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【習作】描写力アップを目指そう企画  作者: 描写力アップ企画管理者
第八回 はばたけ、君のはね企画(2019.8.24正午〆)
251/268

Should I live or fly ? (青月クロエ 作)

 蝉の輪唱と共に休み時間終了を告げるチャイムが空に流れた。

 五限目は数学だったっけ。照り返しでぎらぎら輝くフェンスに軽く蹴りを入れ、両手を上部へと伸ばす。


「あっち!」


 反射で離した手を空中で軽く二回振り、もう一度伸ばす。火傷しそうだ。でも、そこを耐えなきゃ次には進めない。掌の皮がめくれたとしてもかまわない。根性で(根性の使いどころ間違ってる気がしないでもないけど)フェンスに登り、1.3m程度の幅しかないコンクリート地面へ着地する。

 階下の校庭ではどこかのクラスが体育の授業を始めていた。ふざけてじゃれあう男子、注意しつつ笑いを隠しきれない先生、甲高い声で叫ぶ女子。じりじりと太陽に肌を焼かれ、流れ落ちる汗と同じく無性にオレをイラつかせる。


「だったら、さっさと飛び降りればいいんじゃなあい??」

 場違いな程おっとりした声が降ってくる。声の先を辿れば、白鳥に似た優美な白い羽根が視界を覆う。

「……誰」

「うふふふぅ、見れば分かるでしょお??」


 ふぁっさふぁっさと羽音を立てて声の主は微笑んでいた。陽に透ける金髪を靡かせ、フェンスに腰かけながら。日焼けとは無縁そうな白い肌、汗染み一つない白いノースリーブワンピースから覗く胸元も羽根みたいにふわふわと柔らかそうでおいしそう……、じゃなくて。


「ひとりで飛び降りるのがこわいならぁ、おねぃさんが手伝ってあげるぅ」

 フェンスからオレの隣へふわり、降り立ったおねぃさんは愛くるしい笑顔でオレに迫ってくる。

「キミのことはずっと見てたんだよぉ??受験失敗して行きたくもないガッコ行かなきゃいけなくなってぇ。なのにクラスメイトからいじめられてぇ……。つらいよねぇ、やってらんないよねぇ。いっそのこと生まれ変わって新しい人生やり直さなぁい??」


 嫌な思い出総集編ダイジェストが一挙に脳裏を駆け巡る。気分は下落の一途を辿るばかり。おまけに、おねぃさんの甘い口調、甘い匂いが判断力、思考力を鈍らせ、麻痺させていく訳で。手を差し伸べてくるおねぃさんの滑らかな白い指先へ、そぅっと手を伸ばす。


「そう、それでいいのよぉ」

「いいわけないだろうーがぁああ!」


 その手を掴み取る寸前、フェンスの向こう側から耳にキンキンと響く大絶叫。檻の中の猛獣よろしく金網にしがみつき、がしゃがしゃ激しく揺さぶっている。ただし、その正体は猛獣ではなく幼女。側頭部にちんまりとした山羊角生やすゴスロリ幼女だけども。


「アンタね!こいつに騙されてるよ!あんたの飛び降りほう助も今月のノルマ稼ぎたいだけなんだからね!!」

「それで彼が救われるなら別に問題ないじゃなあい??」

 長い黒髪振り乱し、ピピピ!と背中の蝙蝠羽を忙しなく動かす幼女を、おねぃさんは指先で髪をくるくる弄びながら一蹴する。

「あの娘のことは気にしないでねぇ。ぎゃんぎゃんうるさいけどぉ、あの(なり)|じゃフェンス乗り越えるなんて無理だしぃ」


 指に巻きつけた髪がしゅるる、抜けていく。幼女の金切り声のトーンが更に上がるのも無視して、おねぃさんは髪じゃなくてオレの指を自らの指に絡めた。

 死ぬ間際で恋人繋ぎ初体験とは!急激に跳ね上がったオレのテンションを見透かしてか、くすっと笑われてしまったが構うもんか。どうせ今から死ぬんだし。


 熱気で空気揺らぐ空へ、おもいきって飛び込む。一緒に飛び込んだおねぃさんの羽根が神々しいまでに白く輝く。煩いと思っていた蝉の声も校庭の歓声も、これで聴き納めだと思えば不思議と名残惜しく。

 抜けるような空の青さに僕は今、かつてない程の清々しい感動を覚えた――、いつも下の地面ばかり見つめていたから。


「じゃあ、これからは何が何でも上見て生きていけば??」


 耳に突き刺さる剣呑な声、おねぃさんの声じゃない。視界の端で捉えたのは巨大蝙蝠の羽根。

 二本の細腕が僕を抱き止めている。細腕の主であるゴツイ山羊角の美少女が上空に向かって叫ぶ。


「お生憎さまだね!この姿が本来のアタシ!フェンス乗り越えるくらい楽勝さ!!」


 おねぃさんは空と同じ青い目を細め、無言で美少女とオレを見下ろしていたけど。嫌そうにチッと舌打ちを一つ鳴らすと、ぶぉおん!と可愛らしさの微塵も感じられない轟音響かせ飛び去っていった。


「あのぅ、ありがとう……」

「何が」

 お礼を言うと心外だと言わんばかりに鼻を鳴らされた。

「いや、飛び降り、止めてくれたし」

「……一人の天使につき月一で30人、人間の魂を天界に送るノルマがあるように。地獄では一人の悪魔につき月一で40件、天使の職務妨害を成功させなきゃいけないのよね。アタシも自分のノルマ稼ぎたかっただけだし。アンタの事情なんて知ったこっちゃないわ」


 屋上に到着するなり、安全なフェンスの内側にぺいっと放り捨てられる。尻餅をついたコンクリ地面の熱さ、痛みに生の実感を覚える。

 振り返ることなく飛び去る黒い背中に、(諦めの境地も手伝って)生きるしかないことを悟った。




(了)

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