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それから暫くは他の受験者が受ける姿を見ながら、先程の試合で使った矢の手入れを施す。その手付きの良さに見惚れた守衛達は試合をそっちのけでサニアの治す矢の戻り様を見つめていた。
すると、ベリアルに小突かれていた先程の兵士がサニアに話しかけてきた。
「サニアさんって何故それだけの腕を持ちながら騎士を目指すのです?」
「サニア…で良いですよ。私は戦乙女として戦場を駆けると亡き父母に誓ったのです。と言うのも、私の集落は先の紛争でほぼ全滅してしまい…その時に戦乙女に助けられたのが私の父方の一族でした。」
「紛争被害者の一族だったのか…大変でしたね。御両親は今も健在で?」
「いえ、私を産んだ後暫くして亡くなりました。ですが、父が言い伝えられた戦乙女の活躍をいつも話してくれて…私は幼いながらいつも父に戦乙女になると宣言していましたね。」
くすりと笑いながら話すサニアの顔は、何処か懐かしさを帯びていて幼い顔立ちがいつもより大人びて見えた。
「成る程。それは大変でしたね…。所で、その話だと両親が亡くなられたのは随分幼い頃だと思いますが…失礼ながらどうやって今まで生きてこられたのですか?」
「ええ、それは父が生前とある騎士に私の事を頼んでおりまして。その方も当に亡くなられたのですが、狩りを、剣を、弓を…武芸と狩猟の全てを教わりました。」
「…⁈ま、まさかその方とは…。」
「…ええ、戦乙女の最後の血族にしてアルメリア最強と謳われた騎士団長ーオリエント様です。」
サニアの言葉に驚く守衛達。
それもそのはず。サニアの師匠ことオリエント・コルベニスは戦場において右に出る者はなく、圧倒的な采配と武力を持ちながら往年にはその身を晦ました大英雄だった。
王国を去った理由は未だ知られておらず、その始終を知っている者は先代国王と現国王、そしてその側近のみという所謂禁則事項だった。
「…それが事実ならば国王様が直々にサニアへと声をかけたのにも納得がいく…何ということだ。英雄の剣が生きていた…‼︎」
「あ、あの…そこまで凄いものでは無いので…。ですが、私が騎士を目指し戦乙女とならん理由はこれ以上ありません。亡き父母に誓い、一族の感謝を込め、亡き師への賜物として私は戦乙女となります。」
「分かった。うん、サニア。君の騎士昇格は俺からも推しておこう。無論既にその実力は誰もが認めているが…お堅い貴族主義の奴らには俺から言えば大丈夫だから。」
先程の守衛とは違い、その腰に家紋入りの剣を携えた男が出てくる。どうやら貴族騎士の中でも上位らしい彼の発言に、周囲の守衛も頷く。
「ありがとうございます…ですが、まずは己の実力で勝ち上がってみせます。でなければ…戦場で生き残れませんので。」
「その意気ですよ。頑張って下さい。」
「基本俺らが誰かに肩入れするのは禁止なのだが…事情が違う。精一杯応援するよ。」
「ありがとうございます。」
素直な善意に照れ臭いのか、顔を赤くしながら微笑むサニア。周囲の守衛はそんなサニアを妹の様に扱い、和気藹々と話しかける。そしてその様子を見たベリアルは一度咳払いをして諌めようとしーサニアが見せた初めての笑顔を見てそれが愚行と悟り大人しく見つめる事にした。
実力が拮抗している試合が続く中、サニアは周囲の守衛に見守られながら武器の手入れを続ける。
と言うのも、本日の試合はここまでとなっている為、残りの試合は明日までお預けとなる。その為、今の時間は武器の手入れと情報収集に使うしかなかった。
「…そういえばサニア。君は今晩どうするつもりかな?」
「今晩…?そうですね。特に宿などがある訳でも無いので一度国を出て狩りをした後野営でもしようかと。」
「なんと⁈それはダメだ。女の子が1人で野宿など…それに着替えや風呂などはどうするつもりだ。」
「そ、それならその辺の河川で服と体を洗いそのまま寝るつもりですが…。」
サニアの言葉に先程の貴族騎士が青い顔をする。そして少し考えた後ー
「それなら我が家の使用人宿舎を使うんだ。そこならば女用の風呂もあれば寝巻きや洗濯も可能だ。先程の行いといい少しは周囲の目を気にした方がいい。」
「ぎ、ギラン様その様な事を勝手に…。」
「構わん。俺が許可するんだ。このギラン・ディバートが命ずる。サニア・ローレンよ。今日1日は我が使用人の部屋を使え。お代も仕事も要らん。その代わり今日の疲れを癒し明日に供えよ。」
「え、あ…はい。分かりました。」
「ギラン様…はぁ。伝令は僕なのですから…行ってきます…。」
貴族騎士ーギランの言葉に溜め息を吐きつつ、隣で待機していた守衛はベリアル、国王、そしてディバート家へと伝令を伝えに回った。
呆気に取られつつもサニアはギランの心遣いに感謝し、彼に一礼をした後武器を全て纏める。
「ギラン様、ありがとうございます。その心遣いに感謝し、明日は誠心誠意頑張らせていただきます。」
「ああ、宿代以上の頑張りを期待する。」
ギランはサニアに対し笑顔を見せる。一方でギランに対し羨ましいとばかりにじっと見る兵士を彼の側近が払い、ギランは後ほど城門へと来る様に告げる。そのまま去っていった彼に頭を下げつつ、サニアは残りの試合が終わるのを待っていた。
「…これにて本日の試合は終了する。明日の午前に2試合、昼過ぎに決勝を行うから勝ち残った者は遅れない様に。では解散。」
一辰刻過ぎた頃、ベリアルにより本日の試合が終了した事を告げられる。その言葉を聞いた後、サニアは勝ち残った受験者に礼をしつつ先に城外へと出た。
暫くすると、先程より軽装となったギランとその側近が城門へと到着したので、サニアは頭を下げると、気にするなとばかりにギランが手を挙げる。
「君は別に俺の配下でも何でも無いのだから、頭を下げる必要は無いさ。」
「いえ、まだ私は騎士ではなければギラン様より高位の貴族でも無いので…。」
「構わないよ。…お前ら。サニアの持ち物を持ってあげるんだ。」
『はい‼︎ギラン様‼︎』
「そんな…っあ…重いので…ああ…ありがとうございます。」
「大丈夫ですよ。並の鍛え方をしてませんので。」
慣れてない待遇にあたふたするサニアを微笑ましく見る側近達。結局、荷物全てを持ってもらいながらギランと共に彼の家へと向かった。




