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【習作】描写力アップを目指そう企画  作者: 描写力アップ企画管理者
第六回 キラキラ☆ワードローブ企画(2018.11.24正午〆)
202/268

黒い瞳のトトラ (さかな 作)

 初めて訪れる博物館は、まるでタイムカプセルの中に迷い込んだような、不思議で神秘的な場所だった。


 館内は薄暗く、壁に沿っていくつものガラスケースが設置されている。

 葵悠太(あおいゆうた)は周囲を気にしながらそっとケースの中を覗き込んだ。

 そこには、一万年以上も前の地層から出土したという土器が物々しく鎮座していた。ここは縄文時代の展示コーナーだから、他にもクマに似た土偶や不思議な形の壺などが飾られている。

 好奇心を忍ばせた目で熱心に展示物を眺めていると、隣で友人の隼斗(はやと)が嘆息した。


「不公平だって。去年まではDDランドだったのにさ。社会の授業じゃんか、こんなの。なぁ?」


 同意を求められ、悠太は慌てて視線をガラスケースから引き剥がす。


「今年は試験的だって言ってたし、来年は元に戻るかもね」

「げえ、それ余計ヤなんだけど」


 来年の修学旅行コースも絶対博物館になりますように、などと意地の悪い呪文を吐きながら、隼斗はさっさと次の展示室へ行ってしまった。


「あ、待ってよ」


 悠太は慌ててその後を追う。

 やってきたのは最後の展示室で、そこは思いがけず大勢の人で賑わっていた。ここには人々の足を留める「何か」が展示されているのだろう。


「おーい、隼斗?」


 人混みの中に消えてしまった友人の背中を探して彷徨い歩くうちに、悠太はあるガラスケースの前に辿り着いた。

 そこに飾られていたのは――。


「うわ……」


 瞬間、悠太の目はそれ(、、)に釘付けになった。

 目を固く閉じ、胸の前で祈るように手を組んだ女の子の、ミイラに。


 ミイラといってもピラミッドに埋蔵されているような干からびたものではない。むしろ、人形と言った方が近いかもしれない。

 豊かな黒髪は耳の下で二つの三つ編みに結わえられ、その頭には水色や赤などの鳥の羽根でできた髪飾りが刺さっている。耳には石の耳飾りが、手首には金属でできたブレスレットが輝いている。

 それに、肩から羽織った分厚いマント。足首まで隠れるワンピースや、腰に巻かれたベルト。それらすべてに細かく美しい模様が織り込まれている……。


 まったく馬鹿げていることだけれど、悠太はたしかに(、、、、)彼女に見惚れていた。


「これはね、数千年前に生贄として祀られた女の子のミイラなんだよ」

 頭上からの声に、悠太はハッとして顔を上げる。

「藤木先生」


 担任教諭は悠太と目が合うとにこりと微笑み、その視線をミイラへと移した。


「山頂で発見された時、このミイラは氷漬けになっていた。だから驚くほど良好な保存状態だったんだ。服も装飾品も当時のものなんだよ」

「え、そうなんですか」


 てっきり衣服は博物館側が用意したものだと思っていた悠太は、藤木の解説に間の抜けた声を出した。考えてみれば、ミイラに服を着せるなんておかしな話だ。


「きっと神様に捧げる身だから、うんと着飾ったんだろう」

「だからこんなに綺麗なんですね――あ、綺麗って、服装とか飾りとかですけど」


 慌てて付け加える悠太に、藤木は「そうだね」と優しく頷いた。なんとなく気恥ずかしくなって俯いた時、向こうの方から隼斗の声が聞こえてきた。


「なにやってんだよ悠太ー。早く土産買いにいこうぜー」

「ごめん、今行く」


 悠太は軽く手を振り、出口に向かって歩き出した。


――たすけて。


「え?」


 不意に見知らぬ女の子の声が聞こえた気がして、悠太は振り返る。目が合うのは突然立ち止まった学生を迷惑そうに見てくる観光客ばかりだ。

 空耳だったのだろうか。申し訳なさそうに頭を下げ、踵を返したのだが。


――たすけて。


 また、同じ声だ。


――しにたくない。


 はっきりと耳に届いた女の子のSOS。

 まさかという思いで、悠太は人混みを掻き分けてミイラの元へ引き返した。

 そこで悠太はぎょっとする。


「な、泣いてる?」


 閉ざされた瞼の下から、一筋の涙が伝い落ちていたのだ。


「助けてって、君が言ったの……?」


 内心あり得ないと思いながらも、恐る恐る尋ねる。そうして、無意識に伸ばした指先がガラスケースに触れた瞬間。


「!?」


 眩い光が悠太の視界を貫き、思わずぎゅっと目を瞑った。

 そして次に瞼を開けた時――悠太は見知らぬ森の中に立っていた。


「え……え?」


 己の身に何が起こったのか全く理解できず、とりあえず何度も目を瞬いてみた。だが何度見てもそこは薄暗い博物館ではなく、陽の降りそそぐ屋外なのだった。


「隼斗? 藤木先生……?」


 聞こえてくるのは鳥の囀りだけだ。不安げにあたりを見回していると、突如草むらから飛び出してきた何かに襲われた。


「あぐッ!?」


 それはものの一瞬で悠太を組み伏せると、鋭利なものを喉元に突きつけてきた。


「何者だ!」


 悠太は目を見開いた。驚いて声すら出せなかった。

 恐怖――だけではない。見上げた先にいた少女(、、)に目を奪われてしまったからだ。

 黒髪のおさげに、大きな黒い瞳。

 彼女は紛れもなく、ガラスケースの中で祈りを捧げていたミイラの少女だった。

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