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戦乙女(ワルキューレ)が眠る丘で  作者: 雨音緋色
第1章ー少女は目指し、騎士となる。ー
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1-4

待機室では、ベリアルが再び待ち構えており、先程とは違う武器を手に持ちながらサニアを待っていた。また、半数以上減った待機室では、傷ついた勝者が薬草を塗っていたりしていた為、独特の匂いと血の臭いが混じり合っていた。


「次の武器はこれだ。使えるか?」


「これは…。ええ、大丈夫です。私に使えない武器などありません。」


その手に渡された武器は先端に鉄球のついた棒…モーニングスターと呼ばれるメイスだった。勿論、狩猟では使わない為サニアにとっては手慣れないものではあるが、使えないものではなかった。


サニアは、項垂れる受験者が多い待機室で周囲に気をつけながら軽く振り回し、手に馴染ませる。その様子に感心したベリアルは頷いていると、闘技場への道から守衛が1人近づいてきて、出番である事を知らせる。


「サニア・ローレン。出番だ。己が騎士道を見せて来い。」


「はい。我が誇りにかけて。」


堂々とした態度で返事をし、凛とした表情で前へと進む。

暗い道のりが明け、光が差し込む先へと足を運べば、歓声が鳴り止まぬ闘技場へと再び足を踏み入れる形に。そしてその目前では、全身を鉄の鎧で包み、巨大な盾と身の丈以上の長さのある戟を構え同じくサニアを見据える姿が。どうやらそれが対戦相手らしい。


「両者準備ができたな?…では始め‼︎」


真上に太陽が差し掛かる手前。合図と共に走り出したサニアは、速攻かつ高威力の一撃を盾へと放つ。相手の意表を突くそれは、彼女の読み通り守るには曖昧すぎる角度を取ってしまい…


「ーっ⁈」


「ハァーッ‼︎」


鉄球と盾が触れ合った瞬間、轟音とも言うべき破壊音をたてて盾をへし折った。

それを見た相手は即座に盾を捨て、戟を両手持ちへと変える。かの者にとって盾は第1の防衛線でありながらも、その先の防衛線はまだ存在していた。


無言で戟を払い、サニアの首を狩りに来る。それを体を反らして避けたサニアは一旦距離を置いて相手を観察し始める。


通常、サニアの持つメイスの範囲は、普通の棒で殴るよりも長い為、中近距離での戦闘において剣よりも優位に立つ事ができる。だが、その距離は槍や戟にとって最も効率よく戦える間合いであり、下手に自身の戦闘距離で戦えば逆にやられる可能性がある。加えて、肉体で至近距離から攻撃を行おうにも相手は鉄の鎧を全身に纏っている為ダメージは通らない。徒手空拳にも通じてはいる者の、鎧通しの一撃等知りえなかった。


(そうと決まればやはり直接鉄球を当てるしかない。その為には…‼︎)


走り出すサニア。だが、守りに入れば突いて良し、薙いで良し、打って良しの戟の結界を突破出来ない。足を大地に預け、堂々と構える鎧姿に、足踏みを打つサニア。ここに来て初めて止まったサニアの様子に、観客は沸き上がる。


「守りの硬さは褒めますが。攻め手はないのですか?」


「…ふっ、甘い。」


「ーッ⁈」


中から男の声が聞こえた鎧は大地を力強く蹴り、駈け出す。その速さは見た目の重さとはかけ離れた程早く、最速の突きを放つ戟をかろうじて交わしたサニアの頬は皮一枚切れて出血した。


「中々良い足をお持ちで。それさえ無ければ私にも追いつけたでしょうに。」


「生憎その手には乗らない。君が近接格闘も得意としているのは先の試合で見たからね。」


「守りも戦術も手堅いのですね。」


思わぬ難敵に思わず口角を吊り上げるサニア。そう。試合はこうでなくてはならないー‼︎

再び距離を置き、相手を回り込む様に歩き出すそれを追う様に鎧の男は穂先をサニアの正中線に合わせ、いつでも射止める構えを取る。歩幅の緩急にも合わせて移動するそれは中々外すことの出来ない結界だった。そこでサニアは、更に距離を取り、まるで弓を使うかの距離で動き始める。その動きに怪訝そうな様子で構える鎧の男は、先程よりも小さくなったサニアを鉄仮面の隙間から見つめ続ける。


ジリジリと動くサニアと、その動きに傾注する鎧の男。既に試合が開始してから10分は立とうとした頃。急激にサニアは走り出した。


「ーッ‼︎来たか‼︎」


穂先を彼女に合わせ、適度に力む。いつでもその体を貫ける様に構えた彼はサニアを目でしっかりと捉え…


「ーッ‼︎」


「なっ…何処だっ‼︎」


急にその姿を見失う。左ー居ない。右ー…いない‼︎下‼︎ー居ない‼︎後ろッ‼︎居ない…‼︎上ッ‼︎‼︎


真上を向いた男はその目に太陽光が直に当たり、思わず目を閉じる。それが致命的な隙となり、背後から強烈な衝撃が走る。


「グァ…ッ‼︎」


「捉えた…ッ‼︎」


前方に仰け反った彼の背中に再度走る衝撃。その一撃は鉄の鎧を砕く程の強烈な一撃であり、前のめりに倒れた彼は立ち上がる事も出来ずに地に伏した。


「ど…どうやって…⁈」


最後の力を振り絞り、背後から攻撃をしてきたからくりを聞き出そうとする。するとサニアは振り向かずに口を開き答える。


「単に頭上を越えただけです。貴方があまりにも早く周りを見る物ですから、後ろに着く前に振り返ってましたね。」


簡単なからくりを告げられ、思わず脱力してしまった男は、そこで意識を失った。


「勝者ーサニア・ローレン‼︎」


審判の言葉に沸き上がり、立ち上がる観客。その歓声を背に受けつつ闘技場を後にした。

待機室に戻れば、賞賛の拍手で迎えるベリアルと他の受験者達。だが、やはりサニアはそれを見て眉をひそめつつ待機室の隅へと行く。まだこの程度では喜べないとばかりに体を解す。

その様子にやれやれといった様子で近づく1人の男が。これで3度目となる噴水近くで会った貴族だった。


「サニア、むくれた顔は似合わない。騎士とは賞賛に対し相応の愛嬌を振る舞うのも仕事さ。ー例え手応えがない相手でもだ。」


「別にその様なつもりはありません。ただ、与えられた武器を活かせず単に運良く相手が盲目なだけでしたので。賞賛に値する試合ではありません。」


「確かに一理ある。だが、時の運を掴むのは勝者の特権だ。無碍にする事もない。」


彼の言う事はもっともだったので、少し考えたサニアは立ち上がり、周囲の人々に一礼をする。そしてそのまま座り込み、再び肩や足を伸ばし始めるのであった。その様子にベリアルや目の前の貴族は苦笑しつつも、それ以上は追求しなかった。

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