竜の契りと相棒と (玉藻稲荷&土鍋ご飯 作)
※作者本人ページで、後日同作品の完全版を公開予定です。
「ついにやり遂げたんだな……俺たち」
『そうだ。私たちの勝利だ』
人族を苦しめた魔王は激しい戦いの末、既に眼下で息絶えた。スバルは、相棒で風の守護竜である翠竜ワールウインドと、竜騎士として戦いを繰り広げ、遂に魔王を討伐したのだった。この世界に召喚されてからずっと一人と一匹はその為に頑張ってきたのだった。
「愛槍が折れた時はどうなるかと思ったけど、咄嗟にワールウインドの牙がヤツに刺さって……。その間に俺も魔法に切り替える事が出来たよ。ありがとうな」
『なに……相棒として当然だ。それより覚えているか? 魔王を討伐した暁には……私と契りを交わすと』
「あぁ。竜の契約だろ。そりゃもちろ……あぁぁ!?」
ワールウインドが背中に乗ったスバルを見ると、スバルを中心に光が放たれる。少しずつ軽くなる背中にとてつもない不安を感じながら竜は必死に名前を呼ぶ。
『スバル! スバル!』
「ワールウインド……俺たちは、ずっと……最高の……相棒……」
それを言い切る前にスバルの姿はこの世界から消えた。勇者は魔王が存在するからこそ意味がある。逆に言えば魔王がいなければ……。ワールウインドは高く、どこまでも届けと慟哭した。
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スバル――日ノ本昴は、また日常に戻された。高校生だった彼は、異世界に召喚された翌日の、元の世界に戻されていた。あれだけ激しい戦いも、どんなに辛く厳しい時にも横にいた相棒のワールウインドも、ここにはない。思えばあちらに喚ばれてから、ただの高校生だった昴が、戸惑う事無く勇者としてやっていけていたのはあの相棒の竜がいたからだった。
「昴~。遅刻するわよー」
母の声に、ベッドに横たわったまま時計を見ると朝の七時半。長らく着ていなかった制服を着込み階下に降りる。筋肉はあちらで鍛えられたままだったおかげで制服は少しきつかったのが、確かに冒険をしてきた証だった。
「現実だったんだな……」
「どうしたの? 今日お味噌汁濃かったかしら」
なんでもないと答えて、久方ぶりの和食を味わって家を出た。
「おい聞いたか昴!? 転校生だって転校生!」
随分と久し振りに見た友人に声をかけられ、生返事で答える。現実感が無い現実。順応しなければと思うが、あちらとのギャップに身体が、心がついていかない。気を張らなくてもいいのに、緊張感に身を置いてしまう。こんな時も、ワールウインドがいたら「スバル落ち着け。いい戦士は力をとっておくものだ」と諌めてくれただろう。うるさい父親の様に感じていた時もあったのに、今は無性に会いたい。だが、もう……。
「ほーら席につけー。今日は転校生を紹介するぞ。しずかにー! はい、では君。みんなに自己紹介を」
騒がしい朝の空気の中、転校生という物珍しさにさらに静まらない教室。教師はそれを注意しつつも、廊下にいる生徒に声をかけ教卓の前に案内する。教室の空気が飲まれた様に静かになる。
「マジか。海外からの美人さんだぜ昴。ほら、昴見ろって」
「はぁ」
どうでもいいと窓から外を見ていた昴に、友人が呆けた様な声をかけてくる。徐々に抑えたざわめきが広がる教室内。
何となく目線を動かせば、金髪に翠の目。さらにはまるで人形の様に整った顔立ちの美人が黒板の前で仁王立ちしていた。瞬いた昴の瞳の中で、女生徒は力強い笑顔で昴を見つめる。
「えっと、君。ほら自己紹介を……」
いつまでも無言でいる事と妙な圧力に教師が思わずそう声をかけると、女生徒は、昴を見つめたまま言い放った。その言葉にクラスはさらにざわめきが一段階上がる。
「スバル! 追いかけて来たぞ! さぁ私と竜の契りを交わすのだ!」
「え、ちょ! どちらさま!?」
「あれだけ一緒に寝食を共にし、戦った仲ではないか! こちらでは野風竜美と名乗っている。昴よ。野を走る風はお前を離さないぞ」
そう言って先ほどまでの力強い笑みから一転。嬉しそうにはにかんだ彼女の笑顔を見ながら、昴は心中で「ワールウインド、あいつ雌竜だったのか……」と、そこにまず驚愕。そして、興奮したクラスメイトに揉みくちゃにされながら、冒険の日々と、ワールウインドとの日々を思い出し、赤面したりにやけたりするのであった。
2018/03/25 一部修正
2018/03/26 一部修正、及び作者本人ページでも同作品を公開予定のため、注を追記