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体勢を整えたフロイドは、自らの鎧に付いた傷を見ると先程までの余裕ある表情を崩し、焦りが混じった顔でサニアを睨み付ける。
「まさかこの鎧に傷を付けるとは…っ。僕が師事した人以外で傷を付けられるのは初めてだよ。」
「でしょうね…。貴族様の鎧は着慣れこそしてはおられますがその身に戦場の跡はありません。恐らく、自らを凌駕する使い手にあった事が殆ど無いのでしょう。」
対して、何度も補装されたサニアの革鎧には獣の爪痕や歯型らしき跡が幾つもある。その一つ一つが自然界にある死線を何度も乗り越えてきた証拠でもあった。
常に己を乗り越えようとしてきた者と、常に死を乗り越えてきた者。端から見れば2人ともその歳にすれば驚異的な戦闘能力の持ち主ではあるものの、その道のりの違いは相手が放つ死の一撃に対しての精神的な抵抗力に圧倒的な差があった。
そしてその差は自らが傷つく事に歴然と出てくる。現に、フロイドは今の一撃を受けただけで足が竦み、先程までの様な勇み足での特攻は出来なかった。
その機を見逃さないサニアはすかさず矢を穿つ。放たれた三本の矢は全て、脳天、心臓、丹田と正中線を綺麗に狙っており、死に怯えたフロイドの体勢を崩すには十分なまでの一撃だった。
「ーッ‼︎」
「くっ…‼︎」
すかさず詰め寄ったサニアは胴薙ぎの一撃を起点に縦横無尽に動き回りながら切りつける。その動きに対し必死に目で追い剣を盾にして斬撃を防ぐも、取り回しが遅いクレイモアに対し素早い切り返しが可能なファルシオンは近距離の相性としては最悪だった。
見る見るうちに白銀に輝く鎧は傷だらけとなり、その防御力を失い始める。だが、それでもフロイドは膝を屈せずに距離を空けてはクレイモアを振り払い、必死にサニアへと反撃を行う。それでも一度スイッチが入った彼女を止めるには速度、体勢、踏み込みどれも劣っており、その全ては空振りとなった。
「諦めなければ…貴族様は死にますよ。」
「くっ…知っているか、サニア。そう言うのはこの街で負ける直前に言う言葉だ…っ‼︎」
「絵空事を…ッ‼︎」
体をバネの様に捻りながら放った一撃が、フロイドの剣を両断しそのまま首筋に当たる。だが、首を断つ刹那に手元を回しており、峰打ちとなったそれはフロイドの意識を奪うだけの一撃となった。
「死線を乗り越えてから、私と果し合いましょう…。今はまだ、私の方が数段上です。」
「勝者ーサニア・ローレン‼︎」
崩れ落ちるフロイドを見て即座に判定を下した審判の声に、観客は大きな歓声をあげ盛り上がる。
終わってみれば一方的なその試合にサニアへのコールが鳴りやまなかった。
歓声を背にしながらサニアが待機室へと戻ると、先程の歓迎ムードとは一転。次に戦うかもしれないサニアに対し警戒心を露わにした眼差しで見つめる。そんな中ベリアルだけが歓迎して迎え入れた。
「神速の射抜きと切り返し。素晴らしいものだった。」
「ありがとうございます。」
「正に向かう所敵無しといったまでだろう。恐るべき才覚よ。」
だが、ベリアルの賞賛に対しサニアは首を横に振り、革鎧を外す。上半身を布の胸当てのみの姿で珠のような肌を見せたサニアは一同が目を背ける中腹部の打撲痕を見せる。
「あの貴族様は倒れる直前まで諦めず、空いている手で私の腹部を殴りつけました。勢いもなく必殺の一撃とは程遠いですが、これが剣ならば私は致命傷を負っていました。」
「わ、わかった。だから未婚の女子がその様に柔肌を晒すではない…っ。」
「これは失礼しました。あまり気にしない性格ですので…。」
頭を下げ革鎧を着直す。それを見てホッとしたベリアルは、咳払いをしつつ残念そうに目を配る守衛の1人を小突いた。




