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戦乙女(ワルキューレ)が眠る丘で  作者: 雨音緋色
第1章ー少女は目指し、騎士となる。ー
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1-3

待機室には既に沢山の選定試験受験者が待機しており、屈強な兵士から貴族出の騎士まで様々な人間がいた。その中でサニアは試合に向け柔軟運動を繰り返しては頭の中でどの武器が選ばれても戦える様にイメージトレーニングを繰り返していた。


サニアが得意武器として提出したのは、弓と剣であるが、勿論それらが選ばれるとは思っていない。この室内の武器を見る限り、メイスや槍、棒、果てには盾や徒手で戦わされる可能性もある。何の準備もしていなければ、運良く自分の武器を選ばせてくれる程外部の人間に甘い試験ではない事は理解していた。


「それではこれより選定試験を始める。名前を呼ばれたらこの先の闘技場へと進め。」


ベリアルの声が響き、受験者一同はそちらの方へと向き直す。選定試験はトーナメント方式。勝ち進めば勝ち進むだけ、自分をアピール出来る機会がある。なるべくならば最後まで勝ち残りたい。


「次。サニア・ローレン‼︎」


暫くしてからサニアの名前が呼ばれ、ベリアルから武器を渡される。その武器はー


「ダガー…ですか。」


「うむ。見事これで勝ち進んでみよ。」


掌程の刃渡りで収まる小剣を手に、先へと進めば、選定試験を見に来た国民の大歓声が沸き起こる中、目の前には二本の短槍を持ち待ち構えている男がいた。どうやら、彼が対戦相手らしい。


「お嬢ちゃん。悪い事は言わない。帰りなさい。」


「お断りします。私はこの場で負ける訳にはいかないので…っ‼︎」


ふっと気合を入れる。全身に血が漲る感覚がおこり、全神経が冴え渡る。その瞬間、怪訝な顔をしてこちらを見ていた男の表情が一変。すぐに終わらせると言わんばかりの雄叫びをあげ、槍を振り回し始めた。


「両者準備はいいな?…始めっ‼︎」


「ウォォォォォォッ‼︎」


掛け声と共に男は走り出す。合わせて、軽快なステップでサニアも走り出し、男が繰り出す槍の刺突を難なく躱す。そのまま、穂先を踏みつけ、右手で持ったダガーで一閃。だが、肉を断った感触はなく、男の反対の手に持たれていた槍の柄で止められていた。


「…シッ‼︎」


「くっ…‼︎」


そのまま怒涛の連撃を放つサニア。ダガーを振るい、その力を利用し足で顔を狙い、さらに空いた手で槍の柄を掴まんと伸ばす。その動きに押されながらも男は何とか守り続ける。だが、そのリズムを崩さんとするサニアは、一度地を強く蹴り、今度は近距離でのダガーを使った連続切りへと変える。その切り替えに追いつけない男は、その身に何度も切り傷を刻みながらも必死に槍で身を守っていた。


「な、何なんだ貴様…っ‼︎」


「私は…戦乙女ワルキューレとなる者だ…‼︎」


ダガーで槍を上空に弾き、渾身の蹴りを鳩尾にお見舞いする。濁った声と共に吹き飛んだ男が次に目にしたのは、美しく伸びるしなやかな足でー


「ぐぇっ⁈」


側頭部にクリティカルヒットしたサニアの蹴りを受けた男は、首の骨を鳴らしながら真横へと吹き飛ぶ。その際手放した槍をサニアは掴み、白目を剥いた男の首元に穂先を向ける。


「私の勝ちだ。」


既に意識のない男に告げながらも、彼の衣服を地に縫い付けるかの様に服だけを狙って穂先を突き出し、槍を返す。その凄まじい攻勢に観客は静まり返り、あまりの出来事の早さに目を点にしていた審判は、サニアが目の前に現れた瞬間ハッとしながら勝者の宣言を行う。


