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戦乙女(ワルキューレ)が眠る丘で  作者: 雨音緋色
第2章ー初陣は唐突に始まり、少女は英雄への一歩を踏むー
19/31

2-8

 サニア達が解散した後、騎士団長達は作戦会議質に集まり腰を据える。

 歴戦の猛者達とは言え、一つ気を抜けば首と胴が離れる戦場は慣れこそすれど常に緊迫感は消えず、謁見を終えたこの時間が漸くの息抜きであった。


「しかし凄いものだな。『紅玉の花弁』は。ギランがあそこ迄熱望した理由が分かったよ」


 溜め息を吐きながら話しかけたのはフレスベルクだった。彼は自身の持ち場の都合上選定は部下伝いでしか聞いておらず、サニアの技を見るのは初めてだった。


「であろう。俺も最後まで粘ってきたリーンに譲らなくて正解だったと思っている」


「大人気ないのよ、ギランは。可愛い女の子なんだから唯一の女である私の所に来た方が絶対嬉しいと思ったのに」


「女……ねぇ。『薔薇の鬼人』リーンともあろう人が女の子アピールとは」


 軽く溜め息を吐いたギランを睨むリーン。彼女はその妖艶とも言える美しさを持ちつつも冷酷な騎士として有名であり、その非情さは騎士団長の中で最もと言われる程の女性だった。


「別に紅玉ちゃんを虐めるつもりはないわよ。と言うかあの子と正対して勝てるのギランとベリアル公位じゃ無いの?」


「だな。悔しいが団長並の武技を持ち今年漸く19という若さだ。伸び代も含め我々など相手にならんよ」


 苦笑しながら答えた第9団長・ニルヴァの言葉に一同も苦笑する。そんな中髭を触りながらフレディが頷きつつ口を開く。


「それにしてもだ。いい脚だ。腕もいい。発育最中……とは言え完成に近い体もいい」


「おいエロジジイ紅玉ちゃんの事そんな目線で見てたのか」


 ニヤけながら話すフレディにリーンは思わず立ち上がる。元々女性に対し不謹慎な発言が多いフレディはよくリーンの怒りを買い、それが元で決闘が始まる事がある。因みにその勝敗の殆どはリーンの圧勝で、フレディは何度頭を踏まれているのか分からない程だった。


「次はその頭を踏み抜いて紅玉ちゃんに団長の座を渡すか」


「それはそれでこの翁の新たな癖が出そうだ」


「気色悪いなっ‼︎」


「その辺にしておけ、2人共」


 言い争いを始めた2人を諌めたのは第3団長のゾートだった。2人の間に割る形で顔を出した彼はそのまま顔を掴み、机に叩きつける。その過激な止め方に思わず苦笑した一同は、先程までの空気を変えるかの如く談笑に戻った。

 暫く話していると、作戦会議室の扉がノックされる。一番下座にいるフレスベルクが扉を開けると伝令役の衛士が待っており、リーンの下へと駆け言伝を伝えた。


「あら、本当?有難いわ。無論問題無いと伝えて」


「はっ‼︎それでは‼︎」


 一礼し部屋を後にした伝令を見届けた後、彼女には珍しく喜びの表情で内容を告げた。


「サニアの仮住まいは私の家よ。王からの配慮で決まったわ」


「何⁈俺の家じゃ無いのか‼︎」


 リーンの報告に今度はギランが驚く。そしてギランに対し手を出したリーンに対し、悔しそうに舌打ちをする彼はその金貨を1枚乗せた。


「まいどありっ。やっぱギランは賭け事弱いわね」


「先代もそうだったな。家系として向いてないのだろう」


「命の賭け合いには強いがな。ディバート家は代々近衛騎士団長をしている。俺の退役後はギランが継ぐだろう」


 どうやら日常的に賭けを行っているらしい騎士団長達は笑いながらその様子を見ていた。

 その後、昨日から不眠のまま活動していた彼らは仮眠を取ると申し出たベリアルを皮切りにぞろぞろと部屋を後にした騎士団長達。敬意を表す守衛達に声をかけつつ城を出た一同は、目と鼻の先に家があるギランと城内に部屋を持つベリアルを除き各自呼んでいた馬車に乗り込み帰路に着いた。


 その頃サニアは王都西の貴族街にあるリーンの家を目指し散策していた。だが、周囲はどれも見慣れない豪邸ばかり。簡単に言えばサニアは迷子になっていた。


(困った……貴族街で尤も立派な建物と聞いているが……どれもこれも立派で甲乙つけれない……‼︎)


 予想外の事態にオロオロと周囲を見渡すサニア。すると、そんな彼女を不審に思ったのかとある家を警備していた守衛に声をかけられる。


「そこの女。ここは貴族街だ。何をしているんだ」


「あ、お疲れ様です。リーン騎士団長の家を探しているのですが……」


「新たな使用人か?身分を名乗れ」


「あ、はい……第2騎士団ギラン隊副隊長サニア・ローレンです」


 その言葉にギョッとする守衛。だが、 ギラン隊に此れ迄副隊長を定めたという情報がなかった事を思い出した彼は、怪訝な表情でサニアを睨んだ。


「どこかで聞いた名前だが、ギラン隊の副隊長は聞いた事がない。証拠はあるか?」


「あ、えっと……この勲章が証拠ですが」


「確かに副隊長の証だが……しかし……」


 首を傾げながら勲章を見つめるサニア。すると、思わぬ所から救いの手が伸びた。


「これはサニアではないか。この地に何用だ?」


「あ、これはフロイド様。実はリーン騎士団長の家を探しておりまして」


「姉上の?それならばここだぞ」


 たまたま正門の近くで本を読んでいたらしいフロイドが、守衛の脇から声をかける。守衛に対しサニアが騎士である事を話したフロイドにより中に招かれ、サニアはリーン邸へと無事到着でき、ホッと胸を撫で下ろした。


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