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戦乙女(ワルキューレ)が眠る丘で  作者: 雨音緋色
第3章ー誉れの道は険しく、少女の教えは騎士を導くー
28/31

3-7

 初の訓練から日が落ちる事14回。七曜で示す日付が14日変わり新兵達もサニアの訓練に慣れ始めてきた日の夜。リーンの呼び出しを受けたサニアは、彼女の部屋のソファに腰掛けていた。

 月明かりの差し込むリーンの部屋には、部屋主のリーンとサニア、そして2人の世話係のメイドが2人の計4人が居り、談笑するサニア達を2人のメイドが見つめていた。


「それで、訓練や隊には馴染めたかしら」


「ええ、とはいえ私は指揮を執る側なので馴染むというのも変ですが」


「いいえ、指揮を執るからこそ馴染まないといけないわ。指揮官と配下に確執があると戦場で混乱を招く恐れがあるの」


 苦笑するサニアにリーンは首を横に振り、優しい口調で戒める。恐らく、その様な部隊の顛末を見て来たのだろう。


 その後も、ここ最近の各国の動きや内政、果ては騎士の誰々が商人の娘を口説いていた等の噂話で盛り上がる2人は何時しか船を漕ぎ始めていたサニアの世話係を見て思わず苦笑する。


「ルーナ!お嬢様方の前ですよ?!」


「……っは?!失礼しました!!」


「いえいえ、構わないわ。サニアはいつも早寝早起きだからルーナもその生活に慣れ過ぎたのよね」


 横からリーンの世話係に揺らされ、申し訳無さそうに赤面したサニアの世話係ルーナに対し、リーンが微笑みかける。どうやら折檻などは無いらしく、ホッとした表情で頭を下げた世話係にサニアが話しかける。


「ルーナ、私なら大丈夫ですよ。もし私が明日朝起きれなかった時に備えて先に休んでください」


「えっ、あ……いつも申し訳ございませんっ……」


「ふふっ、仲良くなってるのね。サニアが人に敬称をつけないなんて始めて聞いたわ」


「い、一応最近ではヴォイドやレオルグにも付けてませんよ?!……けどそうですね。ルーナは私の大切な友人です」


 サニアの言葉に手で顔を覆い喜ぶルーナ。そんな2人の仲睦まじい関係に微笑むリーンは、グラスに入れられた葡萄酒を飲み干しゆっくりと立ち上がる。


「さて、もう月が真上を越えているわ。長々と話し込んでしまったわね。レイ、ルーナとサニアを部屋まで送ってあげて」


「かしこまりましたお嬢様」


 リーンの世話係レイに送られる形でサニアとルーナはサニアの部屋へと向かう。

 少し傾きだした月が照らす廊下を過ぎ、部屋のベッドへと身を投げたサニアは、自身の寝支度を済まし明日の準備をうつらうつらとしながら進めるルーナを寝かせ、自分も睡眠を取った。



 翌朝。ルーナより早く起きたサニアは彼女の代わりに必要なものを揃えてあげた後いつも通り外へと向かう。


「夜更けまで姉上と話していたのに相も変わらず早起きだな」


「ええ、フロイドさんも夜遅くまで書を読み漁っていた割には」


 若干目が充血しているフロイドが庭で稽古をしている様子を見つめつつ、サニアは軽く準備運動を行う。そしてて馴染み始めた木剣を手にフロイドと対峙した。


「今日こそ一撃触れさせて貰おう」


「さて、幾つ今日は打撲痕が残るでしょうか」


 ニヤリと口角を吊り上げる2人。小鳥の囀りが響く中、じわりと距離を取り合う2人は、飛び上がった小鳥の羽音を合図に地を蹴り風を切って距離を詰めたー



「親父、今日も俺の勝ちだな」


 朝食を済まし城へと着いた3人は、悔しそうに硬貨を手渡すレオルグとしたり顔で受け取るヴォイドと合流する。


「ぐぅ……サニア様、少しは加減しても良いのですぞ?」


「それは出来ません。フロイドさんの訓練になりませんから」


「いてて……姉上、其処まで俺は子供では無いですよ?!」


「はいはい、サニアに勝てたら認めてあげるわよ」


 どうやらここ最近フロイドが一矢報いる事が出来るかどうかで賭けを行っているらしい2人に笑いつつ、リーンの横で痛がるフロイドを心配するかの様に見つめるサニア。だが、その視線を感じたのかフロイドは強がりに近い表情で首を振り大丈夫と言い放った。

 元々ノリの良いヴォイドはギラン隊以外の騎士達とも交流が増えているらしく、フロイドやリーンは勿論近衛騎士達とも仲良く話している姿が見られる。特にその様子が見られ始めたのは彼らの家族が移住してきてからであり、心に余裕が出来たからかもしれない。