「し、勝者ーサニア・ローレン‼︎」


その宣言に観客は湧き上がる。凄まじい女騎士候補が現れた。その身のこなし、技のキレ、鍛え抜かれた四肢、幼さが残るも端麗な容姿。どれを取っても一級品であると豪語出来るほどに素晴らしい人だと口々に言う。そしてそれは観客だけでなく、待機室の受験者達にも見えておりー


「あの子はどこの娘だ?我が嫁にしたい。」


「何とも素晴らしい技のキレ。彼女程鍛錬を積んだ者がこの場に居ようか。」


「何という…無駄の無い筋肉‼︎女子にしてその柔らかさを保ちつつ、しなやかな筋肉を持っている…なんと、素晴らしいのだ…‼︎」


そして同じく試合を見ていたベリアルも頷き、サニアのその動きを褒め称えており、それでいて喜び1つ見せない彼女に対し疑問を覚える。

その疑問はサニアが待機室へと戻ってきた際、彼女の返答により解決された。


「何故喜ばないのか…ですか。この一戦で騎士団に入る事が決まる訳では無いですから。それに、私の目的は戦乙女として戦場を駆ける事です。その為の騎士であり、その過程に喜びなど一々見せていられません。」


「戦乙女か。…そこまでして騎士に入り何になる。その理由は聞けるか?」


「今は…まだ。すみません。」


一瞬放たれた憎悪の感情にベリアルは何かを察する。恐らく、戦乙女として崇められる程の功績を残さなければ、それは果たされない事なのだろう。それ程までに、彼女の貫く騎士道は、脆く細いものなのだと。それからベリアルはそれ以上の詮索は無礼とばかりに黙り込む。


その間寄り付く貴族を払い、次の出番までの時間を余したサニアは、守衛監修の下城内の散策を行っていた。

とはいえ、あまり離れすぎると欠場扱いを受けてしまう為、なるべく闘技場から離れすぎない距離で歩き回る。その最中。噴水の近くで出会った男と再び会う。


「先程ぶりサニア。素晴らしい戦いぶりだった。」


「これは貴族様。ありがとうございます。ですがどの貴族様にもお伝えしていますが嫁入りなどは身分の差がありますので考えておりません。」


この先言われるであろう言葉を先に切る。すると、驚きの表情を見せながらもその貴族はサニアの手を取る。


「その様な事を申しに来たのでは無い。サニア。君の戦いぶりを見て先程の無礼を詫びに来たのだ。」


「先程の…?ああ…。」


恐らく、噴水の近くであった時に遠廻しではあるが辞退する様告げた上で嫁に来いと申した事であろう。だが、それに対しサニアは首を振り、その手を離す。


「私の腕を一目で評価できたのはベリアル公だけでした。敵と剣を交えその中で生き延びた強者でなければ、相手の力量など一目で分かるものではありません。故に貴族様は詫びる必要は無いのです。」


「成る程、一理ある。我々の様な温室育ちでは通り過ぎる花の棘など気にする事は無い。だが…」


その瞬間、背中のクレイモアを取り出し、サニアの眉間に当てる。


「僕でも一合剣を交えれば力量は分かる。君との試合。楽しみにしている。」


「これは…。ええ、私も今の言葉を詫びましょう。貴族様はこの場の受験者の誰よりも鍛えられた様ですね。」


サニアは目の前の貴族の認識を改める。今の動きに1つの無駄も無く、身の丈程ある剣を片手でコントロール出来るその肉体は、普通の鍛え方では成し得ない筋肉によるものだった。

恐らく、裏金や名声では無く実力でのし上がろうとしているのであろう。その姿勢にサニアは驚きつつ、彼を1人の騎士として認めざるを得ない事に冷や汗が出る。

その冷や汗は焦りや恐怖によるものでは無く、思わぬ強敵が現れた事による喜びであった。


「サニア・ローレン。そろそろお時間ですのでお戻りください。」


隣にいた守衛に声をかけられる。その言葉を聞いてサニアは踵を返し、待機室へと向かった。

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