働かざるものガチャをするべからず
ということで俺とくろは架空幻想エリアの勇者と冒険とワイシャツ部門内にあるアキハに来ている。
因みに現世の直線距離感覚では1万キロメートルは離れているはずだが、移動はくろの指パッチンで一瞬だった。便利だねぇ。
でも現世にこの技術が持ち込まれたら文明は崩壊するね。
まず運輸業界が全滅するし自動車業界も潰れる。
軍需業界もガタガタのはずだ。だってミサイルも戦闘機も要らなくなっちゃうからね。
建設・土木業界も売り上げ激減だろう。みんな地方に一戸建てを立てるからマンション需要がなくなるし、自動車がなくなるから新しい道路も必要ない。
自動車やビル、船舶の需要がなくなれば鉄鋼業界だって先細りだ。
生産系の産業が少なくなれば電気だって余るから電力業界も売り明け激減。
小売業界だってどうなることやら。
一見すごい技術でも使いこなせなければ諸刃の剣となる訳だ。
まっ、それは置いといてアキハである。
実は俺、アキバに行った事ないんだよねぇ。
だから今、目の前にあるダンジョンが本物を模したものなのか適当にそれらしく創ったものなのか判断ができない。
「くろ様。」
「なんじゃ。」
なんかくろも緊張しているのか口調が固い。
「くろ様は現世のアキバに行った事はあるんですか?」
「いや、ない。」
「でも指パッチンでいつでもどこでも見れるんですよね。」
「うむっ、でも興味がなかったんでちゃんと見たことはない。」
「見た目に関してはあまり深く考えない方がいいんですかね。」
「そんな気もするが、それじゃ駄目な気もする・・ぞ?」
なんで俺たちがそんな会話をしているかというと、ここにあるビルというビルが全て巨大なガチャガチャの形だったからである。
「ここも管轄者はいるんですよね?」
「うむっ、ここの管轄者は昔は大衆軍第7師団長「おもてなしエレキテル」だったんだが、最近になってアニメ軍第7師団長「こどものサイフ」に取って代わられたらしい。」
あれっ、ファンタジーエリアでも第7師団長を使っているんだ。あと二つ名に関してはもう突っ込まないからね。
「初めに挨拶をしておいた方がいいでしょうか?」
「う~ん、どうじゃろう?我も会ったことがないからのぉ。」
「じゃあ、止めておきましょう。下手に会って投資話詐欺にあうのも嫌ですからね。」
「なんじゃそれは?」
「いえ、ご存知ないならいいんです。どれこのガチャビルにでも入ってみますか。」
ビルに入るとそこは異世界だった。俺は現世から異世界に来たから3階層目になるのか?
転移者の又貸しは法律で禁止してほしいぜ。
俺とくろは目の前にずらりと並ぶガチャの群れに言葉を失っていた。
見渡す限りのガチャ、ガチャ、ガチャ。地平線の向こうまでガチャが続いていた。
こんな大量のガチャは見たことがなかった。やっぱり世界は広いな、というか世界はガチャによって成り立っているのかも。
でも絶対地平線の所のガチャは1回も回されたことはないと思うよ。
・・というのは嘘で、そんな錯覚を起こさせるかのように壁に遠近法を駆使してガチャが描かれているだけだった。
実際のガチャは50台くらい。それでもすごい数だ。しかも全部景品がダブっていない。
これはハマッたらケツの毛までむしられるな。
俺はコレクションは無料画像だけにしておこうと心に誓った。
「おい、これなんじゃないかのぉ?」
くろが1台のガチャの景品サンプルを指差す。
サンプルは星のマークが付いた丸いカプセルに入っていた。
ガチャ台には大人気ドラゴンポールZZzz・・と書かれている。
間違いない。絵柄も大人気大御所絵師のものだ。
「はい、間違いないと思います。さすがくろ様、一発で見つけるとはお見事です。」
「ぬふふふふっ、構わぬ、無礼講じゃ、もっと褒めよ。」
「くろ様の手にかかればドラゴンポールも7連チャンで取れること間違いなしです。」
「なははははっ、どれ、我が手本を見せてやろう。」
調子に乗ったくろがガチャのハンドルを回す。
「なんじゃこれ、壊れておるぞ。いくら回してもケイリンが出てこんぞ。」
くろよ、とうとう日本語も駄目になったか。その内お兄ちゃんが腕のいいお医者さんに連れて行ってあげるからね。
「じょーちゃん、金を入れなきゃいくら回しても景品は出てこないよ。」
