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戦乙女(ワルキューレ)が眠る丘で  作者: 雨音緋色
第2章ー初陣は唐突に始まり、少女は英雄への一歩を踏むー
16/31

2-5

 夜。

 空一面に闇の帳が降り、星々が瞬く頃合いを見てサニアは、500の騎士を引き連れ大正門から見て東。商人用の門である東門から出陣した。

 同様にレイバックは反対側の西門ー軍事用の緊急出入り口から出陣する。

 サニアの部隊は山沿いに、レイバックの部隊は海沿いに進軍し、第1地点と決めていた場所へと到着する。


「ここまではどちらも無事到着しましたね」


「はっ。……所で何故あちらの様子が?」


「え……ここからでもレイバック様の指先までしっかりと見えますが……」


 その言葉を聞き愕然とした騎士は黙り込む。だが、それもその筈。各々の距離は現在2キロ程離れており、常人の視力ならば完全な平地でも見るのがやっとの大きさである。

 サニアの人並み外れた、野生的の感覚の鋭さに改めて素質の違いを教え込まれた騎士は、それ以上無粋な質問をせずにサニアを見つめた。


「これより先は先程教えた戦術となります。軽装で音を立てず、武器はその場で調達。無ければ関節を決め気絶させて下さい」


『はい、わかりました』


 必要最低限の事を伝えたサニアは、号令用に使う弓矢だけを持ち、この地点には愛剣と皮鎧までもを脱いでいく。

 下着姿とまではいかないが、胸当てと腰当てが丸見えの状態になったサニアに、騎士達は思わず目を見張る。


「いや、サニア様……その格好は流石に……」


「?私は普段この格好で狩りしていますので、お気になさらず」


 それだけ言いサニアは先に進み始める。だが、気が気でない騎士達は騎士憲章を頭の中で音読しつつサニアの身体から必死に目を背ける。そんな中で第2地点に到着した一同は、目に見えて近づいた敵陣と、その手前にある第3地点を見つめる。


「どうやら見張りを行っている兵は少ない様です」


「……成る程、しかしおかしな話ですな」


「……と言うと?」


 サニアの傍に初老の騎士が近づく。そして彼の感じた違和感を伝え始めた。


「通常慣れぬ土地の初夜ならば夜襲の警戒は行うかと。地の利が相手にあれば尚の事」


「ーッ⁈確かに……‼︎つまり、罠の可能性が⁈」


「それだけならば良いのですが。もし相手側が地の利を得ていた場合、同じ事を行っている可能性があります」


 初老の騎士が言った言葉に息を呑む。確かに、あれ程綿密に密偵を送ってきていた連合軍だ。この地を理解していない訳がない。

 その可能性に顔を顰めたサニアは、一同に第3地点への移動を命ずる。そして目の前の宿舎に映る人影を見て、頷いた。


 だが、ここで予期せぬ出来事が起こる。既に寝静まっていてもおかしくはない筈なのに宿舎は明るく、そして沢山の兵士が映っていた。これでは夜襲をした所でこちらが返り討ちにあう可能性が高い。

 仕方なく一同に待機の合図を送ったサニアは、辺りの様子を見る為単身敵陣に潜んだ。


「騎士団の動きはどうだ?レオルグの猪武者共に声をかけた成果は出たか?」


「いえ、それが……」


「ほう?左様な女騎士が居たとは。して、その見た目は?」


「はっ、まだ幼さの残る少女でー」


 宿舎の陰側から耳を当てたサニアは、中に人がいる事を確認する。どうやら何処かの国の敵将と部下の伝令役らしい。


「よい、良いぞ。明日はその者を捕らえ儂の世話役にしようか。何。騎士団には弓を使える者は少ない。陣を動かし奴らに近づけば格好の的だ。」


「確かに。流石はユーライ国を任されたニルバ様です」


「よいよい。明日からはアルトリア国の将になるのだ。大国の大将とはさぞ気持ちよいだろう」


 目の前の宿舎で話す内容に寒気を感じたサニアは、すぐ様切り捨てたい衝動を抑え次の宿舎へと動く。その道中、矢筒が保管されている無人の倉庫を見つけた為そこから数本、矢をくすねた。

 近くの宿舎を大方回った所、どうやらこの場で陣を敷いているのはユーライ国の兵士のみという事が分かり、その情報を待機している騎士達の元へと伝える。


「成る程。確かに彼奴等は弓に長けた軍を持っています。アルトリアから遥か西のユーライ山を拠点にする山民国家ですから。地形を活かし戦う為に弓を鍛えていると聞きます」


「成る程。では今日の遠矢もこの国の兵士ですね。ここを潰せば騎士団の進軍が叶います。あちらもそろそろ夜目に慣れた頃でしょう。……そろそろ動きますよ」


 サニアの言葉に頷き、音を最小限に抑え少し散開した騎士達は、サニアの号令を待つ。ここからではレイバック達の様子は見えないのが唯一の難点ではあるが、余り長い間この場に居続けるのも騎士達の精神的な面での重圧が増す一方だった。


 草むらに身を潜め機を待つ。すると、目の前の宿舎から伝令役らしき人物が移動し、中の灯火が消えたのを機に辺りの宿舎が一斉に暗くなる。


「……ッ‼︎仕掛けます……‼︎高鳴りの矢で静かに突撃を……っ‼︎」


 小さく囁いたサニアの言葉に頷く騎士達。彼らの緊張感が高まり、小さな汗が額から流れる。そして、サニアは先程宿舎からくすねた矢を番えー


「ウッ……‼︎」


「ん?……グゥ……ッ‼︎」


見回りをしていた兵士2人の首を貫く。周りにそれ以上の見回りがいない事を確認したサニアは次いで高鳴りの矢を番え点に向け放つ。本来、狩りの始まりを知らせる為に使うそれを聞いた一同は、音も無く宿舎に張り付いた。そして鏃を器用に使い宿舎に覗ける程度の穴を開け確認する。


 無言で頷いた一同。それを見たサニアは手で突撃のサインを送りー


「なっ何者ーグァッ⁈」


「夜襲だと⁈全員に伝えーゴフッ⁈」


 入り口から堂々と入った一同は、すぐ様中を駆け抜け襲撃を開始した。

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