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戦乙女(ワルキューレ)が眠る丘で  作者: 雨音緋色
第2章ー初陣は唐突に始まり、少女は英雄への一歩を踏むー
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2-6

 一方レイバックの方も高鳴りの矢を聞き付け一気に駆け出す。こちらもサニア達同様軽装で攻め入り、左右に別れていたユーライ国の兵士達は瞬く間に敗走。弓兵総数8000の内5000の命が失われた。


「こちらも弓を放て‼︎サニア殿に……本陣に制圧の報せを‼︎」


 混乱する兵士を斬り倒し、レイバックが叫ぶ。すると、弓に多少の心得がある騎士が武器庫にあった長弓を番え高鳴りの矢を放つ。すると、サニア達から同様に制圧の報せとなる高鳴りの矢が放たれ、左右の敵陣を掌握した事が分かった。


「聞こえたぞ‼︎全軍、突撃‼︎今こそ逆賊を討ち払うんだ‼︎」


『突撃ィィィィィィッ‼︎』


 本陣では大正門に集まった騎士達ー総勢7万と9880人が楔形の突撃陣を敷いたまま待機しており、ベリアルの号令と共に野を駆け始める。巨大な鏃となった騎士達は2キロはあろう道程を風の如く速さで駆け、宵闇の中土煙を上げ進軍する。


「なっ……敵襲‼︎敵襲だ‼︎総員‼︎配置につけ‼︎」


 一方、騎士団の進軍に気付いた連合軍は陣の中に灯火を廻らせ眠りについている兵士や将を起こし始める。だが、今更起床した彼らに流れたのは本陣の突撃だけではなく、ユーライ国の弓兵が全て討ち死にした悲報だった。


「くそ、夜襲とは遂に奴らも誇りを棄てたか‼︎迎え討て‼︎我らが誇りを見せろ‼︎」


 何とか体勢を立て直さんとばかりに鼓舞をする連合軍。そしてそのまま迎撃の構えをとり、弓兵を高台に配備する。


 しかし、その弓兵は矢を放つ事なく息を止めた。左右からの挟撃である。


「伝令‼︎現在我らは3方向からの挟撃状態です‼︎ここは一度退陣を……ッ‼︎」


「ならぬ‼︎今引けば奴らはそのまま国へ流れるかも知れぬ‼︎さすれば2度と首を取る機会は無い‼︎全軍、耐えろ…耐えるのだ‼︎」


 総大将を務める男は断固として首を横に振る。そして自らも鉄鎧に着替え、その胸の内にある家族からの手紙を思い出す。


「……俺が死んでも、元気で生きてくれ……」


 意を決し宿舎を出て騎士団を正面にドンと構える。狙うは一瞬。ベリアルと交差する瞬間奴の首を取る。この地にあの闘神を眠らせるのだ。


 だが、その野望も左右からの次々に撃破される自軍の報告を聞き絶望的なものへと変わる。マルナ国の軍も潰えた。自軍の兵しかもはや居ない。だが、この誇りだけは……誇りだけは誰にも止めさせやしないー


「失礼、敵軍総大将。ジャカール国将軍ライド殿とお見受けする。覚悟‼︎」


「ぬぅ⁈貴様どこから…‼︎」


 一足先に敵陣に着いたレイバックは、その手に倒した兵士から奪った大剣を持ち、大上段から振り下ろす。それをすんでのところで回避したライドは馬から落馬しつつも、直ぐ様体勢を立て直し剣を構える。しかし、彼の集中を削ぐ形で後方から放たれた矢が鎧の関節部を撃ちぬき、思わず後方を振り返る。

 すると、そこに居たのは遥か先の高台から短弓を構える少女でー


「御免‼︎」


「ぐぁ……っり、リン……シ……ッ」


背後から斬りつけられたライドは絶命。更なる混乱が兵士を襲う。指揮官を失い、前後の挟撃を受けている。正に四面楚歌となった戦場は彼らにとって墓地でしかなかった。


 結局、本陣が到着した頃には武器を棄てその場に座り込んだ兵士1万余りが投降を申し出た。それに対し治安が悪くなる事を懸念したベリアルは拒否。その代わり彼らを自国に返す約束をし、身に付けていた武具の全てはアルトリア国に献上された。


「勝鬨を上げろ‼︎戦は我々の圧勝だ‼︎」


 大きな歓声と共に右拳を挙げる騎士達。そしてその視線はサニアに集まり、全員が敬礼をしてサニアを讃える。


「此度の戦、貴女の策と活躍が無ければ辛勝となっていただろう。改めて感謝する。サニア」


「いえ、こちらこそ私の策を即座に取り入れて頂き感謝します。そして、騎士としての誉れなき戦いを選んだ事……皆様に謝罪申し上げます」


 全員が驚く中サニアは深々と頭を下げる。それを見たベリアルは首を横に振り優しく声をかけた。


「何を言う。確かに誇りこそなかれど国を守ると言う誉れは失われていない。策を練り優位に戦況を動かす騎士の何処に誉れなきと申すのか。サニア。貴女は勇猛果敢に戦いその身一つでこの戦どれ程の敵を倒した。それこそが貴女の騎士としての誉れよ」


「ありがたきお言葉。感謝します」


「我らが雄なる誉れ‼︎『紅玉の花弁』サニア・ローレンに栄華あれ‼︎」


 ギランの一声に再び歓声が上がる一同。そしてその熱が止まぬまま騎士達は悠々とアルトリア公国へと帰還した。

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