ、貴様。その巨体でドラゴンとケンカをするのは卑怯ではないか?」
「オラはケンカしない。でもチビはドラゴンのチビとよく遊ぶ。」
俺は突然の展開に言葉を失ったが、呼べば出てくるならチビも呼べばいいんじゃね?と思いついたのはずっと後だった。
「そうか、ならよいか。いやな、そのドラゴンのチビが迷子になったらしくてな。我は探しに来てやったのじゃ。」
いえ、来てやった、じゃなくて来ました、です。お金頂くんですからそこんところ勘違いのないように。
「でのぉ、貴様のチビ助とチビドラは仲がいいらしいからチビ助をエサにすればチビドラが食いつくと思っての。貸してたもれ。」
「チビは今いない。密猟者が北の森に現れたから退治に行っている。」
「なに密猟者とな?けしからん!己が欲望を満たすが為に殺戮を繰り返すとは不届き千万である。我も助太刀するぞよ、あないせい。」
良いこと言ったんだろうけど、それをお前が言うのか?それともまた言葉の誤変換か?
「オラは行けない。オラが行くと森を踏み潰してしまう。だからチビを行かせた。」
おっと、でか過ぎるのも大変だな。だから優しい巨人は、山になるしかないのか。
「そうか、では我らだけで行くとするか。」
そう言うとくろはパチンと指を鳴らした。