いつの間にか後ろにいた店番風のニイチャンがくろに注意する。
「金じゃと?そんなものが要るのか?」
「とうぜんじゃーん。ガチャ1回300丸だよ。」
言われて俺も気がついた。俺たち金持って無いじゃん。
「こいつのカラダとかではダメですか?」
俺は躊躇無くくろを差し出す。
「だめにきまってるじゃーん。ガチャは神聖なんだ。
尊い金を献上してガチャ運営業界神さまを喜ばせなきゃガチャをやる意味がないんだよ。」
ん~、正しいようなそうでないような、もしくは聞いてはいけないようなことを言われてしまった。
俺はくろに小声で聞いてみた。
「くろ様、なにか金目の物は持っていませんか?」
俺に言われるとくろはごそごそとポケットを調べ始めた。
「こんな物しかないのぉ。」
こんな物と言ってくろが見せたものはダイヤがごろごろ入った皮袋だった。
「くろ様、なんでこんな物を持っているんです?」
「メイドは仮の姿で、実は奥方の宝石をまんまと仕留めた怪盗チョットアイという設定だったのじゃ。」
頭痛いよ、ほんと。
「換金できるところはありますか?」
ニイチャンに聞いてみる。
「おいおい、お前ら本当に田舎モンだな。丸は働いて得るモンだろう。
ここじゃ他の所の貨幣や宝石なんてジュースのコースターや箸置きにもならないぜ。」
なるほど、正論だ。働けばいいのね・・。え~っ、はたらくのぉ~。
「働き先を紹介して貰いたいなら東口のハロハロギルドに行きな。」
ああっ、成る程。そういえばここはダンジョンだった。手順があるのね。
俺たちは彼に礼を言い、教えて貰った東口のハロハロギルドに行った。
あれっ、こっちは普通のビルだ。手抜きか?
ともかく窓口に行って登録の手続きをする。するとポジションを聞かれた。
わーん、現実のハロワとギルドの設定がこんがらがって頭がふらふらするよ。
「欧州では勇者をやっていたんですけど、こっちでも使えますか?」
「大丈夫ですよ。昨今は外国の方が多く来られますからね。」
良かった。ペーペーからレベル上げなんてしたくないからな。
「そちらの方はどうですか?」
「我は魔王ポジションを所望するぞよ。」
ボケぇ、ギルドが敵方の最高位なんて登録するかぁ~。そういうのは魔窟に行ってやりなさーい。
「魔王ポジションですね、小、中、大、ラスの四つがありますがどちらになさいますか?」
えぇ~っ、あるの?魔王ポジションあるのぉ。なんでぇ~。
「もちろんラスボスじゃ。」
「分かりました。それでは登録が済むまであちらでお待ちください。」
俺とくろは待合場の椅子に腰かけて名前を呼ばれるのを待った。
「くろ様・・。」
「何じゃ?元気がないのぉ。今度は正真正銘の勇者じゃぞ。もちっと喜ばぬか。」
「勇者って最終的になにをするかご存知ですか?」
「知らん。」
ですよねぇ~。
「ではお教えしましょう。勇者は下っ端から始めて幾多の苦難を克服し、時には友に助けられ、時には仲間の屍を乗り越え最終的には・・。」
「ふむっ、最終的にはなにをするんじゃ?」
「最終的には、ラスボスを倒すんです。」
「ほぉ、大変そうじゃのぉ。まあ、お主ならできよう。がんばるがよい。」
「くろ様・・、もう一度耳をかっぽじってよ~く聞いてください。」
「なんじゃ、どうしたのじゃ。」
「くろ様は先ほど、そのラスボスに、勇者の最終目標たる魔王のラスボスポジションに登録申請をしたんです。」
「・・?」
まだ理解できないのかよ。この鳥頭め。
「つまり勇者たる私は魔王であるくろ様をぎったんぎったんのけちょんけちょんにしないとお金が貰えないんです。」
「!!なに~っ!!」
「大丈夫です、手加減しますから。本来なら手加減をするなど勇者の風上にもおけない行為ですが、大恩あるくろ様をぎったんぎったんのけちょんけちょんにする訳には参りません。ぎったん程度にしておきます。」
「待て、早まるな!キャンドルじゃ。魔王登録はキャンドルじぁ~。」
アホなくろのせいで精神的にすごく疲れたがなんとか俺は仕事を回してもらった。
まだひとつもドラゴンポールを手に入れてないのに・・。
いや手に入れてないからこそ俺は明日からアルバートをすることとなったのか。
あっクソ、くろのアホが移った。
働くのはいやだなぁ。俺まだ学生なのに・・。