「おはようサニア。今日も頼んだぞ」


「おはようございますギラン様。今日も頼まれました」


 ヴォイドやレオルグ、フロイドと一時別れ騎士団幹部が集まる会議室へと足を運んだサニアとリーンは、一足早く待機していたギランと挨拶を交わした後所定の位置に座る。その後続々と現れた団長・副隊長達と挨拶を交わしつつ待機する事数分。ベリアルの到着と共に全員立ち上がり胸に手を当てた。


「おはよう諸君。早速だが会議を始める。着席するが良い」


 ベリアルの号令の元着席した一同は、国王や斥候から聞いた情報を元に会議を進める彼の言葉を傾聴する。


「今の所こんな感じだが。問題無ければ予定している合同訓練について話し合おう」


 淡々と話を進めるベリアルの言葉に誰1人異論を唱える者は無く、次の議題へと話は進んだ。

 合同訓練については至極簡単な説明が施された。内容としては副隊長が居ない近衛騎士団を除く全騎士団副隊長のうち半数が指揮を執り指導。残りの半数は隊に混ざり訓練といった形で行い、半年毎に指揮を執る副隊長を交代するといった内容だった。


「今年はギラン隊にも副隊長が生まれより実りのある合同訓練になると予想される。各員、気を引き締めて執り行う様に」


 説明を終えたベリアルに対し副隊長達は返事し、今年の指揮について誰が行うべきか話し始める。


「サニア嬢はどうなさる?」


「私ですか?私はどちらについても学ぶ事が多いので」


「成る程。ではこの度の合同訓練は騎士に混ざると良いかもしれませんな。実力があるとはいえまだまだ日が浅い。全体の流れを知る為にも体験するのが1番でしょう」


「了解しました。では皆様の胸をお借りしますね」


 副隊長の中でもリーダーシップを発揮している第3騎士団副隊長ジュラスは、席取りが激しいと言われる副隊長の座に最も長く在籍する壮年の男性であり、その実力はともかく桁外れの統率力を備えた幹部中の幹部だった。

 ジュラスが各副隊長に声をかけて意見をまとめ、その結果を元に指揮側と訓練側を決めていく。基本的には立候補優先だが、数が満たない場合は各隊の推薦による主張変更等行い、全体的な均衡を保つ形で決められる。


「今年は第3、第5、第6、第8、第10隊が指揮側となります。毎度ながら指揮側の立候補が少ないですな」


「それだけ他の副隊長の事を買ってるのだろう。その気持ちは分からんでもない」


 報告を受けたベリアルは話し合いを纏めて紙に書き写し、胸元にしまい込む。恐らくそれは王へと手渡され報告といった形になるのだろう。


 その後、各隊毎に指令を出したベリアルが会議室を出ると解散の流れとなる。サニアも同様に会議室を後にし、合同訓練に向けた基礎作りを徹底する為に新兵の訓練へと向かう。すると、何やら第2隊の訓練所には人集りが出来ており、中からは野太い声と自身の配下が言い争う声が聞こえた。


「同期のお嬢ちゃんに遊ばれている第2隊風情が生意気に出てけとはよく言えるなぁ?あぁ?」


「貴様、サニア様を侮辱したのか?!」


「やめろ!!サニア様を侮辱する事は断じて許しがたいものだが、ここで手を出せばサニア様に迷惑がかかるぞ!」


 野次馬に混ざり遠巻きに見ているとどうやら、別部隊の新兵の1人が第2隊を笑いに来ていたらしい。無論サニアとしては許すべきでは無い行為ではあるものの、あえて何も言わずに様子を見続けた。


「何がサニア様だ。あの嬢ちゃんなんて顔が良いから副隊長なんじゃねぇのか?」


「何だと?!貴様はあの方に腕が無いと申すのか?」


「あぁそうだよ。あの小娘なんて俺が殴ったら死にそうな程華奢じゃないか」


「ちょっとそれは聞き捨てなりませんね」


 否。好き放題言う新兵にやはり我慢が出来なかったサニアは、野次馬を掻き分けて大柄な男と自身の配下の間に立つ。

 突然の登場に両者は驚いたが大柄な男の方はすぐ様表情を戻しサニアを見下す。


「よぉ嬢ちゃん。良いところに来たな」


「おはようございます無礼なお方。城外はどうでも良いですが城内ではー」


 突然、サニアの言葉を遮る形で拳が飛んでくる。その拳はサニアの腹部に直撃し、サニアの体をくの字に曲げた。


「サニア様?!」


「出会い頭に説教なんて良い気になり過ぎなんだよ嬢ちゃん」


「おのれ貴様!!」


 突然の愚行に怒鳴る新兵達。その顔は怒りに燃え各々堪えていた怒りを爆発させる。正に一触即発。そんな時だった。


「……なんで……?!」


「甘過ぎるからですよ……!!」


 殴られて体を曲げていたはずのサニアの姿は消え、代わりに白目を向いて前のめりになる男と後頭部を膝で捉えているサニアの姿があった。

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