ひとめぼれ (ロージア 作)
少年と少女の歳は明記しませんでしたが、なんとなく分かってもらえればと思い描写しました。何か感じたことがありましたらコメントしてくださると、とても嬉しいです。タイトルにひねりがなくてすみません。でもこれ以外思いつきませんでした。
サッカーボールを胸に抱いて、ケンは友達のタツヤのアパートへと急いでいた。
五月のきらきらした太陽の光が、道端の若葉に反射する中、ケンは走る。
スポーツ刈りの小さな頭は、活発に動くケンにはよく似合っている。その勝気な顔つきに笑みをのせ、タツヤのアパートに向かって走る。
これからタツヤを誘って行く少年サッカーの試合が楽しみでしょうがないと、その顔は物語っていた。
着いた先は白壁も薄汚れた、古い二階建てアパート。アパートの名前が書いてあるプレートさえ、かすんでしまって見えにくい。ケンは勢い込んで一階にある、タツヤの家族が住む部屋のインターホンを押した。
少しの間のあと、がちゃりとノブを回す音と共に扉の奥から出てきた人を見る。
「たっちゃ……」
高い声でタツヤの名前を呼ぶその途中で、現れた人物にケンは息を飲んだ。
癖のある金色の髪の毛を高く結った、色素の薄い透明感のある面の『妖精』。
ケンはその少女を見たとき、息を飲んでそんなことを思った。
「どちら様ですか?」
くびを傾げてその妖精の少女は不思議そうにケンに聞く。
学校の制服だろう紺色のブレザーが、長くて細い腕を覆っていた。スカートからのぞく足もすらりと伸びていて、なによりもその深い湖のような青い瞳が吸い込まれそうなほど綺麗だった。
「あ、間違えました……」
日本人ではないその深い神秘的な青色の瞳を見つめながら、ケンは今まで見た中で一番きれいな少女に間抜けな答えを返す。
「そうなの? それじゃあね」
妖精の少女はケンの前でパタンと扉を閉めた。
たった数秒のあいだ顔を合わせただけだった。
けれど、ケンの脈拍は上がり、胸がどきどきと高鳴った。
ぼうっと先ほどの妖精の少女のことを考えて、今更ながら顔に熱が集まってくる。
もう一度、あの少女の姿が見たい。
もう一度、あの少女の声が聴きたい。
一瞬で心に焼き付いた少女を想って、ケンは石像のように動けなくなった。
手に持っていたサッカーボールがぽとりと落ちて、ケンの足元に転がる。
ボールはころころと転がり、少女の出てきた扉にこつんと当たって止まった。
おわり