『春嫌いの少年』
ずっと、ずっと空を見ていた。
夜明けからだと思う。たぶん。
移り変わるその表情を見ながら
僕は感じてるのかもしれない。
「春が来る。」と。
彼女は夏みたいな人だ。
人の気持ちも知らないで、
いつも僕をふりまわす。
嫌そうに、でも少し笑ってついて行っちゃうのは僕の悪い癖なのかな。
ずっと直らなくていいのにな。
少しベタな話。
片思いしている彼女には片思いしている人がいる。
みんなあるでしょ?こんな経験。
多くは実らない。そんな経験。
夏の日に会ったからだけじゃない、
彼女は本当に夏みたいな人だった。
蝉のように騒がしくて、
祭提灯のように明るい。
それでいて、
三尺花火のよう。広くて届かないほどに綺麗だった。
そんな彼女は僕をいろんな場所に連れ出した。
新しい景色、音、におい、感触。
まるで、いや、本当に未知の世界だった。
がんばって、手を伸ばせば届くような
そんな気がしていた。
そんな気が。
「好きな人がいるの。」
潮風が爽やかな、昼下がり。
突然だったけど、
「知ってるよ。」
驚いたのは彼女の方だったみたい。
ちょっと可笑しかった。
「いつから?」なんて野暮を言う性格じゃない。
だから彼女は、
「ごめんね。」って。
僕も似た性格なのかも、「なんで謝るの?」なんて。
「大丈夫。
、、、、、好きでした。」
困らせないように過去形にしたのが精一杯の強がり。
そしたら、彼女はどこか寂しそうに。
近くの花を見つめて。
でもすぐにこっちに向きなおり、
ひかえめな笑顔で
「私も、好きだったよ。」
涙我慢に負けたのは情けなくも僕だった。
春よ。あなたが嫌いです。
淡い失恋を大切な、大切な思い出にしてしまうあなたが。
「ん。」一瞬、思い出して。
あぁ、そうか
あの日見た空は。
教えてくれてたんだね。
君との写真に、
タンポポをそえて
少し嫌いな季節に
僕の大切な、大切な願いをかけます。
春になった君へ。
「叶えてよね。春なんだから。」
泣き笑いで、呟く。
幸福の春を。
美空 夏月です。
2作目です。
読んでいただけると幸いです。
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